公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会
Please note that this page is available only in Japanese.

テーマ企業インタビュー:株式会社志村製函所

2023年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2023年度は、テーマ11件の発表をおこない、10月30日(月)14:00までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ:デジタル印刷を活用した段ボール資材への加工技術

1955年に創業し、半世紀以上にわたり段ボールや包装資材の製造を手掛けてきたメーカーである志村製函所。2023年、段ボール用インクジェット機では珍しい6色インキ対応の最新鋭のデジタル印刷機を導入し、新たなものづくりに取り組みはじめた。従来では再現出来なかった色域の表現と細かな印刷が可能になったことで、95%がリサイクルされるエコな素材である段ボールの可能性は更に無限に広がったといえる。段ボール+印刷+デザインで喜びをもたらすものづくりとは。


お話:志村製函所 山下慶太様、株式会社出羽紙器製作所 橘木知美様

■美しい色彩を纏う未来の段ボール

ーー20233月にあらたなデジタル印刷機を導入されたそうですが、まずはこの機械について教えてください。

Hanway社のREVO 2500Wというヘッドが往復するマルチパス方式の水性インクジェットプリンタでCMYK4色にオレンジとグリーンの6色のインクを搭載した最新鋭の段ボール専用インクジェット機になります。日本にはまだ4台ほどしかないと聞いています。一番の特徴は、従来のインクジェットの段ボール印刷機に比べて鮮やかな色彩での印刷が可能で、表現が豊かになったところです。それと、超高速段ボール専用印刷機ということで、以前の機種に比べると生産性が2倍ほどアップしました。白の段ボール面に印刷することで、更に鮮やかなカラー面の再現が可能になります。

ーー世の中にはさまざまな印刷機がありますが、段ボール専用の印刷機があることは知りませんでした。

段ボールへの印刷はフレキソ印刷が一般的ですが、フレキソ印刷の場合樹脂製の凸版が必要で高額な製版費用がかかる上時間もかかります。段ボールのシートに直接印刷ができるものはまだまだ普及がされていない上に、ここまでの色表現ができるところも稀で、それが弊社の強みにもなっています。

ーー 一般的に見かける段ボールへの印刷と言いますと、ワンポイント的なものが多い印象があります。

インクジェット印刷やフレキソ印刷、オフセット印刷などが一般的ですが、フルカラーで段ボールに印刷をする場合、オフセットやシルクで印刷したものを段ボールに、「合紙」といって貼り付ける加工をしなければならないのですが、この機械でしたら段ボールのシートに直接印刷をすることが出来る上、大量生産の必要がなくデジタルデータさえあれば一枚からフルカラーで生産できるのもかなり優位性があると思っています。

ーー従来の印刷に必要な版下が不要で、デジタルデータがあれば作成が可能ということですね。

はい。おっしゃる通り版下不要でコスト減になりますし、デジタルデータをいただければすぐにでも対応できます。文言の一部だけを変更など、可変印刷が容易であることもデジタルの良いところです。

ーー御社が試作された名画の複製を拝見しましたが段ボールならでの表面のテクスチャーもですが、油絵のタッチも再現されているように見えて素晴らしいです。

ありがとうございます。ぜひ近づいてみていただきたいのですが、油絵のキャンバスの表面の凹凸感やヌメっとしたところも表現できていると思います。段ボール自体にも額装されているかのように厚みを持たせたデザインに仕上げています。これなどは弊社の段ボール加工技術を使って作っています。

ーー御社の強みである自社で段ボールシートを製造するところから、製函(加工)までワンストップでできるところがオリジナルなものづくりに活かされているのですね。自分で撮った写真や絵なども段ボールに印刷していただくことは可能ですか?木やアクリルに額装したものと比べて軽量に仕上げられる利点があると思いました。

はい。データでいただければこちらで出力データに加工をして額縁風作品を製作することが出来ます。

■段ボールにデザインの考えを取り入れる

ーー新機種導入の経緯を教えてください。

弊社代表の小林が好奇心旺盛で行動力もあることもですが、世の中に段ボール会社が溢れている中で、他の会社さんとどうすれば差別化が出来るかと考えていた時に、この印刷機に出会ったそうです。コロナ禍もあり会社は大ダメージを受けていた最中ではありましたが、チャレンジしなければ次の展開もないという社風がありましたので、守りに入るより攻めに入ろうと導入を決めました。

ーーチャレンジしなければ成功も失敗もないということですね。

はい。次から次へと新しいことにチャレンジする弊社社長の姿を見て、社員も前向きに引っ張ってもらっているところはあると思います。

ーーREVO 2500Wでの印刷プロセスを教えてください。

イラストレーターソフトで作成したAiデータをカットデータに入力し、出力データに切り替えて出力というプロセスになります。

ーー機械が出力するものとはいえ、印刷機のオペレーションなどの部分で熟練した技術が求められそうですが。

印刷に加え立体となると製造工程の部分で段ボールの特性など専門的な知識や経験が必要になってきます。通常の印刷データをトンボに起こすということとは異なり、毎回データの作り方も変わってきますので現場の職人とすり合わせをしながら製品を作っています。

ーー御社には専門のデザイン部門もありますね。

はい。これまで段ボール業界においては、デザインはあってなかったようなもののような部分もあるのですが、代表の小林の考えでも、デザインは重要であるという考えが浸透しています。設計部、デザイン部門を設けておりますので、デザインを考えるところからお客様にご提案出来るのも強みになっております。良いデザインは製品の付加価値にもなります。この業界にデザインという考え方を普及させたいという思いもあります。

ーーREVO 2500Wを使い御社の技術を使って制作したものは、印刷のクオリティがものすごく高いと感じました。それはやはり高度な印刷技術を持ってしても、従来の印刷機では難しかった表現なのでしょうか?

そうですね。今までの機械ですとCMYKの4色機が主流でした。6色が使える新機種に比べるとどうしても色が浅かったり色域が狭く、比べると見劣りをしてしまいます。この機械を導入したことで格段に美しい表現が可能になりました。

ーーこれまでのCMYKの機械では同じデータで印刷をしてもこの色は出すことができなかったのですね。

同じデータで従来機と新型機で出力したものを見比べてみましたが、オレンジ、グリーンもよく色が出ていますので、違いは一目でわかる仕上がりです。

それは、データ上にはあっても、4色の出力表現では色域が狭くて見えていなかったものが、6色の出力表現では見えるようになっていて、段ボール印刷の技術がグッと上がったことを実感しています。

ーー今回のアワードでの提案もそうですが、印刷機の特性を熟知していきながら段ボールのテクスチャーを活かした新しいデザイン=表現を生み出すことが出来れば、この機械の可能性をさらに広げることが出来そうですね。

まさにその通りでこの機械の性能を熟知しノウハウを蓄積していくことで世の中にはこれまでになかった段ボールに新しい表現、アピールが出来ると思っています。

ーーデジタル印刷機に対応する、もしくは適切な厚みがありましたら教えてください。

印刷機のスペック上1.5mmから16mmまでの水分を吸収するものでしたら印刷可能となっています。テストをしたところ、コート加工や極端に薄いものは印刷には不向きでした。珪藻マットのような水分をしっかり吸収するものでしたら理論上印刷が可能です。

ーー印刷可能な最大幅を教えてください。

最大2500mmまで印刷ができます。オフセット印刷と比べて大きなものも印刷ができます。デジタル印刷機はその意味でも優位性があると思います。

ーーそのくらい大きな段ボールの印刷物ですとどのような用途に使われるのでしょうか?

設計上、折り加工などをする部分を含めて、一枚でかなり大きめなパッケージの出力が出来ます。例えば弊社の事例ですと、大型のパソコンのパッケージ、フルカラーで印刷した壁面などです。

ーー御社は職人さんによる唯一無二の熟練した手仕事の技にも優位性がありますね。

ありがとうございます。段ボール製造に経験豊富な職人がいるのも弊社の大切な財産です。機械製造では難しい規格外の製品や試作品も工場内で小回りよく対応出来るのも弊社の強みです。

ーー御社で印刷できる段ボールにはどのようなバリエーションがありますか?

段ボールの構造として一番シンプルなものは、表ライナーと裏ライナーと呼ばれる古紙などから作った原紙と、波のような形をしたフルートと呼ばれるボール紙の中芯の三層になったものです。ライナー、フルート(中芯)はそれぞれ固さ、表面強度に種類があり、箱の中に入れるものや配送状況に合わせてその組み合わせを変えて作ることが出来ます。

また、フルートが垂直の向きですと、段ボールの強度が増すという性質がありまして、どのフルートの厚さを選ぶかによっても用途や強度が変わってきます。フルートの厚みは1mmから18mmくらいのものまであり、さまざまな厚みに積層することが可能です。

ーー手仕事の技とアイデア次第でさまざまな可能性を持った段ボール製品が作れそうですね。

はい。段ボールは、99%が運搬用途で使われることがほとんどですが、ゆくゆくは観賞用、家具や雑貨のようなものにもこの印刷を組み合わせて、世に広めていきたいと思っています。

■エコな段ボールでサステナブルなものづくり

ーーそういった意味では、今回のビジネスデザインアワードには「デジタル印刷を活用した段ボール資材への加工技術」というテーマでご参加いただいていますが、どのようなことを期待されていますか?

段ボール専用デジタル印刷機を導入し、私たちにとっても新しいチャレンジになると思い参加させていただきました。弊社のデザイン部門とは異なる視点で段ボールの可能性を見ていただき、どういったものが生まれるのか、とてもワクワクしています。

ーー今回どのような提案を希望しますか?

デジタル印刷や、段ボールへのさまざまな加工表現が可能ですので、私たちでは思いつかないようなアイデアをご提案いただき、デザイナーさんと一緒に実現していきたいと思っています。試作の部分でもアイデアベースのところから職人とともに手を動かして作ることが出来ます。サンプルカッター機もありますのでいいアイデアが生まれたら一枚から切れますし、たとえ失敗しても自社の製品なので負担が抑えられるというところもメリットになると思います国内で言えば段ボールのリサイクル率は96%とほぼ資源になっています。環境に優しい段ボールを使った新たな製品が作れれば、SDGsの視点でもアピールポイントにしていただけると思っています。

ーーデジタル印刷機を使ったフルカラーの段ボール製品も普通にリサイクル可能でしょうか?

はい。普通に資源ごみとして出していただけます。処分する時には指定のゴミ処理場に出していただき、リサイクルに出していただけるのでエコな素材だと思います。

ーープラスチック製品と比べると役目を終えた後の処分が容易なところは段ボールの強みであると思います。一方で、強度もあって長持ちするので、愛着を持って長く使えるものを、段ボールの素材で生み出すのもデザインの役割だと思います。

そうですね。捨てることが前提ではなく、愛着を持って長く使っていただきたいですね。

手にした方が喜んでくださるような製品が作れたら嬉しいです。私自身は段ボールの可能性は無限大だと思っていて、デザインの力で、いろんなことが出来ると思っています。

ーー山下さんが考える段ボールの良さを教えてください。

加工のしやすさ、持ち運びのしやすさ、使いやすさは段ボールの利点だと思います。それと先ほどの愛着とは真逆なことにはなりますが、捨てやすい手離れの良さも段ボールの良さだと思います。

ーーどのようなデザイナーやプランナーに出会ってみたいですか?

個人的には面白い人が好きなので、一緒に居て楽しい方と出会ってみたいです(笑)。それと私たちと一緒に楽しみながらものづくりをしていただける方です。弊社にもデザイナーがいるのですが、このアワードでも、ユニークな個性を持った方と出会ってみたいです。

ーー今回のアワードでは、どのようなビジネスモデルの提案を期待していますか?

これまでは、Bto Bの取引がほぼ100%でしたので、このアワードでは、販路拡大が期待できる段ボールのデザインと、個人のお客様に向けたビジネスデザインの提案をいただけると嬉しいです。その上でさらに課題としていることは、ECサイトや個人のお客さまがアクセスできるようなシステムが作れていないので、製品を売る販路や窓口をシステムとして構築する提案を期待しています。

ーーお客様と貴社を繋ぐプラットフォーム作りですね。

その通りです。現在は閉鎖していますが、コロナ禍に段ボールのパーテーションを販売したのですが、いつの時代?と言われるようなECサイトでの販売でした……。経験値がゼロではないのですが、ECサイト運営に対して、自分達の手間やお金がかからない、というところを重視してしまい、一般のお客様に届きにくいECサイトでした。

ーー貴社がビジネス展開をする上で、誰に伝えたいのか、売っていきたいのか、それをディレクションする力も求められそうですね。

デジタル印刷機を導入したことで、以前よりも、お客様が求めているものをお届けできることが増えましたし、若手もベテランもアイデアを出し合いながら、自分の仕事に誇りを持ってものづくりをしている環境です。今回、デザイナーさんとご縁をいただけましたら、社内一丸となってアイデアを実現していきます。楽しくものづくりをご一緒にできる方、面白い方をお待ちしています。

インタビュー・写真:加藤孝司


手作業で美しく溶接する銀ロウ付け技術および金属加工

株式会社志村製函所

企業HP:https://shimura-seikan.co.jp

各テーマの詳細はこちら:デジタル印刷を活用した段ボール資材への加工技術


2023年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 10月30日(月)14:00まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど

応募費用:無料

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/

BACK TO TOP
  • GOOD DESIGN AWARD
  • GOOD DESIGN Marunouchi
  • GOOD DESIGN STORE
  • DESIGN HUB
  • Tokyo Business Design Award
  • TOKYO DESIGN 2020
  • SANSUIGO