公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

[Report]『オリンピック・デザイン・マーケティング エンブレム問題からオープンデザインヘ』発刊記念トーク

去る3月21日(水)、インターナショナル・デザイン・リエゾンセンターにて、『オリンピック・デザイン・マーケティング エンブレム問題からオープンデザインヘ』発刊記念トークを開催しました。

同イベントは、2017年11月に上梓された『オリンピック・デザイン・マーケティング エンブレム問題からオープンデザインへ』について、著者である社会学者の加島卓氏を招き、毎日新聞編集委員の永田晶子氏を聞き手に迎えて行ったトークセッションです。

当日は季節外れの雪の中にもかかわらず、多くの聴衆が集まり、エンブレム問題を通じてこれからのデザインのあり方を真剣に考える熱気に満ちたイベントとなりました。 


2015年7月に佐野研二郎氏が発表した東京オリンピックのエンブレム案において、他のデザインとの類似性が話題になるとともに、その選考過程にも疑問が生じたことで、結果的に案を取り下げることとなったいわゆる「エンブレム問題」。

加島氏は、このエンブレムをめぐる言説が、“パクリかどうか”、“出来レースかどうか”という話に終始していて、まったくエンブレム、そしてデザインの話をしていないという事実に強い違和感を感じ、それが本作の執筆動機となったそうだ。

そこで、オリンピックに対して、デザイナーと広告代理店がどう関わってきたか、つまり、エンブレムおよびマーク(注:エンブレムは各大会固有のマークとともにオリンピックシンボルが組み合わさったものを指す)の「作り方」(デザイナー側)と「使い方」(広告関係者側)の歴史をみていくことで、造形的な評価を重んじるデザイン関係者とマーケティング的な評価を重んじる広告関係者が、オリンピックを巡ってどのような関係にあったのかの変遷を紐解き、今回のエンブレム問題の実像を明らかにすることを試みたという。

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セッションでは、まず初めに永田氏からエンブレム問題について、毎日新聞東京本社の記事に基づき、改めて経緯の紹介があり、引き続いて、オリンピックマークの「作り方」と「使い方」の歴史から、加島氏の話がスタートした。

加島卓氏

永田晶子氏

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日本におけるオリンピックマーク制作は、1964年東京大会(作:亀倉雄策)、1972年札幌冬季大会(作:永井一正)と、少数の経験豊かで実力の確かなデザイナーに対する指名コンペで決定しており、「作り方」を重視して作られてきた歴史があるという。

一方、世界的に見ると、オリンピックマークは関係者以外の商業目的での乱用が問題となり、1970年代以降はその防止のため、有償での利用が推進されるようになっていた。そして、1976年のモントリオール大会における膨大な赤字の計上を契機として、1984年のロサンゼルス大会からは、スポンサーの使い勝手を重視するようになり、オリンピックシンボルとエンブレムを区別して、エンブレムの商業利用を認め、マーケティングありきの「使い方」を優先する体制へと変化を遂げていったという。

1998年の長野冬季大会におけるエンブレム選考も、その流れに則り、個人のデザイナーを対象にするのではなく、広告代理店やデザインコンサルタント事務所4社による指名コンペティションとなり、商標登録から不正利用の監視まで、マーケティングプログラムで徹底的に管理された作りとなっていた。そこで、2020年の東京大会についてデザイン関係者は、1964年や1972年のような造形的な評価を重んじる選考に戻したいと考えたのではないか。加島氏は、これが今回のエンブレム問題の背景にあると指摘する。

他のデザインとの類似性が問題視された際、佐野氏は、どうやってエンブレムを作ったのかを述べ、類似デザインとの作り方の違いから“パクリ”ではないという説明をしたが、炎上は収まらなかった。つまり、デザイン面を重視するあまり、「作り方」側からの説明のみを繰り返したことで、専門家以外の納得が得られなかったということである。

これに対し、2012年ロンドン大会でもエンブレムのデザインについて批判が殺到したが、英国の組織委員会は、「このエンブレムは、みんなで育てていくブランドである」と言い切り、「作り方」ではなく「使い方」を重視することで、市民を説得した。

今回のエンブレム問題においては、このようなデザイン関係者の「作り方」にこだわる強い意向が広告関係者にも無視できなくなっていった経緯があり、加島氏は、この両者の調整がうまくいかなかったことが、“出来レースかどうか”という問題についても、疑念を持たれる結果を生み出す原因になったと指摘した。

佐野氏によるエンブレム取り下げ後、新たに選ばれた野老朝雄氏の手によるエンブレムは、知的財産権保護をしにくく、ある種誰にでも使える市松模様をモチーフとしていたことで、オープンデザインとして活用しやすいものになった。これは結果として、どの状態をエンブレムの完成形と見なすのかを問い直し、今後のエンブレムデザインのあり方に一石を投じるものとなっている。

加島氏は、これだけ多様性が認められるような世の中で、オリンピックという世界を巻き込むイベントにおいて、専門性に基づいた評価だけでは、みんながいいと思うデザインを選び合意形成するのは難しいという。その上で、これからのデザインは、作った時点で完結するものではなく、デザインを使って何をしたいのか、市民の能動性をどう使うのか、というところまで考えること、つまりデザインを使って達成したい目的をクライアントが考え、責任を引き受けるべきで、それを決めるのはデザイン関係者でもなく広告関係者でもないと述べた。

これを受けて、聞き手である永田氏は、メディアの側としても、デザイナーの作家主義的な部分をバックアップし、アートとして扱って来てしまった責任があるので、デザインは何かのためにあるかということを考え、改めて肝に銘じたいと語り、イベントを締めくくった。




加島卓(かしま たかし)

1975年東京都生。東京大学大学院学際情報学府博士課程修了。東京大学助教などを経て、東海大学文学部広報メディア学科准教授。博士(学際情報学)。専門はメディア論、社会学、デザイン史、広告史。著書に『〈広告制作者〉の歴史社会学』(せりか書房、2014年、日本社会学会第14回奨励賞)、『オリンピック・デザイン・マーケティング』(河出書房新社、2017年)。2015年8月のエンブレム問題では、TBSラジオ「Session-22」やNHK「クローズアップ現代」などに出演。






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