テーマ企業インタビュー03:株式会社丸和製作所
2016年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2016年度は、テーマ11件の発表をおこない、11月4日(金)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
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工芸的板金技術と自由な発想による金属加工の革新
株式会社丸和製作所
お話=代表取締役社長 中野健太郎氏
鉄、アルミ、ステンレスを素材に、金属加工、精密板金、溶接、組立までを手がける昭島市にある老舗板金会社。トラックの部品、医療、通信機器などの部品製造に加え、6年前から自社企画のプロダクトづくりにも取り組む。日本のものづくりが世界的に注目される中、工業製品でありながら工芸品のような美しさをもつプロダクトとしてデザイン界からも注目されはじめている。業界の既成概念にとらわれない自由な発想で金属加工の革新に取り組むその仕事について話をうかがった。
ーーまずはどのような素材を扱っているか教えてください。
基本的には鉄、ステンレス、アルミなどの板を扱っています。鉄に関しては0.5〜6.0mm、ステンレスは0.5〜3.0mm、アルミは0.8〜3.0mmの間の厚みであれば、当社の設備で切断、曲げ、溶接をすることができます。
ーー自社プロダクトはどれくらいの割合で取り組まれていますか? また、これまでどのようなものを手がけてこられましたか?
オリジナル製品の売り上げは全体の7%ほどになります。残りはすべて、金属加工、精密板金、溶接などの仕事になります。プロダクト作りに関しては、レーザー加工機による微細加工と金属加工技術を活かした、金属の魅力を活かしたプロダクトの開発を手がけてきました。具体的には建築や工場の床材として使われることの多い工業用の縞板を使ったプロダクトの開発、スリットで組み合わせる1.8mの高さの什器や、まだ発表していないのですが、産学連携でパーテーションも手がけています。OEMを含めるスマートフォンケース、コーヒーメーカーのためのコーヒー用カプセルホルダー、レーザー加工によって景色をかたどった置物、文具であればテープカッター、枡、東京都との事業で縞板を使ったキッチンツールを作ったりしています。
ーー得意とする技術、独自の技術を教えてください。
板金加工に関しては半世紀以上の歴史で培われてきた技術があります。また特殊設備とその可能性を十二分に発揮する職人たちの技は他社にはないものです。他社との差別化という点では、私たちにしか出来ないことに日々チャレンジしています。たとえば展示会で製品を出品すると、機械のメーカーから「こういうものを切ることができる設定になっていないのに、本当にうちのマシンで切ったの?」と驚かれることがあります。最初はデータの変換など大変な作業もありますが、そこをクリアしていくと、フリーハンドで描いたような図案でもレーザー加工機でそのまま抜くことができます。
ーーその他にはどのような技術を得意としていますか?
繊細な曲げを得意技術としています。最新のスマートフォンなどの微妙な曲線のものにも、手仕事に近い技で曲げ加工を施すことができます。また板金屋としては珍しく、抜き、曲げなどの技術を身につけた金属に強い2名のデザイナーがいます。素材、生産性の良さなどを考えた上でメーカーに提案できるのも強みです。100%受注型から、提案のできる会社に移行しつつあります。
ーー職人さんの手仕事の技術の高さを感じました。機械生産といっても単にデータを入力してでき上がりではないのですね。
その通りです。20歳から働いている若い職人たちはすぐれた感覚をもっていて、見た目や手触りで寸法をきっちり出すことができます。それは一人ひとりの職人たちの努力の結晶です。
さきほどレーザー加工機で自由な加工ができると言いましたが、逆にレーザーで出来ないものの中に、プレス機を使って抜くエンボスや立体的なルーバー加工があります。最大3mのものまで抜き・曲げができますので、50cmのものを6個同時に加工することで、価格的に抑えることができるのも強みです。
ーー創業年と何代目かを教えてください。
戦時中、飛行機整備の仕事をしていた祖父が昭和33年に創業、会社としての設立は昭和35年になります。社長としては私で3代目になります。以前は、いただいた図面通りに製品を作る下請けの仕事が100%でした。私が社長に就任してからは、社員みんなでアイデアを出し合って、当社が持っている技術で皆さんに喜んでもらえるものを作ろうと奮起しました。当時15名いた社員を3名ずつ5組のチームに分けて、地元の展示会に向けてオリジナル製品に取り組みました。その時、将棋の駒やトンボなどといったプロダクトが生まれました。
ーーそこから、現在の御社の取り組みが始まったのですね。
はい。金属でこんなものまで作れるのか、と一部で評判になりました。自社での取り組みを進めていこうと考えていた時、ある人からデザインの重要性について話を聞きました。私自身デザインにまったく興味も知識もなかったのですが、時代や取引先に左右されず、自分たちの力で売り上げを確保したいと思い、次のステップとして産学連携の募集を始めました。それとほぼ同時期に、都の補助を活用しながらデザイナーを雇い、今ある自社製品が生まれました。
ーー大学とも連携されているのですね。
多摩美術大学とはデザインの必要性を感じていた頃に出会い、デザイン科の学生たちと一緒にものづくりをしたのが2010年のことです。現在2年連続で恊働させていただいている武蔵野美術大学は取引銀行の営業担当の方に相談したことがきっかけです。テープカッターや枡といったプロダクトが生まれ、今も来年7月のゴールに向けて動いている最中です。
ーー自社プロダクトとしてはどのような製品がありますか。
工業用の縞板をつかった「縞板(しまいた)」という、当社の代表的なオリジナルプロダクトシリーズがあります。もともと普段職人が自分で箱型に加工し、部品入れとして工場の中に転がっているものでした。それがまさか一般の人に受け入れられるとは思ってもみませんでした。私たちにとっては当たり前すぎて見慣れているものでも、一般の方にとっては実は新鮮で、別の用途に使っていただけることは新しい発見でした。
縞板をつくっている工場の方も、このような形で一般のお客様と繋がることができるのなら嬉しいと、喜んで原料を提供してくださっています。普段工業の世界でつくっているものは、素材やパーツだけ見ても、最終的にどのようなものになるのか、一般の方はもちろん、われわれも分かりにくいものがあります。それが「縞板」のようにお店から直接ユーザーの手元に届いて、生活の中で使っていただけるというのは、作り手であるわれわれにとって、とても励みになります。新しいものづくりについてはベテランの職人に反対されることもありますが、たくさんのユーザーの方に使っていただいていることが分かると180度変わります。そういった意味でも助かっています。
ーー「縞板」シリーズは、どのようなところに流通していますか?
一番多いのは東急ハンズで、東京都美術館、リーディングスタイル、アンジェビュローなどのショップでもご覧いただくことができます。OEMですとガガミラノ、マムート、ダイドードリンコ、カタログ販売でも取り扱っていただいており、普通の板金屋としては考えにくいお客様とお付き合いさせていただいております。
ーーものづくりの面白さはどんなことだと思われますか?
私は職人だった祖父がこの会社を立ち上げ、ものづくりの仕事をしていることだけは理解していましたが、学生時代の私は美術はもちろん、図工や技術にそれほど興味がありませんでした。父はこの仕事には携わっていませんでしたので、この世界に多少距離がありました。ですが、大学を出て就職した先がうちよりも規模の大きな板金会社で、そこでものづくりの面白さに気がつきました。危険と隣り合わせの仕事ですが、素材から形になっていくことが面白く、すっかりはまってしまいました。偶然、30そこそこでこの会社の社長になりましたが、今もこの業界は父くらいの年齢の人が社長というところがほとんどで、私はまだまだ若造です。しかし、若い者にしかできない新しい発想があると信じて、他では挑戦しないようなところにもチャレンジするということの大切さに気づきました。
ーーそのチャレンジ精神こそがオンリーワンになれる可能性ともいえそうですね。今後の目標を教えてください。
最初はあの会社の若い社長はどうかしたんじゃないかと言われたこともありましたが、今は「何か一緒にしましょう」と言ってくださる同業者の方も増えてきました。これからの目標としては、今は7%であるオリジナルプロダクトの売り上げを、OEMも含めて全体の3割までもっていくことです。それはとても難しいことなすが、他社がもっていないようなパイプを強みにしてやっていきたいと思っています。ですが当社の規模で出来ることは限られていると思うので、新しい道を開拓したいという同業者の方とも恊働しながら、業界全体としてチャレンジしていきたいです。
ーー東京ビジネスデザインワードを通して、どのようなデザイナーとものづくりをしてみたいですか?
ブランディングを含めて、新しい空気を持ち込んでいただけるような、金属に対して理解を深めていただける柔軟な感覚をもった方と一緒にものづくりをしていきたいです。最終的な製品にすることを目的に、お互いのデザインと技術を持ち寄ってやっていただける方であれば、どのような方でも大丈夫です。
伝統工芸と私たちの技術をミックスするなど、オリンピック・パラリンピック後の工業を見据えた、新しいものづくりをしてみたいです。そういった意味でも、長い目でお付き合いいただけるデザイナーの方と出会えたら嬉しいです。
株式会社丸和製作所(昭島市) http://www.maruwa-ss.com
金属加工、プレス溶接加工、板金・精密板金加工を行っており、量産可能な最大3mの抜き曲げ加工から、最小1mmの曲げ、機械メーカーが驚くほどの微細加工まで、長年培われてきた板金技術と他社にはない特殊設備により提供している。
写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato
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2016年度東京ビジネスデザインアワード
募集期間 11月4日(金)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
http://www.tokyo-design.ne.jp/award.html