テーマ企業インタビュー08:株式会社星共社
2016年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2016年度は、テーマ11件の発表をおこない、11月4日(金)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
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人の心を豊かにする技術としての「三方金」
株式会社星共社
お話=取締役 白井広昌氏、部長 杉江誠氏
聖書製本により培った三方金付、三方銀付加工で知られる製本会社。上製本、薄紙、特殊な紙での製本などを幅広く手がける。三方金の分野で同社は国内で高いシェアを誇りつつも、特殊な技術である三方金の新しい価値を創造すべく日々挑戦を続けている。デザイナーとの恊働により、まだない新しい商品開発とともに、技術ブランドとしての確立も期待される。
ーー三方金とはどのような背景で生まれた技術でしょうか?
三方金は書籍の背中以外の天、地、前小口の三方の断裁面を金付けする世界的にも伝統のある技術です。その発祥となったのは17世紀のヨーロッパで、特に長く読まれ続ける聖書の紙の変色や虫食い、収縮、ホコリなどから守り長く保存する目的で生まれました。書籍を守る耐久性に加え、大切な本に高級感をプラスすることができます。
ーー現在ではどのようなものに三方金を施すことが多いのでしょうか?
基本は書籍で、その中でも聖書が多く、当社で手がける製本全体の3割ほどになります。聖書は30年に一度大改訂をしますので、その際にはニーズがぐんと増えます。その他には、理工書の専門書、国文学の一流書、ノートやダイアリー、辞書、四方に金を付ける名刺や招待状、カードなどを受注することが多いです。ちなみに当社の機械で製本できる最大の厚さが広辞苑サイズになります。
ーーどのような機械や道具を使って金付けをするのでしょうか?
三方金は最初全て手作業で行われていました。1955年に日本で初めて口語訳聖書が出版されてからは、大量の聖書の三方金付けの依頼に応えるために、当社では小口の下磨きから金付けまでを自動でできるスイス製の自動金付け機を、いち早く導入した経緯があります。やがて自動金付けの技術も確立されていきました。現在では、機械で対応できるものが99%で、今でも年に一度は、金沢の金箔、紙やすり、卵白に薬品を混ぜてつくる接着剤、金コロという昔ながらの道具を使って、手作業で講壇用の聖書の金付けをしています。
ーー創業年を教えてください。
昭和8年、1933年に文京区真砂町に創業しました。元々は創業者が今も小石川にある共同印刷に修行にいったことに由来しています。戦時中に満州に進出し、終戦後にシベリア抑留を経て帰国後文京区表町、現在の小石川に製本工場を再建しました。そこで株式会社化し、徐々に聖書の製本を手がけるようになり1949年から聖書専門工場となりました。1952年から社名は現在の星共社になりました。
ーー金付けには、純金を使うのですか?
手作業のものに関しては今も変わらず金沢の純金箔を使用します。スイス製の自動金付け機で加工するものに関しても純金を使う場合もありますが、今はメタリックといってドイツ製のロール状のホイルを使って三方金加工を施しているものが多数です。機械で金付けするといっても、一方ずつ金付けを行う仕事は人間の手と目が必ず必要な作業になります。
ーー純金が使われなくなってきているのは、純金以外の素材であるメタリックのクオリティが上がったからというのもあるのでしょうか?
そうですね。もちろん長期保管という意味では純金が一番優れているのですが、今ではメタリック自体のレベルもあがってきており、純金に近い輝きを書籍に施すことができるようになってきています。
ーー1ページ1ページをめくる書籍の全体の面にぴったりと箔を貼る技術はすごいですね。先ほど工程を拝見させていただきましたが、金付けをするプロセスは機械化されたといっても、職人さんがつきっきりで作業しているのには驚きました。一番難しいのはどのようなところになりますか?
機械を使いこなす技術は専門の職人でなければできない、非常に高い技術になります。やはり書籍の面をきちんと揃えて機械に入れるというところが、仕上げに影響する肝の部分になり、シンプルですが一番重要な工程です。そこを揃えないと機械に通したときに綺麗に面に箔を貼ることができません。50年以上経験のある熟練した職人が、今も三方金の製造に関わっているのはそのためです。
今では多くのものづくりが機械から入ると思いますが、三方金の技術は逆で、基本的に手作業から機械の工程に入っていきます。むしろ手に技術を持った職人たちの提案から機械が導入され調整されているという、現代では考えにくい経緯があります。
ーーものづくりの工程を考える上でとても興味深いお話ですね。若い職人も育っているのですか?
そうですね。なかなか難しいのですが、ここ数年で数名育成中です。職人がもつ技術の継承はこの業界でもとても難しい問題です。部分部分をできる者はいるのですが、全体をトータルでできるのは現在数名だけです。継承するためにも「手作業」の部分は残していきたいと思っています。自社でも新製品を開発しようとしているのですが、そこにもどこかに手作業のプロセスを取り入れたいと考えています。
ーーどのような思いでものづくりをされていますか?
世の中に書籍という文化価値の高いものを提供する仕事です。なので、長持ちするよう丈夫に、そして綺麗に作りたいという思いがまずあります。今回、アワードのテーマとしては、純金での三方金に加えて、メタリック金、銀、色箔やホログラム箔なども同時にご提案しています。日本の製本技術は世界的にみれば独自の高い技術を有しているにも関わらず、一般にはまだまだ浸透していない部分があります。丁寧な仕事で丈夫な本を作るという技術を知っていただく機会になればと思っています。
ーーものづくりの喜び、面白みはどのようなところにありますか?
製本という性質上、B to Bの取引が中心になりますので、どうしてもコンシューマーの声が作り手の耳には届きにくいというところがあります。その中で、美しさ、綺麗さ、丈夫さなど、「星共社の作る本はやっぱりいいよね」というお客様の声を聞かせていただくことは大きな喜びになります。作っている私たちにしても三方金はとても豪華に美しく仕上がりますので、そういったものを手がけているという自負はあります。一人ひとりのお客様と大切な本を通じて直接対話できるような、風通しのよい環境を作りたいと思っています。
ーー個人の方や少部数のオーダーにも対応していただくことは可能ですか?
繁忙期にはお待たせしたり、やむをえずお断りしてしまうこともあるかもしれませんが、お客様一人ひとりの大切な本への思いと、丁寧に向き合っていきたいと思っています。製本に関することでしたらまずはご相談ください。
ーー新しいことにはどのような思いでチャレンジされていますか?
そもそも三方金自体が世の中にあまり知られていません。三方金の加工技術の素晴らしさをより多くの方に知っていただくのも私たちの役目です。今は紙を媒体にしたものしか提供していませんが、これからはより広い業界や物に応用して、世の中に広めていきたいと思っています。
三方金は物の付加価値を上げる技術といっても過言ではないと思っています。そう考えると三方金はまさに時代のニーズにそった技術ですし、技術ブランドとしての価値を高めていけるのではないかと思っています。
ーー三方金は見た目に鮮やかですし、新しいものづくりをする上でもある意味分かりやすさのある技術の一つであると思います。東京ビジネスデザインアワードではどんなことをしてみたいですか?
本の価値を高めるという側面に注目していただき、それをのばしていくために可能な限り、新しいチャレンジを続けていきたいと考えています。今後は紙だけでなく、いろいろな素材への応用にもチャレンジしてきたいです。紙にしてもノートやダイアリーのようなものだけでなく、他にもいいアイデアがあれば一緒に考えていきたいと思っています。レトロでも最新の方向でもどちらでも構いません。
ーー「経年変化」を「味」と捉えてその風合いを楽しんだり、めでたりする側面もあります。伝統的な三方金の技術そのものを革新するような斬新なアイデアがそんなニーズに応えるきっかけになるかもしれません。
B to Bは完成度のより高いものを求める風潮がありますが、消費者の方の思いとしては、クオリティはもちろん、既存の感覚でははかることのできなかった、心が豊かになるものを求める部分があると思います。とにかくたくさんの方の声をお聞きしたいと思っています。
ーー三方金自体がまさに人の心を豊かにする技術ですよね。どのようなデザイナーとものづくりをしてみたいですか?
当社の歩みを理解していただき、今目指していることを理解していただき、その上で新しいことに取り組んでいただける方とアワードを通じて出会いたいと思っています。私たちの技術でできることはなんでもお応えしますので、気軽に相談してください。精神的な部分で繋がることのできるデザイナーの方とものづくりをできれば嬉しく思います。
株式会社星共社(文京区) http://www.seikyosha.co.jp
三方金・三方銀、薄紙製本、特殊製本といった高度な技術を必要とする製本技術を誇り、永年国内の聖書の大半を制作し続けてきた。伝統的な手法により三方金手作業加工を国内で唯一できる会社。機械による大部数の製造にも対応。
写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato
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2016年度東京ビジネスデザインアワード
募集期間 11月4日(金)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
http://www.tokyo-design.ne.jp/award.html