テーマ企業インタビュー:株式会社千葉印刷
2020年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。
2020年度は、テーマ9件の発表をおこない、11月3日(火・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
お話:株式会社千葉印刷 代表取締役 柳川満生氏
昭和40年、和文タイプライターを使用し謄写印刷として創業。その後、ダイレクト印刷、オフセット印刷、オンデマンド印刷、製本を行う。渋谷の街中に位置し、アクセスの良さも魅力な印刷所。オンデマンド印刷の優れた価値を伝えたいと日々奮闘する。代表取締役の柳川満生氏に印刷にかける思いを聞いた。
オンデマンド印刷の可能性を拡張する
ーー御社ではさまざまな印刷を請け負っていますが、現在はどのような印刷のオーダーが多いのでしょうか?
最近では、印刷部数の小ロット化からオンデマンド印刷のオーダーが非常に多くなっています。ただの少部数の印刷であればコンビニコピーでもできますが、当社にいらっしゃるお客様は品質に拘りをもっている方や、印刷表現、用紙、納期で悩まれている方が多く、お客様と一緒になって印刷物を作り上げています。
ーーそうなんですね。
オーダーしていただいた方の印刷物が、口コミで広がっていき、他のお客様へとつながっているという実感があります。
ーーどんな理由でみなさんに使っていただいていると思われますか?
一番は人とモノが行き交う渋谷という場所でやらせていただいていることが大きいと思います。なにかあったらすぐ来られる、そして、さまざまな用紙や印刷物を実際に手にとって見ていただけることを重視していますので、その部分を評価していただいていると思います。
ーー創業も渋谷ですか?
はい。渋谷駅周辺で何か所か移転し、15年前からこの場所でデザイン、DTP,印刷、製本、加工までを一貫して行っています。
ーー今回の企業テーマについて教えてください。
42億色と聞いて驚かれますよね。その意味は、プロセス4色で256階調、CMYKの4色を256で掛けていくと1677万色表現できるんです。今回のアワードでみなさんにおすすめしたい「イリデッセ」では5色で印刷できます。なので、1677万色掛ける256階調なので「42億色」になります。それがなんぞやと思われてしまいそうですが、弊社ではイリデッセの特徴である、ゴールド、シルバーのどちらかプラス1色した「メタリックカラー」をフルに活用したいという思いがあり、この機械を導入した経緯があります。メタリックチャート見本帳もつくりました。
ーーこの見本帳はすごいですね。千葉印刷さんがオリジナルでつくったのですか?
弊社のオリジナルです。イリデッセは今まで出来なかった色表現ができる機械だということを知ってもらうためにつくりました。
ーーすごいです。イリデッセのメリットを上げるとしたら?
まず、スピードです。そして出力した文字や図案が太ってつぶれにくいこと。たとえばシルク印刷ですと白がつぶれるということがあるのですが、イリデッセの場合、白抜き文字はつぶれを、黒文字は太りを自動で調整するので文字がつぶれにくい。そのため小さな文字や細い線を使った表現の可能性も拡がります。サンプルをお見せすると「こんなにきれいにできるのか」とみなさん驚かれます。
ーーメタリックの見本帳は3冊ありますがその理由は?
メタリックは、ゴールド、またはシルバーの配合80%が一番綺麗なのですが、もっとゴールド、シルバーの配合率が少ない色が見たいという方もいらっしゃいますので、30%と50%の配合のチャートもつくりました。これはどこにもない、弊社にしかないチャートになります。このチャートをつくらないとデザイナーさんも、お客様も、色のイメージが湧かないと思いますのでつくったという経緯があります。お客様が「イリデッセってなんでも出来るよね」というところまで持っていきたいんです。最近、導入しましたピンクトナーでの掛け合わせの表現にもハマっています。
質がよいものをスピーディーに
ーー今回オンデマンドにフォーカスした理由をもう少し教えてください。
先ほど小ロットが多くなったという話をしましたが、オフセット印刷の場合、割高感がでたり、インクの乾きの問題、紙のセレクトで、対応できることが限定されてしまいます。オンデマンド印刷なので、1枚でも100枚でも安価でスピーディーにでき、さらに綺麗に出力できるので、あたらしい表現ができればと思っております。
ーーイリデッセは国内ではどのくらい設置されているものなのですか?
正確にはわかりませんが、メーカーさんからは国内で100台以上とお聞きしています。 100台以上ありますが、メタリックと言われてもなかなか想像できないと思います。
それだけ、世間に認識されてないことがわかります。ある時、展示会に掲載依頼があり、デザイナーさんにメタリックカラーを使ったデザイン協力を依頼、その時に沢山の用紙にメタリックで表現することができ、デザイナーさんも綺麗さ、色の出具合にビックリしておりました。
ーー紙もバリエーション豊かにさまざまなものに印刷できるのでしょうか?
薄い紙から厚い紙、一枚から本番で印刷できます。
4/6判換算で44kgから465kgまでで、A4で1分間に120枚の速度で出力、ピーチコートなどのビニール系、ユポ、シールなど、見本帳にある8割程度の紙に印刷でき、その後、断裁やプロッターカットすることもできます。
また、弊社ではカード貼りロボットもあり、自動でカードを台紙に自動で貼り付けることも出来ます。
ーー千葉印刷さんのノウハウがあれば、イリデッセの5色のトナーのチューニング次第でさまざまなことができそうですね。
そうです。お客様に待たせすることなく、その場ですぐに答えをお出しできるのが弊社の強みです。「このデザインでこの用紙に印刷するとこうなります」の対応がすぐに出来るので、トライ&エラーをクイックにフィードバックすることもできます。お客様にとっても質のいいものがスピーディーに、それもオンデマンド印刷のメリットのひとつです。
ある美術学校の生徒さんのあいだで、「千葉印刷なら用紙を選べ、きれいなポートフォリオ制作ができる」と口コミで拡散していますよと、嬉しい声も聞きました。
42億色の可能性に挑戦したい
ーーよりよいクリエイティブの実現にもつながると。
そうです。たとえば「写真集を20部つくりたい」という小ロットの要望は、イリデッセ、オンデマンド印刷の強みが活かせる武器だと思っています。メタリックを含めた42億色の可能性をどこまで表現することができるのかに挑戦したいです。
ーー今回イリデッセにこれほどまでにフォーカスをする問題意識があったのでしょうか。
業界的にはBto Bが大半なので、そうすると技術もやることも限定的になります。今回はデザイナーさんのお力をお借り、こういうものができるんじゃないかといった、カスタマー的視点を持ちながら、個人で気軽にできる方向でなにかご提案していただきたいと思っています。もう一つは、豊富な用紙、材質、メタリックカラーによる無限ともいえる可能性をもつ弊社の技術で、加工、製本を含めて何ができるのかをぜひ試したいと思っています。
また、現在、オンデマンド恐怖症(笑)という方もまだ沢山いらっしゃいます。クライアント、デザイナーさんでも、「オンデマンドはNG」という方はいらっしゃいます。今回をきっかけにオンデマンド印刷イリデッセで出力した階調の細かさや、白、ピンク、メタリックの表現をぜひ見ていただきたいです。
ーーその多様な技術に加えて協力会社との協働も可能ですか?
様々な協力会社で協働可能です。「丸く抜く」「組み立てる」などもできます。出力したものを二次加工することでデザインも広がっていくと思います。以前、富士ゼロックスさんが、イリデッセを使って、美術大学の学生さんと華道家の假屋崎省吾さんとのプロジェクトがありました [11] 。メタリックカラーの紙で花びらをつくり、それで学生さんと假屋崎さんが生け花をつくるプロジェクトでした。とても素晴らしい表現が出来ておりました。
今回、私どもとしてはお金儲けは二の次だと思っていており、可能性という部分での商品化、製品化で何かできれば嬉しいです。あまり僕の方で可能性を決めずに、デザイナーさんには自由に考えていただきたいと思っています。
ーーどのようなデザイナーと出会いたいですか?
一番は印刷が大好きな方ですね。印刷物を手にした人に喜んでもらえるようなことができるデザイナーさんととことんやりたいです。
ーーチャレンジし続けるモチベーションは?
そこに山があるからです(笑)。本当に印刷に関して悩んでいる人が多いんです。つくりのいい本をみてこんな印刷物をつくりたいと思っている方は多いけど、どこに頼めばいいのかわからない。自分の規模や資金のことを考えると大量にはつくれないから大手には頼めないし、相談もできないという声を聞きます。弊社では「相談」に力を入れています。実は相談から仕事って始まるんですよね。一緒にトライアンドエラーを繰り返し、お客様も自分たちも満足のいくものをつくるのが私の喜びです。
印刷会社なので大量印刷もやりますし、利益を大切にしながらも、これまで出来なかったことを可能にしていく。それと同時にスタッフの「やりがい」「面白い」と思ってやってくれるのも、私のモチベーションです。
デザイナーのみなさんどうぞ課題をください。みなさんのご提案を楽しみにしています。
株式会社千葉印刷(渋谷区)https://www.chiba-print.co.jp
テーマ:42億色を鮮やかに表現する「オンデマンド印刷技術」
1965年11月にタイプライターを使い、軽オフセット印刷をスタート。現在、渋谷区円山町の自社ビルで、DTP、オンデマンド出力、オフセット印刷、各種製本機を取り揃え、様々な印刷物を受注。お客様に喜んで頂けるスピードとクオリティーを提供している。社内の雰囲気はアットホームでありつつ、経験豊富な職人や新人も含め、新しい印刷技術、表現の可能性に挑戦している。対面での相談をおこなうことで、仕上りが見える印刷を提供してきた。後世に残る印刷物、感動を与える印刷物の作成を目指している。
インタビューと写真:加藤孝司
2020年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 11月3日(火・祝)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください