テーマ企業インタビュー:株式会社石山
2017年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2017年度は、テーマ8件の発表をおこない、10月25日(水)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
独特な風合いを持った特殊紙ボンテックス
お話:株式会社石山 代表取締役 関根利明氏、取締役営業部長 島田貴史氏
ラテックス樹脂を含浸させた特殊紙「ボンテックス」。水に強く、曲げや、表面強度と加工性の高い紙として、靴やカバンの芯材に幅広く用いられている。この特殊紙を長年取り扱うのが、靴の中底の分野では、50年の実績をもつ台東区にある株式会社石山。紙としてのそのユニークな特性から、アイデア次第では、さまざまな使い方が期待される素材である。
ーー長年紙を扱うメーカーとして、特殊紙に特化するようになった経緯を教えてください。
初代は茨城県坂東市の出身で、収穫された農作物を包装する紙を扱う会社として創業しました。その後、さまざまな紙を扱うようになり、荒川区三河島、そして現在の台東区に本社を構えるようになってから特殊紙と呼ばれる紙製品を扱うようになりました。
ーーボンテックスは靴の中敷きにも使われていますが、扱うようになった背景には、台東区周辺に靴の製造所が多いという土地柄もあったのでしょうか?
そうですね。浅草に近いということで、靴やカバンなど革製品を扱う工場や問屋が多いこととも関係していると思います。
ーー今回のラテックス樹脂を含浸させた特殊紙「ボンテックス」は、いつ頃より取り扱いを開始されたのでしょうか?
ボンテックスはアメリカで生まれた紙です。弊社の取引先が輸入元をしていた30数年前から取り扱うようになり、弊社が輸入総代理店となり9年になります。
ーーということは海外産のボンテックスの取り扱いからスタートされたのでしょうか?
もとはアメリカのボンテックスがあり、その後日本のメーカーがロイヤリティを支払い、国産のボンテックスをつくるようになった経緯があります。
ーーボンテックスにどのような可能性を感じ、取り扱いをするようになったのでしょうか?
弊社は先代から中底をつくり、浅草地区の靴中底材料屋に卸していましたが、ボンテックスがもつ、丈夫で耐水性が高いという特性に着目しました。
ーーボンテックスの特性について教えてください。
皆さんがイメージされる普通紙は、取り扱いも加工もしやすいのですが、強度の上では弱いという弱点があります。それと風合いはあるのですが、濡れると雰囲気が変わってしまいます。その点ボンテックスには耐水性があるというのが、他の紙にはない一番の特性です。
それと強度ですね。私どももボンテックスの製造工場に何度も立ち会わせていただいているのですが、耐久性を検査する機械(SATRA)で何万回もの曲げ試験などに合格したものだけが市場に出回ることができます。その強度はお墨付きです。それともうひとつの魅力はしなやかさです。強いのに品があるというか、和紙もとても魅力的な紙ですが、ボンテックスにも独特の風合いと味があります。
ーー現状どんな製品に使われていますか?
製品からは見えない、隠れる芯の部分に使われています。具体的には靴の中底の芯、カバンの芯や蓋の部分など頻繁に折り曲げる部分の芯などです。何度も折り曲げても壊れず、雨に濡れても強い。そんな特性をボンテックスは備えています。
ーーボンテックス自体、複数の厚みがありますが、どのような用途で使い分けがされているのでしょうか?
弊社の在庫としては0.4mmから2.0mmくらいのものが生産可能です。さらに厚い物が必要な場合は自社工場にて張り合わせが可能です。単体として使うことはもちろん、靴の中底ですとパスコという素材などと貼り合わせることで、しなやかさを持ちながら強度を保つことができ、靴やサンダルの中底の芯材として使われています。
たとえば女性の高いヒールの靴ですとクッション性を考えて、ボンテックスの1mm程度の薄いものを使い、それにかえりのよいスポンジを貼り合わせて使っていただくことで、しなやかさのある中底になるという利点があります。
スポンジなどと貼り合わせて、用途に応じた使い方できるのもボンテックスの良さです。
ーー厚みのあるボンテックスをそのまま使ったカバンやポーチも素敵ですね。こちらはどのような製品ですか?
これはサンプルで、今年の春に行われた展示会出品用に作ったものになります。ボンテックスのことを知っていただくために、カバンを作っている職人さんに作っていただきました。展示会ではその軽さにみなさん驚かれていました。
ーーボンテックスの紙に印刷されているマークがモノグラムのようにも見えますね。素材そのものを使った提案も可能性がありそうですね。
はい。もともとボンテックスは革の風合いに似せて作ったという側面があります。ボンテックス自体を知っていただくためにも、そのまま使うことも可能かと思います。
ーー今回のご提案ではボンテックスの活用もそうですが、坂東市にある工場の活用も希望されていましたね。
自社工場としては貼ったり切ったりが中心になりますが、弊社の協力会社さんと組むことで抜き加工なども可能ですので、さまざまなご提案をしていただくことが可能です。B to BよりもB to C向けに、弊社の工場の活用も含めた形でご検討き、アイデアをいただければ嬉しいです。デザイナーにおまかせをするだけでなく、私共も一緒になって考えながら、よりよい製品で世の中に貢献していきたいと思っています。
ーーアワードに応募した動機を教えてください。
近年、日本の靴もカバン業界も衰退していて、製造拠点も海外に移っているなかで、素材自体も海外で調達することが当たり前になっている現状があります。何か新しいことをしなければ、生き残ることはできません。
9年前、ボンテックスの輸入元になった当初から、この素材の新しい活用方法はないかと模索していました。ですが、なかなかいいアイデアが出てきませんでした。今年の2月に展示会インテリアライフスタイルの中の「素材展」に出展させていただく機会をいただき、そこで東京ビジネスデザインアワードのことを知り、今回応募させていただいた経緯があります。
ーー先日の説明会ではどのような声が多かったですか?
加工のバリエーションについて、それと現在どのように使われていますかというお問い合わせをいただきました。
ーー今回のアワードではどのようなことを期待しますか?
説明会の際には、これまでにない分野での販路をつくっていけるようなアイデアを一緒に考えてください、とデザイナーの皆さんにはお話をさせていただきました。弊社がもっている販路や工場などをご活用いただき、このボンテックスを使った新しい製品を企画の段階からご一緒させていただければと思っています。
ーーボンテックスに関しては、紙という素材の敷居の低さ、素材そのものの歴史や紙としての風合いなど、素材がもつ豊かな魅力があると思いますので、それを活かした提案があれば、新しい活用方法が生まれるのではないかと期待しています。
耐水性や耐久性などの機能を活かしたり、付加価値をつけたニューボンテックスというような発想をいただければ嬉しいです。生産体制としては、私どもはもちろん、協力企業のみなさんにも積極的にご協力いただける体制は整っています。視野を広げた展開をしていただけるデザイナーとの協働ができれば嬉しいです。
株式会社石山 代表取締役 関根利明氏、取締役営業部長 島田貴史氏
株式会社石山(台東区)http://www.ishiyamanet.jp
水に強く、曲げ、表面強度と加工性の高い「樹脂を含浸した特殊紙」
日本の総代理店として樹脂を含浸した特殊紙「Bontex(ボンテックス)」を輸入し主にカバン・ケース等の芯材として卸販売をしている。靴の中底材としての使用に関しては自社工場にてEVAやメルトン等を張り加工し靴の中底卸し業者に販売している。
2017年度東京ビジネスデザインアワード
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください