テーマ企業インタビュー06:ホットマン株式会社
2016年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2016年度は、テーマ11件の発表をおこない、11月4日(金)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
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誠実なものづくりから生まれる温かなタオル
ホットマン株式会社
お話=代表取締役社長 坂本将之氏
メイドイントーキョーの良質なタオルで知られるホットマン。製品をつくるところからユーザーに届けるところまで、国内では珍しくタオル作りのすべてを自社で行っている。その代表的製品である「1秒タオル」は高い吸水性と、使うたびに手放なせなくなる、心を豊かにするタオルである。その背景には誠実にお客様へ向き合う熱い思いがある。ものづくりに対する思いについてお話をうかがった。
ーー驚きの吸水性を誇る「1秒タオル」が生まれた経緯を教えてください。
もともと当社は長持ちするタオル、そして吸水性の良いタオルにこだわってタオルづくりをしてきました。常にいいものづくりをしてきた自負はあったのですが、宣伝することが不得手で、「良品さえ作っていれば自然と製品は広がっていく」というのが会社のスタンスでした。ですが、時代も変わり情報と物が溢れる時代になって、どのタオルメーカーも様々なプロモーションを仕掛けるようになりました。これまでも直営店の販売では、吸水性、使いやすさ、長持ちすることなどをお伝えしてきたのですが、世の中的にはホットマンのタオルの良さが埋もれてしまっている感がありました。そこでタオルの一番の機能であり、当社のタオルの特徴でもある極めて高い吸水性を分かりやすくお伝えしていくと同時に、技術の再構築をしていくために「1秒タオル(平成25年商標登録)」と命名した経緯があります。
ーー1秒タオルを作る上で一番大切なプロセスを教えてください。
いろいろありますが、洗いは大切なプロセスで川越工場のみで行っています。地下100mからくみ上げた良質な地下水を使い、生地に残った余分な油脂分や不純物を徹底的に取り除くことで綿本来の風合いと吸水性を引き出します。多量の薬剤に頼らなくても、しっかりと不純物を落としきれる水を探して川越のこの水に辿り着きました。ただ、織るときにつける糊剤を独自の配合にしたり、全ての工程が大切なプロセスです。ですがその前に「誠実」であることが一番大切です。それがあって生み出されている製品だと思います。
ーー素材について教えてください。
作り方だけでなく素材にも徹底的にこだわっています。昔は一般的なタオルはその重さで価格が決められました。そしてどこも同じ糸を使用していたので、「重い=原料費が高い」というだけで判断されていました。当社は後発で、絹織物製造業からタオル業界に入っていますので、他社とは違う技術と知識を使ったタオルづくりからスタートしています。ですので、良質な材料で作れば間違いなくいいものが作れることを知っていました。当時から一般的な価格の3倍ほどの値段でバスタオルを販売していましたが、値段は高いけれど付加価値があるものを、ということでブランドを築き上げてきました。それを実現するためには原料からこだわる必要があったのです。
ーータオル作りにはどのような機械を使っていますか?
12台のジャカード織機と19台のドビー織機でタオルづくりをしていますが、独自に改造も行っています。最近の機械は多くの設定を、スマホと同じくボタン操作ひとつで調整することができます。ですが、高いクオリティのものを安定的につくり続けるためには、やはり基本の技術を身につけた職人の腕が必要になります。どんなに機械がうまく設定できても結局最後は人の腕なのです。
ーー再来年創業150年を迎えられるということですが、タオルブランドとして「ホットマン」という名前に込めた思いを聞かせてください。
タオルは肌にかけた時の「ぬくもり」ということ、タオルづくりにかける「熱い」思い、そして当社のタオルのほとんどは直営店で直接お客様と会話をしながら販売していますので、販売員の「温かい」心というものをブランド名に込めています。
ただ店頭に並べるだけで売れていく製品ではないと思っています。他のタオルに比べて固いのになぜ高いの?と言われてしまうことも正直あります。ですがその理由とベネフィットを知っていただき一度使っていただければ、リピーターになってくださる方はとても多いです。まず「1秒タオル」を知っていただき、使っていただくために、丁寧に接客するための対面販売という形を取っています。
良いものを長く使っていただき、心豊かな生活を送っていただきたいという思いがありますし、また、長く使えることで日々の暮らしの中でかけがえのない思い出も吸い取っていただけるのではないかと考えています。
ーー青梅という産地について教えてください。
明確ではありませんが、この地は平安時代以前から織物の産地であったといわれています。江戸時代には「青梅縞」という織物が一大旋風を巻き起こしたという話もあります。今は数える程度になってしまいましたが、最盛期には繊維関係の工場が大小700軒ほどありました。そのような歴史的文化的背景の上に、当社も時代の移り変わりの中で絹織物、綿織物、さまざまな技術の蓄積をしてきました。この青梅の地でタオルという元々西洋のものに、その技術と日本の繊細な心や美意識が融合したタオルを作ろうという思いで、これまでやってきました。
ーーご自身も現場から社長になられてタオルへの熱い思いがあるとお聞きしました。
私自身、元々ものづくりの人間でしたので、織り、染め、綿の選定と仕入れ、工場全体をみるところまで経験してきました。機械で作ってはいますが、タオルは自動的に出来るものではなく、人の手で大切に一つひとつつくっているんです。現在このような立場になって働いている人、一人ひとりにいうのが、みなさんのミシンのひと縫いひと縫いがお客様の喜びに繋がっています、誇りをもってやりましょう、ということです。ものづくりへの熱い思いを若い社員に伝えていかなければならないと思っています。
ーー東京ビジネスデザインアワードではどんなことをしてみたいですか?
私たちの想像を超える驚きのあるアイデアを期待しています。正直タオルという形であれば、かなりいろんなことを考えてきました。当社の取り組みではありませんが、帽子、ジーンズ、パンツなどの衣類はもちろん、オーディオ関係にも波及していると聞きます。ただ編み物と違ってタオルのような織物は引っ掛けると糸がどこまでものびてしまうという弱点があります。これまで、そのような心配があるものについてはお断りしていたのですが、今回はそのような制約を無視して取り組むつもりです。「1秒タオル」がタオルではない使い方をしていただけるような提案がいただければ、今まで以上に広がりがでてくるのかなと期待しています。
ーーどのようなデザイナーと出会いたいですか?
基礎が出来ていないと応用は出来ない、知識がないと知恵は生まれないと私は思っています。そういった意味では、お客様の心豊かな生活、ということを理解していただいた上で、誠実にものづくりをしていただける方と出会いたいと思っています。
ホットマン株式会社(青梅市) https://hotman.co.jp
東京・青梅で育まれてきた伝統的な絹織物の技術や知識と、日本人特有の繊細な感性を融合させ、独自製法で素材の特性を引き出した、吸水性抜群の「1秒タオル」等の高品質なタオル製品を作り続ける。一貫生産の仕組みを構築し、販売まで手がける。
写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato
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2016年度東京ビジネスデザインアワード
募集期間 11月4日(金)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
http://www.tokyo-design.ne.jp/award.html