テーマ企業インタビュー:株式会社島田電機製作所
2020年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。
2020年度は、テーマ9件の発表をおこない、11月3日(火・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
お話:株式会社島田電機製作所 代表取締役社長 島田正孝氏 営業技術部開発グループ長 山本光彦氏 製造部アクリルグループ長 後藤敦也氏
創業以来エレベーター用意匠器具を手がける島田電機製作所。日本の高度経済成長時代と併走してきたともいえるその歩みには歴史の重みを感じる。近年ではビルの高層化にともなうエレベーターメーカーの発展により事業をグローバルに展開する。精度の高いアクリル樹脂の精密切削加工技術を中心に、自社の工場による一貫した生産体制の確立によるきめ細やかなものづくりに世界が注目している。
日本のビルとともに歩んできたものづくりの歴史
ーー工場内がすごく整っていて、働いている方も若い方が多いですね。1933年創業ということでエレベーター用意匠器具を手がける会社としては老舗ですね。
はい。長年この仕事に取り組んできました。創業は1933年ですが1949年に株式会社化をしてこの8月で73期を迎えました。
ーー島田さんで何代目になりますか?
私で5代目になります。
ーー創業当初からエレベーター意匠器具を手掛けられてきたのですか?
そうです。創業した1933年当時はエレベーターが一般に普及する前ですので詳しくはわからないのですが関連するものをつくっていたと聞いています。創業の地は港区白金で、工場拡大のため烏山で70年以上、2013年に現在の地に移転してきました。エレベーター事業一本でやってきた会社です。まさに日本の都市化が進む中で当社も一緒に成長してこられたと思っています。
ーー具体的にはどのようなものを制作されていますか?
エレベーターの押しボタンや到着灯など、意匠を重視した電気製品を専門につくってきました。エレベーターといいましてもそのうちの3/4ほどが規格エレベーターというもので、残りの1/4がオーダーメイドエレベーターといって建物ごとにエレベーターも設計する特殊なものになります。当社は特殊エレベーターに関する製品のみをやっている会社になります。ですので当社の製品はすべてご依頼をいただいてその都度デザインしてつくるオーダーメイドに特徴があります。
ーー製品はどのようなところで使われていますか?
日本全国のオフィスビル、ホテル、商業施設など国内シェアは約6割で、多くの建物に当社の製品が収められています。ただ製品は大手のエレベーターメーカー様の依頼によりつくっていますので、当社の名前で現場に収められるものではありません。
ーーデザインも手がけられているのですか?
意匠に関してはエレベーターメーカーさんが担当の建築設計事務所さんとデザインしたものを弊社で実際につくれるかを検討し、そこで具現化できる形を当社でご提案させていただいております。
ーー製品を実現化する技術的な部分を支えているわけですね。
構造の設計まで当社でやっていますので、そういう意味では一式手がけていることになります。
ーー御社の特徴としては自社での一貫生産体制がありますが、そのような体制をもつようになった背景を教えてください。
創業当時は機能品として安全に動くことが最優先で、いまほど意匠性は求められてはいませんでした。80年代以降次第にデザイン性が求められるようになり、意匠器具がつくられるようになったことで、アクリル、意匠板金、そして組み立てとオーダーメイドの一貫生産体制を整えてきました。
ーー御社の製品で一番古いものはどのようなビルに納品されたものでしょうか。
もっとも古いものはわからないのですが、日本初の高層ビルである「霞ヶ関ビル」に当社の製品を納めました。そういった意味では日本の高層ビルの歴史に当社も関わりながら成長してきました。
現在の一貫体制を整えていった背景にはお客様からの声にお応えしていくなかで、アクリルのみ、板金のみの製造というわけにはいかなくなり、それらの加工と電気品の組み立てまでトータルしてすべて整えていく過程でそのようになりました。その都度嵌め合い、取り合いというものを調整しながら製品をつくっていきますので、それらの工程をすべて社内でできることを当社の強みとしてきた背景があります。品質だけでなく、納期対応までできることが一貫生産体制によるメリットだと考えています。
デザインの力でさらに強みを引き出す
ーー今回の応募テーマである「アクリル樹脂の精密切削加工技術」についてと応募動機を教えてください。
まず違いという部分でいいますと、ひとつには、薄いアクリルの板を加工することはいろいろな業界でもやられていますが、当社の強みは厚みのあるアクリル材をさまざまな立体形状に美しく加工ができる技術に特徴があります。そのなかで照明器具、サイン器具といったエレベーターの意匠器具制作で培ってきた技術をほかのことに応用できないかというのが今回の応募動機でした。当社は長年ひとつのことを考えて続けてきた会社ですので、どうしても希望はあってもあたらしいことを考えるというところまでは挑戦できていませんでした。今回よい機会をいただきましたのでデザイナーの方のお力をお貸りしてデザインの力で本質的な強みを引き出していただければと思っています。
ーー先ほど工場を拝見させていただきアクリルの塊が置いてありましたが、どのくらいの厚さのものまで加工は可能ですか?
120ミリ程度のものまで可能です。
ーー直線の加工だけでなく、3次元の加工も可能ですか?
はい。成形や型でつくるわけではなく、プログラムを組んで切削しますのでいろいろな形状のものをつくることができます。
ーー加工におけるこだわりはありますか?
ひとつには精度、それと透明度にはこだわりがあります。それと透明と乳白など異なるアクリル同士を接着する際の接着面がわからないほどの仕上げの美しさをもった接着技術です。さらにそれを加工してきれいに仕上げていく技術になります。それと意匠板金では薄板から厚板まで高い精密加工と仕上げをすることができます。
ーー美しく仕上げる難しさはどのようなところにありますか?
やはりエッジの部分をたらさないように、きれいなエッジをだすように研磨をする部分ですね。機械で加工した場合、そのままバフ研磨をしてもあまりきれいに仕上がりません。番手の順に紙やすりで目を細かく研磨するなど何段階も手間をおしまないところでしょうか。
ーー今回のアワードへの応募もそうですが、お話をうかがってつねにあたらしいことにチャレンジしていこうという精神を感じます。そのモチベーションはどのようなとこにありますか?
時代はつねに変化していますので自分たちも柔軟に変化していくことが大切だと考えています。長年下請けとしてご依頼を受けてしっかりとした製品で応えるということをやってきましたが、既存のお客様のためにもただ単に受け身の姿勢でものをつくっているだけではだめで、企業としていかに自立していくかを考えることも重要だと思っています。12年前には自力での中国への進出、最近では自社製品も開発し自社ブランドを立ち上げて自分たちから提案していくことをはじめました。これからの時代専門メーカーとして自分たちから提案することも大切だと考えています。
ーー自社ブランドではどのようなものをつくっていますか?
エレベーターのボタンや照明器具になります。近年では新規設置に加えリニューアルのご相談も増えています。リニューアルにあたり薄型の壁掛け式などの現代ならではのニーズも増えています。壁を壊すことなく取り付けることができる導光板などの開発も行っています。
ーーほかにはどのようなものがありますか?
特に日本はエレベーターのデザインに対する要求が高いと思っています。80年代や90年代には装飾的で見た目に派手なものが高級感があるとして求められてきたのですが、次第にシンプルで洗練されたものへと傾向が変化してきていることを感じています。中国にも会社を立ち上げたのですが、中国の状況から日本をみるとあらためて国内におけるデザインの傾向の変化を感じます。私がみる限り中国では80年代の日本のようなきらびやかなものと、逆にもっと先をゆく先進的ともいえるものが求められている状況があります。
ーー「ふつう」のものをつくるという方が逆に難しいのかもしれませんね。これからの時代、御社が長年培ってきた技術力が一層活かされるような気がしています。
そうですね。私たちが大切にしているは、クオリティと同時にコストの面も含めてお客様のニーズにあったものをいかにつくるかということです。そのバランスが大事だと思っています。
柔軟は発想でのものづくりをめざして
ーーあらためて今回ビジネスデザインアワードでやってみたいのはどのようなことですか?
究極的には自分たちの「強み」を見つけたいと思っています。これまでやってこなかったことをやることで自分たちが進化できるという思いが一番のポイントです。エレベーターのあたらしい意匠器具を開発することに限定せず、当社の技術を応用して建築インテリアをつくることもできると思います。
もうひとつはエレベーターの表示機の専門メーカーがつくる一般消費者向けの製品をみてみたいという思いもあります。製作に関しては、当社で一貫体制でできますし、協力会社さんとの関係でさまざまなことができる体制も整っています。エレベーターというのはいろんな業種を凝縮した部分もあって、その意味で大体のことができるのではないかと自負しています。
ーープロしか知らないアクリルでこんなこともできる、ということはありますか?
そうですね(笑)。アクリルに特色で色をつけたり色はいくらでもだすことは可能です。それと違う材質のものをアクリルのなかに埋め込むことや泡を閉じ込めるようなこともできます。加工性が高いこともアクリルの強みです。弊社は文字入れの技術にも自信があります。アクリル面に印刷が一番簡単なのですが、それだとエレベーターの文字盤のようなものの場合は触っていくと剥がれてしまいます。弊社では細い刃物で文字を彫り込んで色入れをして面を平らに仕上げる技術をもっています。
ーー先程工場で実演していただいた彫刻による点字仕上げもそうですがこれもとても美しいですね。御社ではオリジナル商品としてオンラインショップではキーホルダーも販売されていますね。
ありがとうございます。当社ではエレベーターのアクリル製のボタンをキーホルダーにして販売しているのですが、それも好評でそういったものも喜んでいただけるんだとあたらしい発見もありました。エレベーターをフックにした商品もつくれたら面白いと考えています。当社では玩具ととらえているわけではなく、ひとつひとつ本物の製法でクオリティをそのままにつくって真剣に楽しんでいます。
ーーコロナ以降働くことも変化しつつありますが、御社でも何か考えていることはありますか?
企業は人なりという考えをクレドとして掲げてこれまでやってきた会社ですので、あらためて人が生き生きとして働ける環境が大事だと思って取り組んでいるところです。当社ではプロ意識の高いメンバーで「難しいは新しい、だから面白い!」をスローガンに掲げています。
ーー今回のアワードではどんなデザイナーと協働してみたいですか?
私がいいなと思うのはハイブリッドな感覚です。かたさとやわらかさなど、柔軟な考えをもった方と出会いたいです。当社は製造業ですがサービス業のような考え方で仕事をしていこうとみんなには言っています。考え方もふくめていろいろなお話ができる方と一緒にワクワクするようなものづくりを実現したいと思っています。
株式会社島田電機製作所(八王子市)https://www.shimada.cc
テーマ:オーダー意匠器具製作で培った「アクリル樹脂の精密切削加工技術」
1949年に設立以来、一貫してエレベーターのオーダーメイド意匠器具をつくり続ける。戦後日本で都市化が進みグローバル化する近年まで、エレベーターメーカーの発展と共に成長し、多様な経験と実績を積み重ねて市場における信頼を築く。「社員の成長なくして会社の発展はない」という基本理念のもと、社員と共に新しいこと、難しいこと、面白いことにも積極的に取組んでいる。技術や仕事の質を高め新しいことに挑戦し続け、製品・技術を通じて多くの人に「未来をワクワクする」体験を提供することで、世界に認められるオンリーワン企業を目指している。
インタビューと写真:加藤孝司
2020年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 11月3日(火・祝)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/