公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:有限会社坪川製箱所

2019年度東京ビジネスデザインアワード

東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つクリエイターとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2019年度は、テーマ9件の発表をおこない、10月27日(日)までデザイン提案を募集中です。

本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


お話:坪川製箱所 専務 坪川恵子氏

段ボール箱は輸送など物流や耐久性のある一時保管時の容れ物として、また段ボールはクラフト造形の素材に使われるなど、日々目にしないことがないほど浸透し、生活になくてはならないものである。坪川製箱所は、1959年創業以来、60年にわたり段ボール箱を作り続けている会社。近年、段ボールを使った新しい商品開発に取り組み、ユーザーの声を大切にしながら新しいニーズを引き出す努力も行っている。東日本大震災をきっかけに、段ボール箱まくらの開発に着手し社会に貢献するモノづくりも展開する。またオープンファクトリーも積極的に開催するなど、地域との関わりや業種を横断した取り組みもする。段ボールがもつ可能性についてインタビューを行った。


テレビで見た被災地の現状をきっかけに

ーーまずはアイデアに富んだ製品を実現する「段ボール加工技術」という今回のテーマについて教えてください。

段ボールには無限の可能性があると思っています。例えば災害に遭われた方が避難所で段ボールでトイレを作ったりされているのをテレビで見ることがありますが、本業の段ボール屋が作ればより良いものが作れるんじゃないかという思いがありました。そのきっかけは東日本大震災や熊本地震で段ボール箱まくらを作ったのが最初でした。これからは社会貢献が出来る何かを作りたいという思いがあって応募しました。

ーーそう思うようになったきっかけを教えてください。

町工場って働く人がなかなか集まらなくて、もし働いてくれたとしても長続きしないことが多いんです。今回のアワードのこともそうですが、誇りをもって長く働いてもらうためには、従業員のみんなに自分が働いている現場で何かすごいことが起こっていると思ってもらうことも重要だと思っています。今回もデザイナーさんの前でプレゼンしてくる!と言ったら、頑張ってきてくださいと言ってくれました。経営者もそうですが、一緒に働いてくれている仲間が会社のことを自分ごとと思ってもらえるように、いいことも悪いこともオープンにしています。いろんなことが起こっているとワクワクすると思うんです。

ーー「段ボール箱まくら」や「段ボールハウス」など、段ボールを使ったユニークなオリジナル商品の開発もされていますが、その原動力となっているものを教えてください。

東日本大震災の時に避難所で段ボールの間仕切りやベッドが使われていましたが、テレビでそれを見てお節介かもしれませんが、大手の段ボール屋がもっといろいろ作ってあげればいいのにと思ったんですね(笑)。でも大手が出来なくて、逆にウチのような小さな町工場が出来ることってなんだろうと考えました。それで私の親戚が福島にいるんですが、親戚を通して間接的に避難所で何が不便だったかをヒヤリングし始めました。その中で寝るところはどうですか、枕はありますか?と聞いたところ、そんなものないわよ、と。それなら段ボールで枕が出来ないだろうかというところから「段ボール箱まくら」を作り始めたんです。それで早速近所の小学校の避難所体験で段ボール箱まくらを体験してもらったところ、痛いとか髪が挟まるとか全員に却下されてしまって。それで社長と一緒に試行錯誤して改良して現在の段ボール箱まくらが出来て、少しずつ広がっていきました。

ーー段ボールの良いところはどんなところだとお考えですか?

軽くて廃棄が簡単、そしてリサイクルができてエコというところですね。段ボールを使った遊具や、道具などを作っていて最近強く思っているのが、段ボールで社会貢献をすることです。でもどうすれば出来るのか、それがわからなくていつも試行錯誤しています。社長がこういうものなら出来るかもと絵を書いてヒントをくれるので、それをもとにいろいろ考えています。

ーー今回のデザイナーとの協働に関しても、段ボール加工のプロである社長さんと二人三脚でモノづくりが可能なわけですね。

はい。社長が出来るというものならなんでも出来ると思っています。私としてはデザイナーさんとモノづくりを一緒におこなって、商品が世に出て、使っていただけることを想像しただけでよだれが出そうなほど今からワクワクしています(笑)。


「かも」を大切にすることから始まるモノづくり

ーーデザインとはさまざま可能性を持ったものだと思いますが、坪川さんはデザインにどんなことを期待しますか?

誰もが手に取れるもの、みんなが親しみやすいものを期待します。私自身、段ボールが好きすぎて呼ばれていなくても地域のイベントに段ボールで作ったベッドや枕を持って参加して体験してもらっているのですが、世の中の人たちの段ボールへの認識を変えるようなものを作りたいです。

ーー坪川さんの工場ではどのくらいの大きさのものまでの段ボールの加工が可能ですか?

展開する前のサイズで、小さなものだと300~400mm、大きなものだと1300mmくらいのものになります。それとどういったところまで出来るかはご相談にはなりますが、手作りのものも可能です。あと弊社では段ボール箱の製造に加えて、玩具会社や量販店に出荷する「セット梱包」も行っています。

ーー下町では横の連携によるモノづくりが多く見られますが、坪川さんのところだけで作れないものは協力企業と連携して作ることも可能ですか?

はい。創業して60年経ちますので長いお付き合いをさせていただいているお取引業者さんがいます。設備上、ウチでは出来ないことをお願いしている会社さんもあります。

ーー形は型さえ作ることが出来れば、どのようなものも可能ですか?

型屋さんとの相談にもなりますが、だいたいのものが作れると思います。

ーー先程工場を拝見させていただきましたが、子供たちが行き交う通りに面した地域に開かれたモノづくりの現場だと感じましたが、恵子さんが日々感じるモノづくりの面白さとはどんなところだとお考えですか?

町工場に嫁ぐまでは当たり前のことだと思っていましたが、一番は自分たちが作ったものを皆さんに使っていただいているというところでしょうか。例えば自分たちで作った段ボール箱に企業や製品名が印刷されて店頭に並んでいるのを見た時に、これはウチで作ったんだと嬉しくなります。納品までの時間がなかったりその時は苦労をして仕事をしても、お客様からのありがとうのひと言でやってよかったなあと思います。ある意味いずれはゴミになるものを作ってはいるのですが、世の中に必要とされているのでそこには誇りをもってもらいたいと従業員には言っています。

お取引先さんから休みの日に電話がかかってきて、今日仕上げて欲しいと言われることもあるんですよ。そういう時は今日休みなんだけどなあと思うんですが、社長と2人で作っちゃいます。お客様からは「困った時の坪川さん」と言われているみたいです(笑)。義理人情が薄れていると言われる現代ですが、頼られてこそという思いもありますし、町工場が生き残っていくためにはそれはそれで嬉しいことだと思っています。

ーーどんなデザイナーと仕事をしてみたいですか?

世の中の多くの方に親しみをもってもらえるような段ボール製品をデザインしていただける方というのが一番でしょうか。弊社で作った段ボールハウスを幼稚園や保育園に持っていくと、子供たちがみんな思い思いにアレンジをして、まったく違うものになるんですね。子供たちの発想がモノづくりのヒントになりますし、人の想像力や発想力と同じように、段ボールが持つ無限の可能性を感じます。今回のビジネスデザインアワードでもデザイナーさんからアイデアをいただいた時に、やったことがないから出来ないではなくて、こうすれば出来るかもという「かも」から生まれることを大切に取り組みたいと思っています。ですのでデザイナーさんには自由にいろんな考えを投げて欲しいと思っています。


有限会社坪川製箱所(葛飾区) http://www.tsubokawa-box.co.jp

テーマ:アイデアに富んだ製品を実現する「段ボール加工技術」

1959年5月1日に木箱製造からスタートし1962年頃より段ボール製造に転換。お客様のニーズに合わせたものづくりを心掛けている。近年では東日本大震災や熊本地震をきっかけにオリジナル商品を開発し、昨年の西日本豪雨では、オリジナル商品の段ボール箱まくらを寄付。他社にない社会貢献できる商品の製作に取り組む。50代を中心に、ベテランの男性製造作業員と子育て世代の女性従業員が協力しながら働くアットホームな職場。会社の経営状況を社員へオープンにする事により、経営層と現場の垣根を取り払い、一致団結して努力と挑戦を続けている。

インタビューと写真:加藤孝司


2019年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 10月27日(日)まで 

応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど 

応募費用 無料 

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html

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