公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

「未来のスタンダードを考える 誰のためにものをつくるか?」開催レポート

2019年7月に名古屋で当会矢島が聞き手で参加したトークイベントの開催レポートです。


Creative Café Nagoya Vol.9

ユネスコ・デザイン都市なごや×中部デザイン団体協議会

「未来のスタンダードを考える 誰のためにものをつくるか?」


日 時 2019年7月12日(金)

会 場 ナゴヤ イノベーターズ ガレージ(名古屋市中区栄3-18-1 ナディアパーク・デザインセンタービル4階)

ゲスト 鈴木啓太(PRODUCT DESIGN CENTER 代表取締役)

聞き手 矢島進二(公益財団法人日本デザイン振興会 理事 事業部長)

進 行 江坂恵里子(ユネスコ・デザイン都市なごや推進事業実行委員会 プログラムディレクター)


鈴木:こんにちは。鈴木啓太と申します。仕事はプロダクトデザインです。愛知県出身で、多摩美術大学からNECに入って、2012年に自分の事務所「PRODUCT DESIGN CENTER」を構えました。小さなグラスから、大きな鉄道車両までやっています。クリエイティブディレクターの水野学さんと、中川政七商店会長の中川さんの3人で、「THE(ザ)」というプロダクトのメーカーもやっています。

2011年、東日本大震災があり社会の価値観や、みんなが物に対して持つ感情も変わり、これ以上、物はいらないなと僕自身が思っていた頃、本当にシンプルで機能的でミニマムな物で、きちんと豊かに暮らせるということを、自らが事業者として実践して社会に出そうという挑戦でした。現在では、東京、京都に1店舗ずつ、今年(2019年)秋には渋谷、2020年は横浜、と拡大していく予定です。

「未来のスタンダードをつくる」

物をつくる行為は、人類が石器時代から絶えず行ってきたこと。昔は単一の技能を持った職人、技能者が1人でしたが、いまはiPhoneに代表されるように、まず筐体があって画面があって、画面のデザイン、エンジニア、材料、もはや誰がつくっているか分からないのが現代の物だと思います。

僕はいまの集団的な創造の方がおもしろいと思っています。IoTによって、プロダクトもサービスやソフトウエアと紐付き、iPhoneの中も細いチップやデバイスが入っていて、たくさんの人が関わっている。一方、都市も小さなプロダクトの集合体で、ビル、信号、標識、横断歩道、自転車、車、すべての連なりで一つの物事が形成されている。そういう時代感です。

脈々と続く、物をつくる、人が創造する行為を、どうやったらアップデートして次につなげていけるかを考えています。

いまの日本はさまざまな物事が成熟している時代。一生かけても使い切れない、選び切れないぐらい物があふれています。たくさんつくって、使って、豊かになるということを信じてきた。これ以上、物がいるのか。

他方で物事がデジタル的、スマートフォンのようなものに物が集約されている。人類の歴史を見ると、時代に合わせてすべてのものは進化し、淘汰されていく。これからたくさんの物が、デザインがいらなくなり、一つ一つが象徴的な存在になる中で、一体どういう物が残るのか。

2012年にTHEで最初に作った商品はシンプルなグラス『THE GLASS』です。耐熱ガラスで、これ一つあれば冷たい物も熱い物も飲める。丈夫で、すべての人が持ちやすい。本当にスタンダードで、背骨を持った物、「本物」だけが残っていくと思います。僕がフューチャー・クラシックスと言っている、「未来のスタンダード」の構成要素は時代によって変わると思いますが、いま考えていることは3つ、ローカリティ、環境、リンクウィズです。

1. Locality ローカリティ

東京ではいま、オリンピックに向けて再開発が進んでいますが、みんなが目指しているのはグローバルな街です。プロダクトも、個人が何でも発信できてグローバルに開かれていく、そういう状況です。僕には世界中が均質化しているように見えます。

僕の好きな京都は、東京以上に英語が通じなくても、人が殺到していますよね。京都にしかないもの、得られないものがあるからです。つまりグローバルを目指してもなれない。自分たちしか持っていないもの、ドメスティックを突き詰めていくことが、本当にグローバルになっていくんじゃないか。僕が言うローカリティは、その土地にしかないもの。それは世界中の人が憧れるものなんです。それが強い個性になって、マーケット的にも成立していくんじゃないかという話です。

2018年のグッドデザイン賞でベスト100を受賞した、インドネシアのデザイナーのプロジェクトは、地域の竹を切ってみんなで加工して自転車のフレームを作ることで生計が立てられるというものです。彼は、20世紀はものづくりが都市に集約されていったが、個人が発信できる21世紀はローカルに戻るべきだとプレゼンテーションしました。いま起きている、環境や均質化していく問題も、すべてそこに含まれている。自分たちにしかできないもの、自分たちにしか得られない素材、そういう無理のないものづくりが求められていると感じました。

ローカルが最高にラグジュアリーになっている、そういう時代が来ているんです。ローカリティが突出しているからこそ、グローバルな評価に結び付きます。日本のイメージ、特にデザインの世界では、白くてミニマムでキュートで、アイデアがあってマンガみたいなイメージだと思うんですけど、四季があって自然が美しいということをもっとクリエイティブに生かせないか、と考えています。

ローカリティと結びついた僕の仕事を紹介します。

佐賀県の鍋島焼を継承している社員5人の小さな工房とKOSENというブランドをつくりました。鍋島藩の献上品を作る目的でつくられた工芸の産地です。僕は「鍋島でできないもの、関係ないものを全部やめよう」と彼らに言いました。長く使われている柄や釉薬を現代的に落とし込んだもので、彼らにしか作れないもの、そういうことが重要だと思います。

東北はいまも農業で着る野良着が残っているんですが、一反の布を一切捨てることなく洋服が作れるという文化がありました。図面みたいなものはそもそも存在せず、農家で受け継がれて作られていました。コム・デ・ギャルソンのパンツのようにも見えるんですけど、現代的な色や見た目に少し変えて野良着のパターンをそのまま使った会津のデニムなんです。新しいものとして見られる、これもローカリティの成果だと思います。

台湾で作っているトレーです。漆を塗った後に、金箔で蒔絵を施しています。器の柄はその土地のもの、風土のものを描くんです。台湾ではパイナップルとかチョウチョが描かれていますが、いま台湾でたくさん採れるバナナの木を描きました。

ヨーロッパのファッションブランドがアジア展開する際のデザインを頼まれました。日本では大事な物をお客さんに見せるとき、お盆の上に乗せて丁寧に運ぶんだと助言しました。それでトレーを使った什器や店内のディスプレーを考えました。

新宿にある百貨店のディスプレーでは、鏡に新宿の街を反射させて、そこでしかできない風景をつくる、街にショップを同化させるという取り組みです。

その土地にしかないもの、素材、様式などをきちんとプレゼンテーションするということです。

2. Environment 環境

環境というのは久しぶりに出てきたビッグ・トレンドです。地球、環境をきちんと考えたものづくりは、これから絶対、求められていくことです。

例えば、ステラ・マッカートニーは海岸のプラスチックゴミを拾って、材料にして布を作り直し、コレクションに反映させています。従来的なゴミやプラスチックのイメージは一切無く、つまりデザインが大事ということ。

ナイキの、60〜70パーセントが再生材料で作られた靴などは、市場に出ていくときに、みんながいいねと共感する。物があふれている時代において、何に共感してもらうか。デザインがかっこいい、美しいという要素はもちろん、「この人たちから買う意味がある」という、その意味を与えること。そういう意識を根付かせるときに、環境というのは、やるべきことでもあり、機能的に使えることでもあります。ユニクロもモヘアを禁止すると発表しましたが、世界的にこういう動きが加速していくと思います。

僕が作ったスピーカーはガラスの塊ですが、中にスマートフォン入れ、みんなで聴けるような音量に音を拡張させるものです。同じメーカーのスピーカーが、アジアの僻地でもどこでもあるのが気になっていました。その土地に似合っていないし、いずれゴミになってしまう。非常にシンプルなアイデアですが、ガラスは割れても再生できますし、単一のマテリアルで何かつくりたいという思いもありました。

名古屋でも有名な会社がいくつかありますが、紙、ペーパーモールドは可能性があると思って、いま研究しています。ジュエリーのブランドのパッケージを作ったりしています。

近代化してきたブータンでは、社会が新しい節目を迎えて混沌としている状態です。周辺国から運ばれてきた安いメラミン食器でご飯を食べている、僕はよくないことだと思いました。僕のエゴかもしれませんが、その土地にある物を活用して使うのが自然なサイクル。だからそういうこともブータンでやりたいと思っています。

3. Link withリンクウィズ

最後にリンクウィズ、すべての物事はつながっていることを認識するのが大事です。その上で、ものづくりやデザインに取り組む必要があります。

鉄道会社から最初に依頼されたことは電車のデザインでした。走っている地域の色を電車に反映したい、とまず話しました。選んだのは紺色で、YOKOHAMA NAVYBLUEという名前で商標登録しオリジナルの色として持ってもらっています。全ての電車をこの色で置き換えていく。

次に提案したのはつり革です。手触りってすごく大事な要素で、そこにブランドを感じる時代です。自分たちが日常的に触れていくものをアップデートしていく、その姿勢を見せるということでもありました。

駅の照明やベンチのデザインです。従来は座席と座席の隙間に荷物置きがあるんですが、座席に吸収しました。ものすごく幅広いベンチになり、自分のすぐ横に荷物があるので置き忘れの防止になる、親子で座ることもできるようになりました。非常に子どもが多い地域ですので、そこにいる人たちが使いやすいように考える、そこから生まれるデザインが一番重要だと感じました。

電車というのは線路を走って街につながっていくので、すべてのものごとはつながっているという観点から言えば、いい街をつくるための始まりが、もしかしたらつり革かもしれない。

Steady innovation ステディ・イノベーションは僕がずっとテーマにしていることです。ある日突然、社会を変えてしまうような大きな影響力を持つイノベーションも重要ですが、毎日少しずつ、世の中を一歩進めるようなイノベーションもすごく重要だと感じています。

僕はいつも、自分の仕事はいまの時代の最高、最良、最適なものをつくる。それを次の世代の人たちにバトンを渡していくことだと言っています。今日は、そんなことをお話しできたと思います。ありがとうございます。

Q&A

矢島:名古屋を中心に全国、そして世界へということをローカリティの話に結び付けながら、少しお話しいただけますか。

鈴木:よく愛知県の魅力って何かと聞かれるんです。全国の魅力度ランキングで、下から4番目とか…

江坂:名古屋市の調査で残念な結果が出ております。厳密には、全国の魅力度ランキングですと2018年度、愛知県は15位、名古屋市は市町村ランキングで12位です。問題は、名古屋市が行った主要8都市(札幌市、東京区部、横浜市、名古屋市、京都市、大阪市、神戸市、福岡市)を対象とした「都市ブランド・イメージ調査」の結果でして、最も魅力に欠ける都市第1位、市民(住民)によるその都市の推奨度も最下位でした。

鈴木:そうなんですよね。製造業、ものづくりが盛んというのは、みんな知っているんですけど。それ以上の魅力、例えば、分かりやすいランドマークはない、そういう感じです、愛知県って。でもイメージがないということは、何でも創造・捏造できる。すごく可能性がある。あと地形的に、ちょうど日本の真ん中。超ダイバーシティーの時代にいろんな人たちが集まって、話して、そこから何かを生み出す日本の「サロン」になって、代表して届けていく場所にできたら、すごくいいと思います。

ローカリティは、その土地にある資源だけを生かさなきゃいけないと思いがちなんですが、名古屋に行けば日本が編集されていて全部見られるみたいなことなら、すごく価値があると思うんですよ。

矢島:編集とかキュレーションと、クリエイティビティがかなり大事になってきますね。

鈴木:いま、何かをゼロからつくるよりも、編集の時代です。

矢島:リアルな場所というのも意味がさらにでてきていますね。

鈴木:もうオンラインは行き詰まっていて、同じ場所に集まるとか、物に触れられる価値のほうが高まっている。経済学者の人たちは、意味のあるものしか残らないと言っています。

矢島:鈴木さんは、高校時代まで愛知県にいらっしゃって、多感な時期を国際デザインセンターとかで過ごされたのですよね。

鈴木:世界の名作椅子やライブラリがあった時代ですけど、触れられるってことは大事なんですよね。ここにイームズのスツールとかが置いてあって、持って重さを体験したりするっていう場所はすごく必要でしたね。

矢島:THEが目指していることは?

鈴木:いままでは定番ということを言っていたんですが、最適にこだわろうと方針を少し変えました。

矢島:"最適!"

鈴木:環境の問題、つくり過ぎている、価格のアンバランスとか、そういう問題が断裂を生んでいると思うんですが、THEは立ち位置として真ん中にいたいので、最適であるということが重要なんじゃないかと。

例えば適切な価格で適価ということは、すごく重要なデザインだと思うんです。希少性や搾取するようなものづくりではなく、適切に値段を付けて、無理のないものをやりたい。それは素材、売り方、コミュニケーション全て最適であることにシフトしていこうと。

矢島:ゼロからつくり直せるとしたら、どんな街をつくりたいか、イメージがありますか。

鈴木:都市にはそれぞれの適切な機能があるので、それに合わせた森、街をつくっていくのが大事だと思います。住んでいる人たちが、自分たちの魅力をきちんと理解して守っていくことも。その街の個性を、きちんと生かしたまちづくりは、やってみたいですね。

矢島:共感を得て、自分の街としてさらに暮らしていきたいと思えるようなことですかね。

鈴木:徳島県の神山町は未来の町に見えました。そこで仕事をしてみたいっていう欲望を生み出している。

矢島:会場からの質問に移りますね。「高いモチベーションをどうやって保ち続けていらっしゃいますか?」「将来の夢はなんですか?」

鈴木:モチベーションの維持は、求められるからですね。仕事上の夢では、飛行機・電車・船、大型で建築に近いものをプロダクトの精密感でつくるというのが一番やりたいデザイン。個人的な夢は合唱団、チームをつくって、みんなで合唱する。あと仏像を彫る。

矢島:仏像を自分で!

鈴木:骨董とか美術、どういうものが残るのか、どうしたらみんなが残してくれるんだろう、そういうところに次の興味があります。伊勢神宮の技術継承とか、材料の流通とか、いろんなものを整理して、継続させていて、本当にすごいと思います。

矢島:次の質問です。「人口の一極集中をデザインで解決するとしたら?」

鈴木:その地域に魅力をみんなで再発見して、それを分かりやすい形でビジュアライズすることだと思います。『そうだ京都、行こう。』は、コピーも本当に秀逸ですけど、京都の美しい写真が出てくる。言葉とビジュアルの力が相まったときに、ものすごいパワーになると思うんです。

矢島:未来という言葉を、あまり使わないようにしている人かなと思ったんですが。

鈴木:明日も未来、くらいの感じで使います。仕事するときに30年後どうなっているだろう、ということは考えるようにしています。

矢島:30年が一区切り。

鈴木:そうですね。ある程度予測できることと、30年前はいまとどのぐらい離れているか。基本的な人の生活は、あんまり変わっていないです。世の中っていうのは、ちょっとずつしか進化しないんじゃないかと思っています。ステディ・イノベーションのコンセプトにもあるんですけども。

江坂:最後に何か。

鈴木:本当にいい物は絶対淘汰されないですが、それを情報発信するということは、すごく大事です。いい物をつくって待ってるだけじゃ、なかなか世の中は知ってくれない、使ってくれない、食べてくれないと思います。

ビッグ・トレンドは、つくれない時代です。他方で、自分たちの好きがつながり、小さなコミュニティとして、きちんと残る時代。そこでマインドセットしなきゃいけなくて、1億円の売り上げが必要なときに、いままでは1円の物を1億個売ることもできたんですが、いまは絶対無理なんで、1000万円の物を10個売る方向に変えていかなきゃいけない。受け止めてくれる人たちに価値を適切に伝えて、きちんとつくっていくことで、物事は残っていくと僕は思うんです。

矢島:それが残っていくスタンダード。iPhoneが最後の大量生産品になると言われています。

鈴木:いろんなコミュニティに分散して、それぞれの軸がある時代。そういう意味では、カスタマイズを考えるのか、一つのコミュニティだけにするのか。考え方の変化は必要だろうと思います。携帯電話が100万台売れる時代は、もう二度と来ないのですから。

BACK TO TOP

NEWS LETTER

JDPより最新のデザインニュースをお届けします。
ご登録は無料です。お気軽にご利用ください!

  • GOOD DESIGN AWARD
  • GOOD DESIGN Marunouchi
  • GOOD DESIGN STORE
  • DESIGN HUB
  • 東京ビジネスデザインアワード
  • TOKYO DESIGN 2020