<REPORT> 文化庁メディア芸術祭・池内啓人、森 翔太、白久 レイエス樹氏トーク
第17回文化庁メディア芸術祭が、さる2月5日から16日にかけて六本木エリアで開催された。文化庁メディア芸術祭にはアート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門がある。優れた作品を表彰するとともに、受賞作品の展示、シンポジウムやワークショップなど、多彩なプログラムが組まれていた。今回は、芸術祭のプログラムの一環である、エンターテイメント部門で受賞した、池内啓人氏(優秀賞『プラモデルによる空想具現化』)、森 翔太氏(審査委員会推薦作品『仕込みiphone』)、白久レイエス樹氏(審査委員会推薦作品『スケルトニクス』)ら3名の作家と、久保田晃弘氏(審査委員/アーティスト/多摩美術大学教授)をモデレーターとして迎えたプレゼンテーション・トークを紹介する。
久保田氏は冒頭で、芸術祭の中でもエンターテイメント部門は「何でもあり」で、形式が決まっていないところが醍醐味と言った。ファンタジーとは楽しい嘘とつまらない現実との狭間であり、ファンタジーとリアリティーをどうやって上手くつなげるか、ファンタジーをどうやってリアリティーに帰着させるかが面白いそうだ。
池内氏は、プラモデルを使ってパソコンとその周辺機器を改造した作品『プラモデルによる空想実現化』で優秀賞を受賞した。題名である、「プラモデルによる空想具現化」とは、彼によると制作しているすべてのことを指す。今回の作品は、まるで秘密基地のようで格好良いパソコンの中身を、プラモデルを使ってジオラマへと具現化したものである。特に、マザーボードを未来の宇宙ステーションとして表現した点に注目が集まる。ジオラマのような大作は、始めから全体を想定して作っているのではなく、一つ一つの部分を制作してから全体に合わせていく。ジオラマ一つに、およそ3ヶ月もの時間を要する。ヒト一体には1、2時間。プラモデルは、はじめは単色の状態なので、そこに自分なりのアイデンティティを、エアブラシを用いることで投影しやすいようだ。プラモデルと出会ったのは大学に入ってからと決して早いスタートではない。最初は、戦車や飛行機のプラモデルを手本通りに作っていたが、次第に、もっと可能性があるのではと思うようになった。「説明書一本の道ではなくて他の道もあるのではないか」その疑問を解消するために、プラモデルでパソコンのマウスを戦車に見立ててみた。これを皮切りに、パソコンの周辺機器、そして本体までもプラモデルで作ってみるようになった。池内氏は他にも、iPhoneケースやUSBカード、あるいはアニメのフィギュアなど、自分の描く空想に形をもたせてるために、プラモデルという手法を用いて制作している。そこには、使いやすさや便利さは度外視された、池内氏の理想のファンタジーをプラモデルで現実に落とし込むという趣向が重視されている。久保田氏は、どんどんリミックスしてマッシュアップされていることが現代的で面白く、コンピューターが動作可能な状態で使われていることが新しかったと評価していた。
森氏は、スコセッシ監督作品「タクシードライバー」に出てくる、ロバート・デニーロ扮する主人公トラビスが、腕の動力で拳銃が手元に飛び出す「仕込み」装置を自作したシーンを参考に、仕込みiPhoneを作製。森氏自身も出演するコミカルな仕込みiPhone紹介動画が話題となり、250万件の視聴数を誇る。現在は5号機を試作中で、20種類の仕込みiPhoneを作ることが目標だそうだ。森氏いわく、仕込みiPhoneは社会に自分自身を発信する動機付けであり、社会とつなぐツールだと言う。このアイデンティティに賛同した海外の人から応援メッセージが届いたこともあった。彼自身のキャラクターと、そこから生まれる装置全てを含めて、一つの作品だと感じられた。
白久レイエス樹氏率いるチームスケルトニクスは、搭乗型外骨格(パワードスーツ)スケルトニクスを開発した。注目の点は、動力を電力に頼らず、搭乗している人物による人力のみで動作することだ。素材はアルミフレームで、全体で25キロほどの重量となり、身体全体の拡大に成功しており、ダイナミックな動きを表現することができる。今後のさらなる進歩により、多様な業界での貢献に期待が寄せられるが、白久レイエス樹氏は、映画「トランスフォーマー」が好きで、車に変形できるスケルトニクスを開発したいと述べていた。
3氏の活動は、日本国内はもとより、海外からも好評を受けている。池内氏は、主に欧州からの展示依頼が多いという。森氏は、フランス人記者から密着取材をされた。白久氏には、国を問わずスケルトニクスの図面を見せてほしいとのメールがよく届く。彼らが共通して認識していることは、日本では実用的なことばかりが求められるが、海外ではアイデア自体を評価されることが多く、海外の方が手応えがあることだ。活躍の舞台はドメスティックに留まらない。良いモノは国を超えて評価されるようになった。しかし、海外で評価されて初めて、国内で注目を浴びる「逆輸入」のような形を最良とは考えていない。国内で評価され海外に出る。国内で、良いモノを生み出している個人やグループを、積極的に取り上げて欲しいというのが3氏の総意であった。
(会場:東京ミッドタウン・デザインハブ/インターナショナル・デザイン・リエゾンセンター)
齋藤悠也/JDP