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テーマ企業インタビュー:アイ-コンポロジー株式会社

2022年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2022年度は、テーマ10件の発表をおこない、10月30日(日)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ:海洋生分解性を活かしたバイオマス複合プラスチック素材

地球温暖化、大気汚染、森林破壊など、地球規模での環境問題は日々深刻化し、私たちの生活を脅かすものとなっている。なかでも5ミリメートル以下のプラスチック「マイクロプラスチック」の拡散による海洋汚染は、長い時間軸で人間も含めたすべての生物への影響が懸念されている重大な課題といわれている。そんな中、バイオマス資源を活用し海洋で生分解できる生分解性プラスチック材料を開発したのが、バイオマスプラスチックを研究開発するアイ-コンポロジー株式会社。経済と環境の対立が問われる今、環境負荷の少ない材料が私たちのより良い未来に果たす使命は大きい。


お話:代表取締役 三宅 仁氏、取締役 小出秀樹氏

■環境のためになる世の中にない技術を

ーー御社の創業の経緯を教えてください。

三宅:大手石油会社勤務をしていた研究者の私と営業の小出の二人で2016年に創業しました。当時私たちは石油化学、プラスチック製品の開発に携わっていましたが、ヨーロッパのバイオエコノミーの機運の高まりは、横目で見ながら知っていました。ですが日本でプラスチックといえば、石油を原料に簡単に安く大量につくれるもので、しかも使いっぱなしのワンウェイ。そんな状況に強い疑問を持っていました。

ーー具体的にどのような問題意識をお持ちでしたか?

三宅:気候変動にも関わることでもあり、少しずつでも石油からの脱却をしていかなければこの先日本が原料面で立ち行かなくなるという危機感を強く持っていました。しかし先程も言いましたが政財界も含め、日本にはそのような機運がまったく感じられません。

そんな中、小出が木粉を従来のプラスチックに混ぜた材料でつくる製品を中小企業と開発していました。当時彼は木粉とプラスチックの複合材料を使い射出成形でトレーや色の綺麗な名刺ケースなどをつくることを実現していて、それを見た時に加工が難しいはずのバイオマス複合材料でいとも簡単につくれるんだと驚いたことを覚えています。

ーー地球温暖化、CO2排出削減問題など現状の社会問題に対する問題意識からものづくりを始められたのですね。

三宅:私も小出もこれからの日本に絶対必要な技術だと確信していました。石油の問題もそうですが、日本には年間800万トンもの使われていない間伐材など持て余した木材が大量にあります。でも実際には使いきることもなく、一部が山に打ち捨てられているという現状がありました。

近年、日本ではカーボンニュートラル社会の実現といってバイオマス発電に力を入れているのですが、発電所の周りの森林を取りつくした後には、燃やすための木材を海外からバンバン輸入している。こんなおかしなことがあるかと。

ーーこれだけ森林資源に恵まれた国なのに不思議に思っていました。

三宅:バイオマス資源の最大のメリットは、最終的な処分として燃焼時にCO2が排出されますが、CO2は光合成により森に戻ってまた循環する。そういうカーボンニュートラル循環社会、サーキュラーエコノミーが目指すべき社会でしょう。

木粉利用が良いのは、プラスチックに混ぜれば輸入資源からつくる合成樹脂の節約にもなるからです。それがわかっているのに大企業は一向に動かない。これからは環境配慮型のものづくりをしていかなければならないという思いがあり、そのためにもこのような材料を普及させる必要があると私たちは10年以上前から考えていたのです。

ーーすごく不思議なのですが、なぜ転換が進まないのでしょうか?

小出:ヨーロッパはコストや値段が多少上がっても環境にいいものをつくる、使うという方向にシフトし始めています。ですが日本では大量ににつくれて安いものをという時代が長く、今もそれが続いています。だったら微力であったとしても自分たちで動かす必要を感じていました。

バイオマス複合材「i-WPC」のペレット


「i-WPC」を材料につくった日用品


■射出成形も可能なバイオマス複合材

ーー現状どのような製品を手がけていて、御社ならではの強みを教えてください。

小出:これまで手がけてきた多くの製品はほぼ持ち出しでつくっています(笑)。一言でいうと私たちはバイオマス複合材料という「材料」を開発する会社です。ご存知のようにバイオマスとは動植物由来の資源になりますが、弊社では間伐材や端材などを粉砕したものにプラスチックを混ぜて木質系複合プラスチックをつくっています。なかでも弊社は溶かした材料を金型に注入し冷やして固める射出成形やブロー成形ができる次世代ウッドプラスチックがつくれることを強みとしています。

ーー御社の射出成形ができる次世代ウッドプラスチックは、既存のウッドプラスチック材とはどのように違うのですか?

小出:木粉を混ぜた一般的な複合材料製品は、住宅や公園などで使われているウッドデッキ材など、比較的つくることが簡単な押出成形という成形方法でつくられるものが限界ばかりでした。木質複合材料は溶かしたときの粘度などの関係で、通常のプラスチックのように射出成形やブロー成形で日用品やボトルをつくるのは不可能だとこれまで思われてきました。2019年のドイツで行われた研究会にバイオマス複合プラスチック材料のブロー成形ボトルを持参したら、それを見た会長に「お前達はすごいものをつくるな」と驚かれました。

ーーそれが御社が開発した複合材「i-WPC」で可能になったのですね。

はい。「i-WPC」はバイオマス由来のフィラー(バイオマスを原料とした粉状の充填材)と既存のプラスチックを混ぜてつくったペレット状のバイオマス複合プラスチック材料です。これを機械の中でお餅のように溶かし、射出成形、ブロー成形、真空成形でいろいろな形に成形することができます。。そのi-WPCの技術を応用し進化させたものが、今回のアワードのテーマとさせていただいたCO2の削減ができて、海洋ゴミとマイクロプラスチック問題の解決を目指して開発をした「海洋性分解性バイオマス複合プラスチック材料ビオフェイド」です。

海洋性分解性バイオマス複合プラスチック材料ビオフェイド


ーーユニークなのは、御社のi-WPC、ビオフェイドでつくったボトルなどの製品は、見た目も機能も普通のプラスチック製品とまったく同じに見えることです。

そうなんです。軽くてしかも木粉を加えることで逆に丈夫になり、素材としては耐熱性や弾性率もアップします。植物由来度が高いのでカーボンニュートラルにもつながります。材料的には木質感がだせたり、日用品や家電、自動車など、幅広い分野で使うことができる製品をこれらでつくることができます。

ーー射出成形やブロー成形ができる技術や素材の開発もですが、製造の難しさがありましたら教えてください。

純粋に技術的な部分の難しさです。通常、木粉をまぜた複合材は、流動性が悪く、流動性を良くしようとすると製造過程で加熱する温度を上げなければならないのですが、バイオマス複合材は200度を超えると熱分解が起こり、材料が焦げてしまうので温度を上げることができません。ですから、既存のプラスチック材のようには単純には成形ができず、成形性がよくないのです。そのために研究、試作を繰り返し、バイオマス複合材でありながら成形しやすい組成にしたというところが私たちの長年の知識であり技術です。

三宅氏と、ビオフェイドでつくった直径50cmの大きな浮きダマ


ーー現在導入例はございますか?

i-WPCは外資大手コーヒーチェーン店に2015年に採用されました。素材には木粉以外にもオフスペックのコーヒー豆や茶葉を粉砕した粉などカーボンニュートラルな自然にやさしいものも使えますし、着色も塗装もできます。付加価値としては、混ぜたものの匂いを製品にほのかに香らせることもできるんです。現在では環境問題への意識の高まりもあって大手ジュエリーメーカーではジュエリーの素材としても活用していただいております。

ーーアクセサリーにも活用されているのですね。社会的意義もあり、多くの現代的な課題に対する問題解決の糸口となるものだと思いますが、あらためて普及における課題はどのようなところにあるとお考えですか?

小出:ひとつには価格でしょうか。複合材ペレットは作るロットが小さいので一般のプラスチックのペレットと比べると、およそ3~4倍の価格になります。さらに射出成形による新たな製品の製作には高額な金型を作ることが必要となります。ですが製造は通常のプラスチック製品と同様ですので、考え方によってはメーカーが持っている射出成形機と既存の金型を使い、製品を量産することも可能です。環境にはいいことがわかっていますし、弊社の製品のように30~55%のバイオマスを混合することで樹脂の使用もおさえることができるため量産時にはコストダウンにつながります。そもそも薄いカップでしたら材料はほんのわずかで済みます。環境に良いことがわかっているのに、それでも日本の企業はどうしても二の足を踏んでしまうようです。

三宅:しかし、徐々にですが興味を持ってくださる企業の方も出てきていてありがたいです。コラボ第一弾としてアサヒユウアスさんから日本初のバイオマス「森のタンブラー」として使い捨てをしないエコカップ、それと世界初の「森のマイボトル」として採用していただきました。カップは内側にi-WPCならではの微細な凹凸があってビールを注ぐと、いい泡が立つんですよ。


■未来のすべてのものにより良いものを

ーーマイクロプラスチックによる海洋ゴミの問題はめぐりめぐって、食物連鎖による人体への影響も危惧されている状況があります。よりよい環境を目指すものとして開発されたのが御社のビオフェイドなのですね。

小出:はい。ビオフェイドでつくったものも処分時には分別して焼却していただくことが基本ではありますが、意図せず自然界に流出してしまうものに関しては生分解性プラスチックであることの意義は大きいと思います。

一般的なプラスチックは自然環境下では簡単には分解されず、ある程度の大きさまでは物理的・化学的に小さくなっても、自然界にいつまでも残り続けてしまうという問題があります。これがマイクロプラスチックと言われるものです。それだけでなくマイクロプラスチックには劣化とともに有害物質を集めやすい性質があります。

そうしますと魚などの海洋生物が誤食をし、最終的にはそれを食べる人間の体に蓄積され悪さをしたり、野鳥などが誤食するというかわいそうな問題が実際に起っています。

「生分解」というのはバクテリアがキーワードです。プラスチックは長い巨大な分子なのですが、ある種のバクテリアが出す酵素によって短い部品にバラバラに分解され、今度はバクテリアがその小さな部品を餌にして食べてしまうのでマイクロプラスチックを後に残しません。出るのは水とカーボンニュートラルなCO2だけです。

三宅:実は昔から海のゴミの問題は知られていました。ですが本気で対策をしてきませんでした。海のゴミの中で一番多いものは何かご存知ですか?

ーーベットボトルやビニール袋などですか?

三宅:それらは沿岸部が中心で、一番多いのは魚網や浮き玉で、カキ養殖でスペーサーに使うかきパイプなどの漁業ゴミです。それらは何百年も海の中で漂い続けます。それらをなんとかしないとこれから世界の海はとんでもないことになることは目に見えているんです。

ーーそれらの社会問題の解決の一助になる可能性を持つ技術が御社のビオフェイドなのですね。

三宅:そのような思いもありバイオマス由来のフィラーと海で分解する種類のプラスチックなどを混ぜてつくるビオフェイドを開発したのはいいのですが、どのように活用したらいいのか私たちには分からないのです。せいぜい私たちが考えられるのは漁具、歯ブラシ、カトラリー。食器くらいのものです。何かいい活用方法はないか。それも今回のアワードに応募した動機です。

ーー今日うかがっているのは御社のオフィスですが、製品の製造はどのように行っていますか?

小出:東京都立産業技術研究センターで自分たちの手を動かして試作しています。量産は原料を委託製造先に送り製造してもらっています。

ーーちなみに比較的長期で使う漁具など、短期で生分解してしまうと都合が悪いものもあると思いますが、生分解の時間を素材の配合などでコントロールすることも可能なのですか?

三宅:はい。それは弊社の独自の技術なのですがプラスチックとバイオマスの配合度合いによって生分解のスピードを変えることができます。

小出:実は海で分解する生分解性プラスチック材料世界でもあまりないものなんです。

ーーそうなんですか?

小出:あるにはあるのですがまだまだ高価で希少です。そこでCO2の削減にも繋がるバイオマスを多めに配合することで、原材料の使用量をできるだけ少なくするのもこの製品の目指すところになります。材料となる木粉は国内に豊富にありますので、輸入に頼ることなく自給率のアップにも貢献が可能です。

ーー今回のアワードではデザイナーやプランナーなどとの協働になりますが、どのような提案に期待されますか?

三宅:身の回りを見渡してみるとたくさんのプラスチック製品が使われていますよね。それがゴミとして自然界の中に出ていってしまうものもあるかもしれません。ひとつにはそこにデザイン性を加えることで変わることがあるかもしれない。私たちは材料を生み出す会社ですが、使い方の面で私たちの考えが及ばないものはたくさんあるはずなんです。その部分でアイデアをいただき、企業に提案することも含めてご一緒するようなことが出来ればと思っています。

ーープロダクトとしてビオフェイドを活用したものづくりを広げたいというご希望もお持ちですか?

三宅:はい。私たちとしてはモノ=製品をつくることでこの技術を世の中の人に知ってもらわないと、せっかくのいい素材も技術も広がっていきません。そもそも私たちだけでこの技術を抱え込む気はまったくないのです。私たちとしては材料をつくる会社として企業の方とのコラボレーションなどで、よりよい環境のためのものづくりをするお手伝いができたらと考えています。

小出:この材料を知ってもらうためにもただ単にペレットを見せてもイメージが湧きにくいと思うんです。そのためにもデザイン性の高い何かがあれば、それに関連する企業の方にもこんないい素材が使えるんだと興味をもっていただくきっかけになるかもしれません。そういった部分でもお手伝いをしていただける方と出会えたら嬉しいです。

ーーそうなればおのずとビジネスモデルもみえてきますね。

三宅:そう思います。素材をBtoBとして販売し、コラボ企業の方が商品をBtoCとして販売する流れを、ビオフェイドを活用してつくれることが理想です。今はアイデアとデザインの時代だと考えています。企業さんのニーズとマッチングしたデザインができるデザイナーさんと出会いたいと思っています。

三宅:グッドデザインという言葉がありますが、「いいデザイン」ということの意味には、スマートさや見た目の良さだけでなく、機能性が含まれています。そこには環境性能、倫理性能なども含まれているはずなんです。ですが長年この仕事に携わりながら感じるのは、プラスチックの世界ではそれが忘れ去られているということです。

ーー徐々に広がりつつありますがこれからという印象がありますね。御社の海洋生分解性プラスチック材料であるビオフェイドの特徴は、CO2削減に繋がるバイオマスを活用している点だと思いますが、今後の展望を教えてください。

小出:ビオフェイドとi-WPCには木粉等のバイオマスが30~55%ほどの割合で配合されていますが、国産の木材の活用は日本の林業の活性化にも繋がります。ただ、現在の日本の法律では廃棄される木材は産廃扱いになり、県をまたぐ場合に有価で買い取らなければならない現状があります。

今後の展望のひとつとしては、林地残材や稲わらやなどのバイオマス資源が豊富な中山間地域に製造拠点を持つことです。そうすれば地域の特産物をつくることも可能ですし、カーボンフリーにも寄与しながら、発電にも未利用バイオマスを活用したり、地域の持続可能な産業と雇用の創出にも寄与できるのではないかと考えているところです。

アイ-コンポロジー株式会社(品川区)

テーマ:海洋生分解性を有するバイオマス複合プラスチック素材

企業HP:https://www.i-compology.com

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


インタビュー・写真:加藤孝司

2022年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 10月30日(日)まで

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/

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