公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー07:有限会社三陽工芸

2016年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2016年度は、テーマ11件の発表をおこない、11月4日(金)までデザイン提案を募集中です。

本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。

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光を活かした印刷技術で日常生活にイノベーションを
有限会社三陽工芸
お話=代表取締役 南場敬介氏

自社で研究開発をしたダブルイメージ印刷、透明導光パネルの技術で新しいものづくりにチャレンジする三陽工芸。スポーツイベントなどのサインシステムや光源への応用など、日常の体験にイノベーションを起こす可能性を秘めた技術である。たゆまぬ探究心によって生み出された光と印刷の技術を新たなものへと展開し飛躍させるクリエイティブとのマッチングが求められる。

ーー創業は何年になりますか?
1977年に先代である私の父が福生で創業した会社です。創業当時はタイプライターや端末などのキートップに文字を機械彫刻で入れるような仕事をしていました。やがてシルクスクリーン印刷へ移行し、金属への印刷を得意とするようになりました。90年代以降は樹脂材への印刷比率が増え、エレベーターの表示板や階床ボタンなどの意匠部品への印刷を多く手がけるようになりました。2006年に現在のあきる野市に工場を移転、最近は金属への印刷も挽回してきました。

ーー近年では新しいことにも取り組まれてきているのですね。
私は5年前、父を継いで代表になりました。エレベーターのパーツなど表示系部品の印刷では、光源を用いて何かを表示する仕様が多くなり、お客様からの相談もそのような案件が増えてきました。また同時に、要望の傾向が見えてきたこともあり、こちらからも提案できるように新しい事にも取り組んでいます。今回の東京ビジネスデザインアワードも、近年開発した光の技術を応用したものづくりが出来ないかと思い、応募しました。

ーー技術開発とお客様からの依頼、現在の業務比率はどのような状況ですか?
お客様からの依頼が業務の中心ですが、そのニーズや依頼に取り組む中での気づきが元になって生まれた技術も多いです。今回の透明導光パネルも透明材の貼り合わせ技術と反射体の素材選びなど、異なる出所のものを組み合わせ、これまでの経験を活かして生まれたものです。ダブルイメージ印刷に関しても、輝度ムラが出て表示文字の視認性が悪くなるという従来方法の問題点を解消できないかというご要望から発展した形です。

ーー依頼内容に忠実に取り組む過程でも、よりよいものが生まれるヒントがあるわけですね。
はい。試作の中で、こうしたらもっといいものになりますよ、という提案はさせていただいています。当社の規模では月数万個単位の量産はできませんし、他社との差別化という意味でも発案、提案に力を入れています。ここ数年は、技法的に幅広いアプローチが取れるように昔からある機械を使いつつ、徐々に新しい設備も導入し、自由に開発に取り組める環境を作っているところです。

ーー今回のテーマであるダブルイメージ印刷、透明導光パネル、この二つの技術について教えてください。
ダブルイメージ印刷は、一枚のパネルの同一エリアの中で2種類の画像が切り替わるというものです。原理としては色の補色の働きを利用しています。輝度ムラによる視認性の低下の問題を回避するために、独自のパターニングを取っています。従来はシルク印刷で印刷を行っていましたが、UVインクジェットを使うようになり、より高精細に、また写真やイラストのような画像の切り替えもできるようになりました。
透明導光パネルはエッジ入光型の導光板ですが、光を入光していないときにはほぼ透明に見えるパネルに、光を入光するとイメージが浮かび上がるように表示される、意外性とユニークさをあわせもつ技術です。極めて高い透明度を可能にするために、UV貼合技術を用いています。

ーーどのくらいの大きさのものが製造可能ですか?
ダブルイメージ印刷は、おおよそ400×600mmのサイズまで、 透明導光パネルは360×600mm程度まで可能です。ただし、これらはあくまで印刷可能なサイズなので、実際には光源のシステムも同時に考える必要があります。

ーー同一面におけるふたつの像の重なりや、透明なパネルに浮かび上がるクリアなイメージというのはとても未来的な表現ですね。どのような開発背景があったのでしょうか?
透明導光パネルはもともとパチンコ機器の装飾用イルミパネルとして普及していた技術です。通常は射出成形で金型を用いて製造しますが、金型を作るとどうしても初期費用がかさみます。その代替方法として印刷ではどうか? という開発の依頼がありました。透明化の技術のもとになったのは、透明な2枚の板を張り合わせるという技術で、もともと数年前に、印刷の薄い皮膜が透明な樹脂の中で浮かんで定着しているイメージを実現したくてトライしていた技術でした。最初はどんな接着剤を使ったら良いのかわからず、いろいろ試してみました。印刷したインクを溶かさず、気泡なども入らないように貼り合わせるのはかなり苦労しました。

ーー透明なパネルにイメージが浮かび上がる様は、宇宙空間に浮かぶモノリスのような感覚を覚えます。ご自身ではこの二つの技術がもつ可能性についてどのようにお考えですか?
自分でもいろいろ取り組んでみたのですが、発想の部分に苦戦しています。ダブルイメージ印刷に関しては、安全/危険など二項対立の表現ができるので、公共空間における利用が見込まれるのではと思っています。黒地に浮かび上がるというところが少しダークに捉えられる傾向はあるかもしれませんが、二つの画像が重なり合う過程、動的な部分を含めた一つの表示物として提示できれば面白くなるのではと感じます。
透明導光パネルに関しては、現状ホコリや傷などのメンテナンス面での課題解決に取り組みながら、新しい使い方を考えている最中です。光の方向性を活用した照明器具など、これまでにないアイデアをデザイナーの方と一緒に考えていけたら嬉しいです。

ーーどのような思いでものづくりをされていますか?
子供のころからものを作るのが好きで、現在はシルクスクリーンや特殊印刷の世界にどのような面白さがあるかを考えながら仕事しています。毎日同じことの繰り返しが多い仕事の中で、この職業をどのようにすれば魅力あるものにできるか、社員、それから自分自身としても、この仕事に新鮮な興味を持ち続けていくにはどうしたら良いのかをいつも考えています。今は世の中にないけれど、あったらいいなと思えるものを作ってみたいという気持ちをいつも持っています。

ーー東京ビジネスデザインアワードでどのようなことをしてみたいですか?
会社として新しい取り組みをしたいと思い応募しました。自分が作った技術に対して、デザイナーの方からどのような反応があるか興味がありました。そして自分だけでは考えつかない可能性について、一緒に考えていただける方と出会いたいと思いました。自社製品を射程に入れたときに、自分だけで決めたことを売り出していくのは、開発した本人の思い入れもありますし、だからこそ独りよがりなところも出てきてしまって問題も多いのではと思います。なので、われわれ職人とデザイナーの方とでチームを組み、お互い納得して製品を作っていきたいです。

ーーどのようなデザイナーとものづくりをしてみたいですか?
粘り強く付き合ってくださる方だと嬉しいです。ダブルイメージ印刷、透明導光パネルともに、それだけで製品として成立するものではありません。シチュエーション、タイミングなど、使うシーンをいかにイメージできるかが商品化には重要になってくるはずです。意見を交換し合いながらチームワークでものづくりをしていければと思います。

有限会社三陽工芸(あきる野市) http://www.sanyoukougei.co.jp
特殊印刷技術の経験を生かし、データ作成から製版、材料、インクの選定・調合、試作・量産の治工具の考案・設計など幅広い工程を扱う。抜き、樹脂・金属加工、UV貼り合わせ、塗装、組立て等の関連加工まで一括して行うことが可能。

写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato

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2016年度東京ビジネスデザインアワード
募集期間 11月4日(金)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
http://www.tokyo-design.ne.jp/award.html

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