テーマ企業インタビュー:北三株式会社
2017年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2017年度は、テーマ8件の発表をおこない、10月25日(水)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
天然木の美しさと機能性をもったツキ板加工技術
お話:北三株式会社 取締役本部長 冨部久氏
世界中の天然銘木でツキ板の製造、加工、販売までを一貫して行うメーカー。銘木と呼ばれる天然木の美しい木目は、どんなに世の中が変わっても、人々に温かさとともに安らぎの感覚をもたらしてくれる。大型のカンナ刃で約0.2mmの薄さにスライスして作るツキ板は、この企業が長年培ってきた、木をみる目、そしてそれを加工する技術に支えられている。デザインの力によって新しい活用が期待される技術である。
ーー御社の歴史について教えてください。
創業者で下駄職人であった尾山金松が1918年に北海道に出向いたことから北三の歴史は始まります。下駄の材料を求めて山に入ったときに、タモの切り株を見つけ、ナタを入れたところ美しい木目が現れました。それを薄く切り取り下駄の上に貼ったところそれがとても評判になったそうです。そこからツキ板の会社としての北三の歴史が始まりました。
ーー創業は何年になりますか?
1924年です。銘木と呼ばれる良質な天然木を国内中から仕入れ、下駄だけでなく、鏡台や箪笥などの家具も手がけるようになりました。ツキ板の厚みも最初に下駄を作った時には、1.5mmだったものが、その後、1mmに、1955年頃には0.3mm、その後独自の技術で究極の薄さである0.2mmという日本国内のツキ板のスタンダードを実現しました。今の技術では最薄で約0.1mmの薄さまで削り出すことが可能です。ツキ板だけでなく、ツキ板を合板に貼った化粧パネルを製造し、アメリカや中国などに輸出しはじめたのが1962年になります。この頃には世界中の銘木を取り扱うようになりました。
ーーツキ板製造のプロセスを教えてください。
選木した原木は、玉切りをして長さを決め、美しい木目がだせるよう慎重に木取りを行います。柾目、木目に切り出したフリッチは、切削しやすいように煮沸槽で温度と時間を調整して煮沸をします。表面をきれいに清掃したものをスライサーなどの機械を使い切削をします。それを基材となるものにすべて手作業で貼っていきます。そう言った意味ではツキ板は工業製品と工芸品のあいだの製品だと思います。木材は天然のものですので、マニュアル通りにはいきません。長年の技術の蓄積で、ツキ板、及びツキ板を貼った製品の品質に関して自信をもっています。
ーー現在御社の主力商品のひとつである「サンフット」はどのような経緯で生まれましたか?
ツキ板の薄さを利用して、何とか木の壁紙を作れないかと思いついたのがきっかけでした。単なる壁紙ですと防火性がありません。それでは商業施設には使ってもらえないということで、中にアルミ箔を入れた製品の開発をしました。そうすることで、湿度でのツキ板の伸び縮みを止めることが出来るのと同時に、不燃の認定をいただきました。その後も紙や接着剤の改良を重ねて、現在の天然銘木不燃シート「サンフット」として販売しています。「サンフット」は天然木のツキ板に北三の技術を集約した特殊ベース材を貼ったものに、表面塗装を施した製品です。曲き込み施工、曲面施工、着色が可能で、法定不燃材料の表面に施工することで、不燃認定を取得することができます。
ーーこれまでどのようなものに使われていますか?
家具や建築などの化粧材としてはもちろん、さまざまな場所やものの内装に使われています。主に国内外の有名ホテルや音楽ホールや店舗などの公共商業施設の内装に使われ、最近ではJR九州の「ななつ星 in 九州」といった高級鉄道車両の内装にも使われて話題になるなど、付加価値のある商品に育っています。
ーーツキ板の原料となる原木はどのような国から輸入しているのですか?
世界40カ国から約200品種の木材を輸入しています。だいぶ前に丸太の輸出が禁止になった、ブラジルやボリビアといった国には、現地に(削除)工場を作り、そこでツキ板や挽き材の製造を行っています。丸太は現在9割ほどが輸入材です。丸太は、樹種や産地の特徴や外見のみで美しい木目(削除)を見極めることができる職人が一本一本選木しています。
ーー原木を薄く削りツキ板に加工するメリットはどのようなところにありますか?
ツキ(突き)板とは木目の美しい原木を選び、それを薄く削いだものです。カンナで突いて削り出したことでそう呼ばれるようになったそうです。紀元前3000年に始まった古代エジプト時代にはすでに家具や小物に使われていて、日本でも奈良時代に発達し、正倉院にツキ板を使った家具が残されています。長い年月をかけて生長した木が作りだす銘木の美しい木目も、家具などに無垢材として使ってしまえばそれで終わりです。それをツキ板に加工することで、希少で美しい木目をより広い面積で使うことが可能になります。エコでありながら、美しい木目を有効利用できるのです。
ーー下駄からスタートして装飾的な用途から、ツキ板でしか出来ない機能的な用途へと進化しているのですね。
そうです。内装材として壁や天井に天然木をそのまま使う場合、風合いも見た目も美しいのですが、どうしても防火性や割れやすさといったデメリットが生じます。ツキ板という商品を使っていただくことで、天然木ならではのぬくもりや温かみを残しつつ、壁一面を美しい木で楽しめます。天然銘木のツキ板はそのまま使うことはもちろん、着色もできますので、デザイナーの皆さんが希望される色にもできます。木質系素材はもちろん、ガラスやプラスチック、革などにツキ板を貼り合わせることも可能です。
ーー御社のツキ板を製造する独自の技術を教えてください。
貼る技術はどこにも負けないものがあると自負しています。接着剤と接着条件を研究開発する研究所があり、貼る基材との相性も含めて日夜研究して製品を開発しています。お客様のハードルの高いご要望にも弊社の技術力を生かして対応することができます。
ーーデザイナーにツキ板の良さを伝えるとしたらどのようなことがありますか?
天然の木のやさしさ、やすらぎは時代が変わっても人々が求めているもので、身近に使っていただく可能性を秘めたものだと思っています。現在はプリントで木目柄の壁紙なども出回っていますが、天然木のツキ板は深みが違いますし、木それぞれの特徴も生かすことができる素材です。壁や天井などに使うだけでなく、消費者の方々がツキ板の美しさを身近に感じていただけるような、われわれが思いつかないようなアイデアをご提案いただければと思っています。ツキ板は極端に言えば、ひとつとしてまったく同じ木目はありません。その樹種と木目を選ぶところからデザインが始まるといえます。また、貼り方を変えることで同じ樹種でも違ったものに見せることができます。
ーー今回のアワードではデザイナーとどのような製品開発をしてみたいですか?
一つは、小売で流通して一般消費者が買える商品を作ってみたいと思っています。デザイナーのお名前とともに弊社の名前が併記されるような、ツキ板の特性を生かした商品を開発してみたいです。売り場で弊社の名前をみることで、一般消費者への認知度だけでなく、社員のモチベーションもあがると思うんですね。ツキ板は表面材ですから、さまざまな用途があると思います。今までにないようなデザイン、そしてそれを使った商品ができることを期待しています。
北三株式会社 取締本部長 冨部久氏
北三株式会社(江東区)https://www.hoxan.co.jp
世界中の天然銘木を各地から集め、ツキ板の製造、加工、販売までを一貫して行う。今年で創業94年目となり、長年培われてきた集材のネットワークとツキ板切削技術、様々な基材への貼り付け技術等を駆使し、”美しい木目を暮らしの中へ”という思いをこめて、ものづくりに取り組んでいる。ツキ板製品の他にも、原木やランバー、木材専用塗料も扱っており、木に関するすべてのことにこだわり抜いた製品を世に送り出している。
インタビューと写真:加藤孝司
2017年度東京ビジネスデザインアワード
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html