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グッドデザイン賞スペシャルトーク「いま、デザインに美しさは求められているのか」 開催レポート

4月18日(水)、渋谷EDGEofにて、グッドデザイン賞審査委員長・柴田文江氏、副委員長・齋藤精一氏によるスペシャルトーク「いま、デザインに美しさは求められているのか」を、ファシリテーターに井上裕太氏を迎え、開催いたしました。以下、内容をレポートいたします。

[グッドデザイン賞スペシャルトーク] いま、デザインに美しさは求められているのか

日 時: 2018年4月18日(水) 19:00-20:30
場 所: EDGEof
ゲスト: 柴田文江(デザインスタジオS プロダクトデザイナー)、齋藤 精一(rhizomatiks クリエイティブ/テクニカルディレクター)
ファシリテーター:井上裕太(QUANTUM プロジェクト・マネジャー)

デザインの中にある「美しさ」について

井上:

今回のトークイベントは、「今、デザインに美しさは求められているのか」というタイトルです。グッドデザイン賞の審査委員長メッセージにも「美しさ」というキーワードがあったのですが、今回このキーワードを掲げられたのは、どんなきっかけや議論があったのかをまずお聞かせください。

柴田:

このトークイベントのタイトルを決めたのは齋藤さんなんですが、2018年度のグッドデザイン賞を始めるにあたり、トークイベントをやりましょうということになったときに、グッドデザイン賞のことを話すとなると、すごくまじめなことを言わなくちゃいけなくて、本当の話ができないんじゃないかということで、こういうタイトルになりました。
今年、齋藤さんと一緒にやっていくことになって、どうやっていこうかという議論を何度も重ねました。今はいろんなデザインがグッドデザイン賞の中に入っているし、デザインという概念がすごく広がっていて、実際に齋藤さんのような立場の方に副委員長をお引き受けいただけるような状況もあって、世の中が非常に複雑になっているからこそ、あえてデザインでしかできないこととか、デザインが機能するような解決とか提案とか、そういったものをもっと探していきたいなということがありました。それで、わりと議論の早い段階から「美しさ」ということは言っていました。

井上:

グッドデザイン賞の副委員長に齋藤さんというのは意外な組み合わせだなと思ったんですが、齋藤さんはどういう思いで取り組んでいますか?

齋藤:

僕はコンテンツやデジタル、新しいビジネスやコンセプトなどの仕事をやっていて、物理的なものを扱うことが比較的少ないんですが、グッドデザイン賞の審査を最初にやらせていただいたのは今から4年前になります。
今年、副委員長就任についての連絡をいただいて、最初は間違いだと思いました。4年前から僕が審査を担当していた審査ユニットは、コンテンツやパッケージを審査するユニットで、コンテンツがちょうどおもしろくなってきた時期でした。僕が審査委員になる前の年に「デザインあ」が受賞していたり、「ブラタモリ」といったテレビ番組やウェブサイト、VR系のコンテンツなどいろいろなものが出始めたころでした。
「美しさ」についていうと、柴田さんがおっしゃっている美しさとは僕はちょっと違う方向からみていると思います。今は一点での美しさはどちらかというと当たり前で、逆にそれができないものや、それを作っている過程やそれができた理由とか、そういうところも含めての美しさかなと思っています。そういう形で4年前からやらせていただいていて、僕も正直それまで気にしてなかったんですが、見ればみていくほどグッドデザイン賞というのはコンテンツにも開けているんだなと、ということをすごく思っています。

井上:

「美しさ」を違う角度から見ているかもしれないというお話があったんですが、柴田さんからみると美しさというものをどういうふうに捉えてらっしゃいますか?

柴田:

グッドデザイン賞はプロダクトの賞だというイメージがもともとあって…。

井上:

今でもちょっとありますね。

柴田:

ありますか(笑)。プロダクトデザイナーからすると、もう随分プロダクトの賞という感じは薄れてきているんですが、その昔は製品の見た目であるとか、それが適切にデザインされているかとか、スタイリングとかアピアランスという言葉で言っていた時期がありました。
ですが、ここ10年くらい美しさという概念が変わってきているなと感じていて、それであえて美しさというキーワードのもとに、みんながいろんな美しさを語り合って、探せるといいなと思いました。
もちろん表面に見えていることもだし、表面に見えている美しさ自体も考え方が変わってきているので、デザインの領域が広がっているのと同じくらい、「美しさ」も広がっているので、ある意味難しくなっているのかもしれないと思ったんですね。

齋藤:

僕も「美しさ」ということは、ものの佇まいだけではないと思っています。今、世の中にあるもので、本当に美しいものはすごく少ない気がしていて、その議論を柴田さんとしました。
本当の美しいものは直感的にも美しいし、もっとミクロにみても美しい。今は、あんまり「美しさ」ということが言われない時代になったんですけど、こだわってもいいんじゃないかと思ったので、「美しさ」ということをメッセージの中にも入れさせていただいたんですね。

生きているデザイン、生きている美しさ

井上:

柴田さんが以前「美しさの中に正しさが生まれているか」ということをおっしゃっていて、そこはもしかして似ているのかなと思うのですが、それはどうやって見ていくものなんですか?

柴田:

グッドデザイン賞の中にはいろいろまじめな審査基準はあるんですが、デザインも生きているし、美しさの判断も生きているし、審査委員の私達もデザインの世界で生きているので、最終的には審査委員がみんなで議論をしながら決めるんですが、実は毎年すごく変わってるんですよ。かなり深い議論をしながら、今の時代にあった「これがいいんじゃないか」と思えるところをみんなで探しているんですね。
たとえば昔だったら、一個がすごくよくできていて、崇高に崇め立てられることを「美しい」と言っていたかもしれないけど、今は、気軽に使えたり、人とシェアできることを美しいと言ったりすることもあります。審査委員は今の時代で活躍されている方が多いので、そういうことをムードとして感じられています。新しい「美しさ」が出ることで私達もそれを取捨選択するんですよ。審査の中でも進化していくんですよね。

井上:

「美しさ」ってそういう定義もあるんだ!とかそういうことですね。齋藤さんは4年前から審査に関わってこられましたが、その過程でデザインや美しさの印象は変わってきましたか?

齋藤:

審査ユニットの中で審査委員もグラフィックの方がいたり、コンテンツを見る方がいたり、ハイブリッドになっているところもおもしろいところです。以前審査をしているときに、進化が止まってみえるものがありました。ユニットの審査委員みんなで、「これはグッドデザイン賞として残すべきなのか否か?と議論を重ねに重ねて、切ったことがありました。
そうするとおもしろかったのが、その潮流が一旦途切れるんですけど、そうするとそれまでにはあまりなかった、違う「新芽」が出てきた感じがしたんですね。僕がグッドデザイン賞から学んだことでもあるんですけど、今の世の中でデザイン業界全体が、グラフィックデザイン業界とか、家電業界とかモビリティ業界とか、業界ごとにやっていく時代でもないのかなというところがあります。たとえば去年受賞した「SEND」は、野菜の生産者とそれを届ける先をマッチングするビジネスなんですけど、そういうものはいろんなものを横断しているんですね、アプリとシステムとIoTと、横断している。
今はICTだIoTだAIだといろいろ言われている時代ですが、横断的に深くみていかなければ、「美しさ」というのは評価できないんじゃないかと、いうのは最近の潮流として非常に感じます。

柴田:

グッドデザイン賞にエントリーしているものはもちろんですが、それ以外のものでも、いろんな要素がからみあっていて、じゃあそれってデザインなのか?ということもよく言われます。
デザインじゃない部分もあるんだけど、一方でデザインという視点をもってみると、私達の暮らしにどう影響を与えるか?ということがわかるので、グッドデザイン賞では「美しさ」ということをひとつのキーワードとして、デザインということでみていきたいと思います。仕組みがしっかりできてるよね、ということだけだと、もしかしてデザインの賞じゃなくても評価できるんじゃないかと思います。
その中にある、うまくできている加減の中のなにかが「美しい」ということなのかもしれないです。

井上:

仕組みだったり、IoTの使い方だったり、そういうものの中にも美しさを見出すことができるということですね。たとえば、例を挙げていただければと思うんですが、この仕組みは美しいな、とか、この仕組みはたしかにコストは下がっているけど美しくはないな、というのはどういう差分になるんですか?

柴田:

例が適切じゃないかもしれないですが、10年くらい前、安いものが正義だった時代がありました。安いものがいいもので、安いものが正しくて、安いものを作っていたら文句を言われなかったんですよ。安い=庶民の味方、みたいな。でも最近思うんですが、安すぎるものって本当に美しいの?見た目だけじゃなくて、適切じゃなく安いものはもしかして正しくないんじゃないかって、感じています。見た目だけじゃない価値をなにかつけることで豊かな気持ちになれて、それが正しく思えたら、そういうことも「美しい」なのかなと思います。

グッドデザイン賞は総合格闘技

齋藤:

今、僕がいろんな仕事をやっている中で、一番最初にフィルターをかけるのが、「大人の事情が入ってないか」というところを見るんですね。大人の事情でたとえば角が丸いとか、このシステムが中に入ってないとか、それをデザインという視点でみると、今まで繋げなかったことが繋げるようになる気がするんですね。
それは、世の中をより良くしていくという視点と、今すでにある問題を解決していくという視点をもって、どこにいても、今いるところより一つ上のレベルにいって、世の中や人の暮らしをより良くしようという感じではある。僕は、グッドデザイン賞はデザインといわれるものの中の総合格闘技のような気がしています。
たとえば僕は、他の賞、ACCや、ものづくり系、街づくり系の賞などいろんなところでも審査をやるんですけど、それらの審査に通ってるものが、ここでは必ずしも評価されないんですね。それはいろんなパラメータがあるとして、一箇所にスパイクがあるもの、たとえばテクノロジーが前面に出たものとか、最先端なものとか、僕はそういう視点で違う風を入れるという意味でも、みています。
総合的な目でみて、世の中をいい方向に向かせているかどうか、方向を示唆しているもの、大きく時代を押し上げていくもの、説明するのが難しいんですが、そんなものの中にも独特の美しさがあると思うんですね。

井上:

世の中を、大きくよりよい方向に押し上げていくものの中に漂う美しさ?

齋藤:

そうです。もう一つ僕が今年からしっかりやりたいなと思うのは、たとえば審査していて、パッケージはいいんだけど中身が惜しいとか、サーフェスはいいんだけどインターフェースが惜しいとか、ほんとに惜しいものがたくさんあるんですね。そこを補うインターフェースのデザイナーが入るだけで、あっというまに変わるのに!というような。
そういうものはしっかりとおさえていきたいなと思っています。あとは、他で評価されているものを見て、全体的にしっかりデザインされているかということをもう一度見直してもらいたいなと思います。

柴田:

アイテムによっても、デザインの精密度が違うんですね。とくに齋藤さんが担当されている分野はそういうことがあるのかなと思ったんですが、「大人の事情」というのは本当にその通りです。
デザインをするときには、必ずクライアントがいるんですが、本当にデザインしようとすると、クライアントの後ろにある「暮らし」を見ていかなくちゃいけないんですね。デザイナーは上手に言葉を使い分けながら大人の事情をかわすのですけど、デザインだけだとそんなに力はないので、企業内の力をうまく使って、そこに向かっていきます。
デザインには、いろんな人と話せる言葉があるじゃないですか。暮らしの人とか、技術の人とか、営業の人とか。複雑なプロジェクトの中で、結節点になれるのは、デザイナー以外にいないんじゃないかなと思います。そこはみなさんもぜひ上手にデザイナーを使っていただきたい部分です。

齋藤:

昔の仕事でびっくりしたことが、ある家電メーカーのR&Dをやっているときに、メーカーさんの中だと製品開発があって、デザイン部があって、事業部があって、でも各々が全然意思疎通をしていなくて、どうやって売るのかとか、どういう素材を使うのかというのが全然違う文脈の中にあったんですね。
それは10年くらい前の話なんですが、そういう時代はすっかり終わったと思います。大企業の中にあっても、チームのみんなが一つの思想・哲学をもって作っているかどうか、そこを繋げられるのはやっぱりデザイナーなんじゃないかと思います。

柴田:

一つのプロジェクトの中で、みんな目標は基本的に一緒なんだけど、言葉が通じないというか、意思がうまく結節しないんだなということはよくあります。グッドデザイン賞でも、すばらしいサービスや取り組みはそのコミュニケーションがうまくできている印象がありますね。

共通言語としてのデザイン

齋藤:

10年前に比べたら、一つの会社の中でそれがうまくできるようになってきているなと感じます。
さっきも柴田さんがおっしゃっていた、安いものが求められる、効率性が求められるみたいなことも、みんなが同じものを作る必要はないじゃないですか。そういう役割分担みたいなことも、全体的に共通の言語を作っていくといいな、と思うんですよね。

柴田:

プロダクトはグッドデザイン賞の中では昔からあったので、エントリーされるものの中では、かなりデザイン度がしっかりしているものが多いんですが、そういうこともあって、ここ数年プロダクトは各社の一番いいところが出ていると思います。
私は10年以上グッドデザイン賞に関わっていますが、たしかに似たようなものをみんなで作っていた時代もあったんですね。とくに日本のものづくり、工業デザインで作られるようなものが、厳しくなったときがあったんですよ。そこを乗り越えたときに、この会社はこういうことが強かったよね、ということが出てきたときはうれしかったですね。 それが以前よりバージョンアップして、昨年や一昨年は目をみはるものがいくつかありました。

井上:

それはさっきの哲学ということが企業として鮮明になってきたということもあるかもしれませんね。
お話を伺っていると、デザイナーやチームで、テクノロジーの使い方やインターフェース、他の業界も含めて、全部やるというのはすごくハードルが高く感じるんですが、なにから始めればいいのか、なにを気をつければいいのかというのがすごく難しいですよね。まずなにをやったらいいですか?

齋藤:

僕は、いつも大人の事情の産物をみつけることをやっています。たとえば、渋谷駅の地下を歩いていると、いきなりタイルの種類が変わる場所があって、ここからは東急、ここからはメトロって変わるんですね。そういう細かいところを、間違い探しみたいに見つけます。これはもう僕の癖みたいなものなのですが。で、なぜこれができないんだろうと考えると、そこには問題があるんですね。その解決方法はないのかなといつも思います。
ものをみるときに、レンズのピントをいつでも変えられるように、ということを意識しています。よく万里の長城のたとえで話すのですが、あのレンガのブロックを組んでいる人が、自分が万里の長城の一部を作っているとわかってやっているのか、ただブロックを組んでいると思ってやっているのか、それだけですごく変わってくる。マクロな目線で、自分がいまどの部分をやっているかというのを理解しながら、デザインや作業や仕事をしていると、だいぶ変わると思います。

マクロからミクロに行き来する

井上:

マクロからミクロに行き来する間に気づける、ということですね。
柴田さんは、よく「自分のために作る」ということをおっしゃられていますが、それはマクロな視点とはまた違う視点ですよね。

柴田:

私の場合は大量生産のものを作るのですが、そこはそんなに違わないような気がします。自分自身が人間の原型だと思っていますし、私は人間のために作っているものが多いので、マクロとミクロの視点のギャップよりも、ものづくりは大人の事情の方が難しくて、視点をもっていても、大人の事情を突破することが仕事の8割だなと思うことがあります。
みんなが気づいていて、みんなマズイと思ってることがプロジェクトの中には結構あって、そこで本気を出す人が一人でもいるとプロジェクトがすごく変わるんですね。言い方とか意思の持ち方とか、ビジョンの立て方とかで、この会社ってこんな会社だったかな?と思うくらい変わります。意外とそこはお金とかかからないのかもしれない。それは大きい会社とかそういうことはあまり関係ないんじゃないかと思います。

井上:

それと戦おうとすると、会社の経営者かもしれないし、会社のルールかもしれないし、いろんなものと対峙すると思うんですけど、必ずしも自分の中にその知識がない場合もあると思います。そのときはどうやって突破していかれるんですか?

柴田:

今、カプセルホテルの仕事をやっていて、カプセルはプロダクトだから私のところに依頼が来たんですが、カプセルを並べたらフロアになるし、積んだら建築になります。私は建築はできないので、そこは建築家の方を呼ぶのですが、誰にお願いするかはすごく重要なポイントなので、それはチーム内で一緒に考えて、なおかつその方に今まで考えてきたことをどう融合してもらうか、ということもすごく重要だなと思います。

井上:

その場合おそらく、その方とは普段違う言語をしゃべっているから難しさもありますよね。

柴田:

そうなんです。でもそのときはすごくうまくいって、信じていることの中に大人の事情がないので、うまくいったんだなと思いました。思っていることが純粋だったので、職業が違っても言語が違っても通じ合えたのかな。

齋藤:

僕は学校で建築学科を卒業したのに建築をやっていなくて、大学院で行ったところが哲学と3Dの制作能力だけはめちゃくちゃ高い、みたいな変な学校でした。そこを出たあとアメリカで広告代理店に入ったんですが、そのときにどの人とも話せるように業界用語を学ぼうと思ったんですね。アメリカだと、そういうのを知らないとめちゃめちゃナメられるんですね。それで、広告もマーケティングもビジネスメイキングもそれぞれの業界の言葉を知ろうと思いました。
それは今も変わってなくて、そのときに身についたことで、今、360度やろうと思ったらできるんだと思います。でも、仕事の8割は調整ですね。

調整こそデザイン?

柴田:

もしかしたら、いろんな役割の中に入り込むということがデザインの中ではすごく大事なことだから、調整こそデザインなのかもしれない。 もちろんデザインがわかっている人が調整しなきゃいけないんですが。
昔のデザイナーってなにか話があると、自分のフィールドに引き込んで話をするというのが得意だったんですよ。経営の人を引き込んでちょっとデザインぽいことを言って、説得するという時代があったんですけど、今はデザイナーはどの言語もしゃべれないと、なかなか大変ですよね。

井上:

調整だというときに、哲学や思想があって、そこを軸足にして調整していこうということだと思うんですけど、プロジェクトの思想もあれば、自分がもっている哲学もあると思うんですけど、どうやって今回これでいこうと決めていくんですか?

柴田:

プロダクトだと基本的には使っている人、もっと言うなら自分自身の内側に向かっていくことで作りたいんですけど、生活者とか使う人に真正面のものってなかなか作れないんですよ。お金もかかっちゃうし。ほんとにそれが作れたらみんな喜んで買ってくれると思うんですけど、できるだけその真正面にいけるようにするというのが一つの真理だと思っています。
妥協しないとか、他の道に入らないとか、丁寧にどこまでやりきるかというのは、工業デザインでは効率よく作って、効率よく儲けるというのがある種一つの理想なので逆行する部分でもあるんですが、でも違う方法で、最終的に利益をあげることができれば、その企業がまた新しくいいものが作れるように続いていけるんじゃないかと思うんですね。そう思っていつも方法を探しています。そのときに、その企業のうしろにいる生活者を真正面に考えていくというのは一つの正しいやり方なんじゃないかなと思っています。

齋藤:

今、僕が実践してるのは、ちょっとエゴ出すのをやめようということです。全体を考えたらそれが出てきちゃった、というような訓練を僕はこれまであまりしてこなかったので、だからこそ大人の事情とかそれぞれがもっている特殊能力とかをばーっと掘っていくと、最終的にジャンプできるんじゃないかなと思うんですね。
僕がもっている哲学は、大人の事情をなくすということだと思います。今は世の中的に第四次産業革命ということが言われていますが、革命が起きるときには絶対に哲学が必要なんですよ。高度経済成長のときのデザインは、ダメだったものをよくしようとか、作れなかったものを作れるようにしようとかでしたが、それは今はもう二巡くらいして、だいたいものは作れる世の中になっちゃった。だからこそその上では、各業界や各デザイナーがしっかりとした哲学を持たないと、革命は起こらないと思うんですね。

デザインが力をもって社会に影響していく段階に来ている

柴田:

私はチームでやっている仕事では、暮らしになにか届けたい、自分の親とかに届けたいという気持ちがありますけど、一方で、デザイナーとして欲深くかっこいいものを作りたいという想いもあるんですね。ちょっと前まで、デザインって誰かの名誉のためのデザインがあったと思うんですね。このデザインっていいね、だからあのデザイナーは素晴らしいな、みたいなのがあったと思うんですよ。
ここ10年くらい、そういうことに美徳を感じていない、デザインが誰かの名誉のためにあるものじゃないというふうに変わってきたというのを実感しています。もちろん花瓶みたいなものをきれいに作りたいというのはあるけれども、本当の意味でデザインが力をもって社会に影響していく段階に来たんだなと思います。

井上:

齋藤さんは「最終的には世の中を平和にしたい」だったりとか、柴田さんは「人間を自由にすることが大事だ」みたいなことを別のところでおっしゃっているんですが、それは、どのプロジェクトでも根にありますか?

柴田:

多かれ少なかれあります。自由ってあちこちで言ってるんですけど、でも自由になりたくてフリーランスでやっていて、自由になりたくてデザイナーやってるし、暮らしを自由にしたくてものを作っているので、もちろんプロジェクトによって度合いは違うんですけど、自由というのはいつも言ってますね。 基本的には不自由だから。
若いとき自分がすごく不自由だと思ったんですよ。時間はあるし、好きなこともやってたけど、自分で生きていけない、親に仕送りしてもらわないと生きていけないとか、やりたい仕事ができないとかそういう不自由ってあるじゃないですか。年をとってくると少しずつ自由を獲得できますよね。だんだん技術がついてくると、この仕事やらせてもらえますかって言えるようになるとか、今もまだ不自由なものがあるんですけど、自分の人生は自由を自在にしていくことに時間を使っているなと感じていて、ひとつには「美しいものをつくりたい」というのもその一つです。
プロジェクトもその中に不自由なことがたくさんあるんですね。それを解き放ったときに、とんでもないことになるんじゃないかというのがすごくあって、それでいつも自由と言ってるのかもしれません。

井上:

齋藤さんも「最終的には平和」というのは今もそうなんですか?

齋藤:

平和に暮らしたいですよね(笑)。アシスタントに以前「齋藤さんはデザインの審査やってますけど、齋藤さんの人生はグッドデザインなんですか?」って聞かれたことがあって(笑)。なにかを犠牲にしてませんか?ってことなんですよね。
いろんなプロジェクトに関わる中で思うのが、ものづくりやまちづくりが人間を忘れているなと感じるんですね。あるデベロッパーさんに先日「ヘリコプターからみたようなパースや模型ばかり見ていたら人間を忘れるよ」って言ったんですね。もっと地に足をつけて、最終的にドアノブをあけるのは人間の手なんだから、そういうところからデザインしようよ、と。風景をつくるんではなくて、街を作るんだと。
これからもう一回身体性が戻ってくると思っています。今は、AIとかテクノロジーとか言われますけど、それは最終的に人間を幸せにするものなんですね。世の中をよりよくしていくためにあるべきだし、しっかりした道具として作っていくことが重要だと思うんですね。道具として使うところをちゃんとやらないと本当のテクノロジーにならない。そこを全体的にデザインしていくということを僕はやりたいんですよ。一発花火をあげて終わりではなくて。

身体性の回復

井上:

テクノロジーがあるとデザインが変わるということで、人工知能などいろんな変化が起こっていますが、どうですか。

柴田:

デザインが変わるというときに、デザイナーって技術もちょっとはわかるし、なにより人のことがわかるので、その係になりたいなと思っています。あと、デザインもそうだけど、価値観も変わるので、そこに合わせていくのもデザインだなと思っています。
人の価値観を変えるのってすごく大変じゃないですか。でも私達はいろんな価値観を塗り替えられてきていて、昔はみんなお茶なんて買わなかったですよね。
自分の仕事でいうと、私はカプセルホテルには自分では泊まらなかったんですが、仕事を通じていろんな豊かさを作り変えてきて、カプセルみたいなものの新しい一つの進み方をめざしている。高い安いだけじゃなくて、新しい価値観をもってもらいたいし、お金のあるなしに関係なく、新しい豊かさをつくりたいと思ってます。
そういうときに技術は、価格とか物理的なことを乗り越えてくれるんじゃないかと思っていて、具体的に自分がなにをできるかわからないけど、そういうところで機能できるデザイナーになりたいなと思っています。

井上:

身体性って日々の生活の中では忘れがちですけど、お二人はどうやってそのセンサーを発動させるんですか?

齋藤:

僕、昨日、耕運機を買ったんですよ。葉山のほうに住みはじめて、そこから価値観が変わったんですね。前は一度回転を始めた僕の脳のハードディスクを止めるのが怖かったんです。一回止めると全部忘れそうで。幸いにもこんな体なので壊れないので、ずっと回転してたんです。でもなんかちょっと、このままだとループの思考から抜けられないな、と思って生活を変えたんですね。
今は、土を触るようになって、自然ってめちゃくちゃ解像度が高いんだなということに気づきました。自然は不確定で、種を植えたら育つはずのものが育たないんですよ。それでどうしようっていって、耕運機を買ったんですけど(笑)。そんなアナログなことをしていますね。

柴田:

私はあんまり遠くに住んでないし、耕運機も持ってないですが(笑)、もともといろいろ本来の自分じゃない状況にいることが多くて、たとえば、女性の工業デザイナーはすごく少ないんですね。ほんとは工業が向いてないのにやってるとか、委員長も向いてないのにやってるとか、本来ウェットな人間なのに、むりやりドライなところにいる。
だから自然とそういうことを感じ取ってしまう気がします。私はものをつくるときにいつも「湿り気」「湿度」ということを言っています。普段ほとんど湿度のないものを作ってるんですが、でも湿度がないリモコンを作っていても、湿度をたっぷりに作りたいんですよ。それは私達人間が湿度をもっているから。死ぬと乾くじゃないですか。赤ちゃんはぱんぱんに水分があって、あれがすごく理想的なんですね。湿った感じを工業製品に持たせたら、みんな愛着をもってくれるんじゃないかと思っていて、いつも湿り気を狙っています。
それは身体性とすごく親和性が高いと思います。湿り気は形に現れます。もちろん湿らせれば湿るんですが、この話していいの?(笑)

齋藤:

それで今思い出したのは、僕はインターフェースを作るときに、温度がないものに温度をつけるというのはやっています。
たとえばコンサートホールでみんなが一斉にぴかぴか光るデバイスがあるとして、あれって同時にぴかぴかしてると全然おもしろくないんですよ。ちょっとばらついてたほうがおもしろい。そういうちょっとしたエッセンスがあたたかみに通じるんじゃないかと。それが湿ってることにも通じますが、そういうのは気にしてやっています。

デザインの小さな力でも、すごく大きなものにもなる

井上:

そろそろ時間になりますので、最後に学生やこれから活動をしていこうというデザイナーへのアドバイスをお願いします。

柴田:

技術力だったり、企業の力だったり、ものづくりの力だったり、そういうものを活用していかなくちゃいけないと思います。それを活用すると、小さな力でもすごく大きなものになると信じているので、ぜひそんなふうになっていけばいいなと思いますし、ますます時代はそんなデザインの力を期待しているなと感じるので、みなさんがんばってください。

齋藤:

デザイナーって共通言語をどの人とも持てる天性の勘をもっていたり、その訓練を受けてきた人だと思います。毛玉みたいに、今の時代はプロダクトデザインでつまみ上げても、モビリティや法律やテクノロジーみたいなものが一緒についてきちゃう。
逆にいうと、そこまで領域を広げることができるとも言えるので、今、もしプロダクトデザイナーという仕切りの中にいたとしても、他にジャンプしていい時代だと思うんですね。
もしくは他の分野のこと、経済の仕組みやAIとか、自分の意見をもっていないと、そこに切り込めないので、しっかりそういう知識をつける訓練をしてやっておく。それをやっていかないと、デザインの真の美しさを作れないと思うので、そういう少し違った視点から見る訓練をするといいと思います。

どれだけデザインの視点で読み解くことができるか

質問者1:

美しさを翻訳できるために、多様な言語をもっている、翻訳することもデザイナーの役割の一つかと思うのですが、いかがでしょうか。

柴田:

まさにそう思いますね。デザイン自体にかかわることは当然ですが、それ以外のことにどれくらい理解ができるか、それ以外のことをどれだけデザインの視点で読み解くことができるかというのがすごく重要なのかなと思います。

齋藤:

デザイナーの総合力を求められていると思います。美しさというのは機能が高いとか全体の調整能力がすごいとかもあるんだけど、デザインである以上はできるだけいろんなものを見る。バランスを考えながらつくるということなのかなと思います。

「これもしかしたらデザインなのかも?」と思うところに、デザインの未来がある

質問者2:

グッドデザイン賞に応募したいと思っているんですが、形のないものに対して、今回のテーマでなにかお話いただけたらうれしいです。

齋藤:

「美しさ」は無形有形関係ない時代だと思います。グッドデザイン賞は、昔はプロダクトの賞だったけど、今の若い学生とかは昔はプロダクトだけの賞だったって知らない人も増えていると思います。
無形のデザインには、仕組みとか社会・コミュニティをどう変えるかなどたくさんある。ただ、グッドデザイン賞に応募するとなると表現が難しいんですよね。審査委員の人をミスリードしないように、そのデザインがあることで世の中の何がどう変わったのか、というプレゼンが難しい。それができるといいと思います。

柴田:

審査委員の人たちも、形のあるなしはあんまり感じなくなっていると思います。これは質問に対する答えじゃないんですが、グッドデザイン賞に出したことない人が、出してみようと思うときに、きっとこれはデザインなんじゃないか?と思ってるんじゃないかと思うんですね。
それを逆に知りたいというか、これもしかしたらデザインなのかも?と思うところに、すごくデザインの未来がある気がします。

自分の軸足を持つこと

質問者3:

私は機械工学出身ですが、商品企画をして調整もやります。今後デザインを独学で勉強して、いわゆるノンデザイナーを目指しています。デザイナーになりたいわけではなく、デザインを語れるノンデザイナーになりたくて、そこに対してアドバイスをいただきたいと思います。

柴田:

ノンデザイナーでデザインを語る人はたくさんいます、有名なところだとスティーブ・ジョブズがそうだし、経営者の人もデザインを深く理解していて、ものづくりとかサービスの本質を貫いていることをお話される方が多いです。

齋藤:

ノンデザイナーもデザイナーの時代だと思います。調整してる人も立派なデザイナーだと思います。言い方はいろいろあると思いますが。個人の観点で意見をもつということがすごく大事で、軸足がどこかにあって、そこから少しずつ自分の意見をもっていけば、一つずつデザインの勉強をし直す、ということはなくても大丈夫なのかなと思います。

井上:

本日は幅広くお話をお伺いできて、よかったと思います。ありがとうございました。

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