公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー02:株式会社日光プロセス

2016年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2016年度は、テーマ11件の発表をおこない、11月4日(金)までデザイン提案を募集中です。

本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。

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品質にこだわった写真製版で新しい印刷にもチャレンジする
株式会社日光プロセス
お話=代表取締役 原田一徳氏

製版に特化した印刷所は現在では少なくなっている。日光プロセスは東京墨田区は下町にある、製版づくりに今もこだわりと高い技術をもつ写真製版会社だ。日々私たちが目にする多くの広告などを手がけ、トップクリエイターとの仕事も数多い。写真製版を中心に新しい表現を追求するその仕事は、あらゆるジャンルのデザイナーにとって刺激的なものになるだろう。

ーー創業の地は大阪だそうですね。
もともと写真製版業に携わっていた祖父が昭和28年(1953年)に独立して、住まいのあった大阪の平野区に工場を構えたのがはじまりです。

ーー戦後の出版業が盛んな時期ですね。一徳さんで何代目になるのですか?
私は現在39歳なのですが、25歳で父から受け継ぎ、三代目になります。祖父の時代はガラス板に職人が絵をかくように彫った湿板をつくって印刷することが主流でした。まさに職人の世界だったんですね。そのあとにフイルムがでてきましたが、それでもレタッチといって職人の手作業が不可欠な世界です。

ーーどのようなお仕事をされていますか?
ポスター、カレンダー、カタログ、新聞雑誌などの製版、および印刷です。またポスターやカタログのフォトレタッチ、インクジェットプリンターによる大型ポスターの作成も自社で可能です。

ーー実際の仕事の流れを教えてください。
デザイナーからデータを受注し、それを印刷物として求められている色や表現に加工します。その最終成果物として、印刷のための版をつくり、印刷物として刷るというところまでの仕事をしています。製版を専業としている会社は現在日本ではほぼ皆無で、印刷機をもって自社で印刷している会社がほとんどのようです。当社では印刷機をもたずに、今も製版を中心に仕事をしています。そのような会社は私の知るところではあまり多くないと思います。

ーー御社の強みと得意とする技術、独自の技術を教えてください。
一言でいえば製品の「品質」です。そしてそれを実現する技術と思いをもっていることです。技術の部分で一番誇れるのは、フォトレタッチの部分だと思います。お客様が求めている色に近づけるというもっとも大切なプロセスで、自信をもって行っています。そこは他社には負けないところだと思います。

ーーどのような機械を使っていますか?
基本となる機械はインクジェットプリンターです。簡単にいえば家庭用インクジェットプリンターの大きなものが7台。出力機としてはとても大きな部類になる、2500mm幅のUVインクジェットプリンターが1台、世界の美術館や図書館にも導入されているリアルスキャナーが1台あります。また赤、青、黄、黒の四色を単色で刷る色校正機が大小それぞれ1台あります。印刷に関しては、大量に刷る必要があるものは外注していますが、そのもととなるものは自社で手がけていますし、インクジェットのポスターなどは自社で出力して出荷しています。

ーーリアルスキャナーとはどのようなものですか?
大阪の工場にある一畳分の畳もまるごと読みとることができるとても大きなスキャナーです。もともとスキャナーは使っていましたが、リアルスキャナーでは、実際のものの素材感や凹凸などの質感であったり、ものがもつ素の表情を印刷の表現に反映させることができます。最適な環境設定で被写体を入力しますので、デジタルカメラと比べて歪みや不要な映り込みがなく、再現性もリアル、作品の負担を最小限にとどめることができます。これまでグラフィックを中心に仕事をしてきましたが、それ以外にもできることがあるのではないかと思い導入した機械です。いままでとは違う世界と繋がるためには、我々から発信できる材料が必要でした。おかげさまでお客様には「日光プロセスは何でもできるね」と喜ばれています。

ーーいまは機械を中心に作業をされているのでしょうか?
機械でやっているといっても、それを指示するのは人間です。そこには職人が長年培ってきたノウハウや腕が発揮されます。その部分の若い職人への技の継承はできていると思います。

ーー機械の時代になっても人間の経験と手技は欠かせないということですね。
そう思います。数値管理がクローズアップされる時代ではありますが、数値が同じでも見た目が変わるということはよくある話です。それを管理できるのはやはり人間の目や経験です。よいものをつくるためには、優れた技術者の存在は欠かすことができないのです。

ーー会社全体でいま何名の方が働いていますか?
大阪、東京をあわせて70名が働いています。フォトレタッチの技術者は15名です。若い技術者も育っていますが、一人前になるには最低でも3〜5年の経験が必要になる世界です。

ーー若い方でもこの仕事をやりたいという方は増えているのでしょうか?
おかげさまで人の目に触れる広告などのお仕事もさせていただいておりますので希望者は多いです。

ーークライアントはどのような方になりますか?
大手メーカーや広告代理店、個人のデザイナー、職種はアートディレクター、クリエイティブディレクターが中心になります。

ーー身近な印刷物のほか、私たちが普段街で目にするような製品を手がけられることも多いですか?
たとえばJRや東京メトロなどの中吊り広告は、特に目にしていただける機会の多い仕事だと思います。そういった意味では自分たちが関わった仕事を実際に目にすることができるのは、日々のモチベーションにもつながります。

ーーものづくりへの思いを教えてください。
祖父の代につくった社訓の中に「良品」という言葉があります。とにかくよいものを作ってお客様に提供したいという思いで日々仕事をしています。特別なものを作ろうと思うと気負いがでてきてしまうものですが、当たり前のレベルを上げていくことができれば、自ずと製品の質もあがっていくと思います。お客様にそこを意識させることなく品質を上げていくためには、当たり前のレベルを上げていかなければなりません。その点を意識していつも仕事をしています。

ーーその当たり前を真っ当にやるということは実はとても難しいことでもありますね。
当たり前をするにしても無意識と意識してやるということがあると思います。現状、実現できているとは思うのですが、無意識の領域をさらに広げていくことが目標です。

ーーこの仕事の面白さとはどのようなところだとお考えですか?
お客様のイメージを、具体的なものにするのが私たちの仕事であり、腕の見せどころです。お客様が求めているものにフィットした仕事ができたときには、強いやりがいを感じます。そしてお客様の希望を超えていけるような、高い次元での化学反応を起こしたいといつも考えながら仕事をしています。

ーー東京ビジネスデザインアワードでどんなことをしてみたいですか?
ひとつは、今までやってこなかった新しいことをやってみたい。もうひとつは、自分たちのこだわりをもってものづくりをしているというブランディングイメージを、デザイナーの方の力をお借りして具体的なものにしたい。いまは受注の仕事が主ですが、その挑戦のためには自分たちから何かを発信したいと考えています。

ーーどのようなデザイナーとものづくりをしてみたいですか?
「ものをつくる」ということを大切にしている人と出会いたいと思っています。そこに面白さを感じてくださる方であればどなたでも! ユーザーの方も、作り手である私たちも笑顔になるようなものを作ってみたいです。デザイナーの方と心で繋がることができれば幸せです。またこれをきっかけに印刷のお仕事で何か困っていることがあったら、日光プロセスに行けばなんとかしてくれる! と思っていただけたり、私どもの仕事を広く知っていただければ嬉しいですね。

株式会社日光プロセス(墨田区) http://www.nikkop.co.jp/
ポスター、カタログ、カレンダー、新聞、雑誌などの製版・印刷を本業に、様々な用途に使用する画像の作成(スキャニング、補正等)においても質の高い加工処理を行う。最新の設備を導入して常に技術力を磨き、近年では大判インクジェット出力にも力を入れる。

写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato

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2016年度東京ビジネスデザインアワード
募集期間 11月4日(金)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください http://www.tokyo-design.ne.jp/award.html

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