テーマ企業インタビュー:株式会社一九堂印刷所
2020年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。
2020年度は、テーマ9件の発表をおこない、11月3日(火・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
お話:株式会社一九堂印刷所 取締役 営業開発室室長 真山健氏、製造本部本部長 秋山啓治氏
1910年創業の印刷加工会社。レコードが一般化した1960年代よりエンタメ業界に本格的に進出。レコードからカセットやCDへと音楽の楽しみ方が変化する時代を経て、配信が中心となった現代においても、出来ないことはないという凝ったものづくりでエンタメ業界を中心にその信頼はいまなお厚い。
パッケージから環境負荷を減らす取り組みを
ーーどのようなものをつくっているのか教えてください。
CDやDVDのパッケージをメインでつくっている印刷加工会社です。それ以前はレコードジャケットやレーザーディスクジャケットをつくっており長年エンタメ関係のパッケージをつくってきました。そのほかですとエンタメで培ってきた技術を用いて店頭POP、化粧品の箱といった少し凝ったものや、風合いのある紙をつかった商品を展開しております。
ーー1960年代にレコードジャケットを手がけるようになった経緯は何かあったのでしょうか?
前の社長がニューヨークに行った際にレコードジャケットの加工機を見つけ、それを輸入してきたことに始まります。それまでもレコードに関する印刷をしていたのですが、加工機を見つけたことで加工もというかたちになっていきました。それが一九堂としての大きな変化のきっかけになりました。
ーー量はそれほどではないとしても、レコードやカセットで音楽を楽しむ人は現在でもいますよね。
そうですね。今でもレコードジャケットやカセットのレーベルをつくっています。
ーーこれだけ凝ったものづくりをされていると、エンタメ関係の紙ものといえば一九堂さんに相談にこられる方が多いのではないでしょうか。
お取引は大手の音楽、映画制作会社さんが多いです。
ーー今回の企業テーマについて教えてください。
国内外の環境にやさしい素材を取り扱い、その素材を加工できる技術を蓄えているところが弊社の特徴でもあります。そしてそれなりの数をつくることができるところもポイントです。ですがお客様につかっていただくという点では価格などまだまだハードルがあります。環境負荷低減はこれから絶対に必要な考え方ですので、今回を機会に少しでも広めていけたらと考えています。
ーー具体的にどのような紙があるのですか?
いろいろあるのですが、特徴的なものですと水などにつよい紙です。通常は紙の表面にプラスチック素材を貼ることで水をはじく紙になるのですが、それですと生分解はしません。当社で使っている紙は強さをもちながら、土に埋めると6ヶ月ほどで土に還るものです。
ーー環境に配慮した紙を使い製品づくりをするようになったきっかけを教えてください。
CDは通常プラケースに入っていますが、北欧で紙のCDケースが使われているということを知りました。当社でもその紙を輸入してCDケースをつくり始めたのがきっかけです。弊社では、特注の1mmの輸入紙に印刷、抜き、貼りを行いCDケースに加工しています。厚みがありますのでプラスチックのような使い方が可能です。環境の観点からプラケースを避けて、極力紙でつくろうという考え方をお客様にもお薦めしています。約20年前、紙製のCDケースを最初に大々的に使っていただいたのは坂本龍一さんでした。
配信で音楽を楽しむ時代におけるものづくりを模索
ーーそのような素材がなかなか浸透していかない理由はどのようなところにあるとお考えですか?
こちらの伝え方もあるとは思うのですが、そもそもエンタメ関連のパッケージは捨てるものではないので、マイクロプラスチック問題とは直接関係がないというのも一因だと思います。逆に使ってくださるのは、環境意識の高いアーティストの方やデザイン上ケースに印刷を入れたい方です。それとやはりプラケースに比べてどうしてもコストアップしてしまうことも一因です。環境対応の課題を意識されつつも、その手段を模索されているような方と出会うことができれば本素材の可能性が広がるのではないかと思っています。
ーー新しい出会いから化学反応が起きる可能性はありますね。
これまではパッケージなど、メインの商品に対し、副次的なものとしてつくってきましたが、逆に本素材の特長を活かして、素材自体が商品になることもあり得るのではと考えています。
ーーCDのようなメインの商品があり、それをサポートするのではない使い方ですね。
はい。デザイナーのみなさんの幅広い知見とアイデアがあれば面白いものができるのではないかと思っています。
ーーあと御社でできることは印刷と……。
自社で箔押し、抜き、貼り、組み立て、協力会社で縫製など、一通りの加工はできます。箱にしたり、何枚かの紙を張り合わせて椅子のような家具をつくることもできます。そうすることで素材としても面白いことができると思います。
ーー今回のアワードでもそのような対応をしていただくことは可能ですか?
はい。もちろんです。印刷だけでなく、印刷したものを抜いたり、それを貼り合わせたり、製本したり、組み立てたり、いろいろな加工ができます。
ーー印刷に関してもいろんなことが出来るのですか?
はい。箔押しやエンボス加工、フィルム貼りなどを含め、さまざまな印刷表現が可能です。
ーー製造は1点から?小ロットは?
小ロット多品種が得意です。
ーー珍しいものだとどんなものをつくっていますか?
アナログレコードのジャケットを小さくしたCDの紙ジャケットは日本に数台しかない昔ながらの機械でつくっています。
ーー音楽を伝えるメディアだけをとってみても、レコードからカセット、レーザーディスク、CDやDVDと、エンタメの歴史を身近に見てこられたと思いますが、一番苦労をされたのはいつになりますか?
これからだと思います。レコードからCDになったときでも、大きさは小さくなりましたが、パッケージ自体はなくなりませんでしたので、対応をすることができました。いまやCDやDVDはそれ単体だけでなく、アーティストのグッズと合わせて立派な箱に入って売られています。その箱がある限りは私どももお仕事をいただけると思いますが、それがいつまで続くのか未来は分かりません。ウィズコロナの時代になってライブの配信が多くなり、これまで会場で販売していたグッズのあり方も変化していく可能性もあります。
ーー変化のタイミングで瞬発力よく何かしらの手を打てるように準備していくことも必要ですね。
そうなんです。幸いに音楽のお仕事をしてきてよかったと思うのは、大変な仕様のパッケージを短期間に製造する依頼を結構な頻度でいただけることです。それと納期ギリギリでオーダーをいただいたり、予定していた製造スケジュール通りにいかないこともしばしばです。その経験と対応力はほかの業界のお客様では重宝されます。最近は化粧品、食品関連のお仕事をさせていただくことが多いのですが、エンタメ関係で培ってきた設計力や素材提案力、納期対応はとても評価されます。
技術と知恵で初めてのことにもチャレンジ
ーーそういうところが御社の強みになっているんですね。あらためて今回のデザインアワードの応募動機を教えてください。
弊社で扱っている素材を出す機会をずっと探していました。既存のマーケットではなかなか芽が出ない感じはしていましたので、デザイナーのみなさんからどのような提案をいただけるのかチャレンジしてみたいと思い、応募をさせていただきました。
ーーなかでも環境というキーワードは大切にされているところでもあるのですね。
弊社がもつ素材を生かす意味でも環境というワードは大切にしたいと思っています。
ーー今回のアワードでつくるものに関して、どのようなビジネスモデルを想定されていますか?
環境にやさしい素材を組合わせて当社の柱となるものをつくりたいという思いがあります。これまでBto Bのビジネスでやってきましたので、C向けの商品もつくってみたいです。ご提案次第でビジネスモデルも含めて柔軟に一緒に考えていければと思っています。
ーーどんなデザイナーと出会ってみたいですか?
多少の無茶ぶりは十分対応できる会社です。むしろ無茶ぶりをしていただくぐらいのことを希望しています(笑)。弊社では年末にお客様向けにカレンダーをつくっているのですが、デザイナーの方のこんなの出来ない?という声を受けて、既存にないカレンダーをつくっています。毎年ハードルが上がるのですが、かなり凝ったものをつくっています。
ーーデザインに期待することを教えてください。
デザインもそうですが、アイデアがポイントでしょうね……。我々は既存の実績や技術からの発想しかありませんから、どうしてもありきたりなものになってしまいますので。デザイナーの皆さまにはその部分は取っ払っていただいて、少々無茶な発想でも臆することなく出していただいた方がよいのかなと思っています。我々だけでは出来ないことも、それを出来るところを探しますし、とにかくとんがった商品づくりをしてみたいです。
ーー心強いですね。最後にデザイナーに向けてメッセージをお願いします。
お一人も応募をいただけないのは寂しいので、ぜひ応募をお願いします。デザイナーの皆さんからの無茶振りを楽しみにしています。
株式会社一九堂印刷所 (中央区)http://ichikudo.com
テーマ:環境にやさしい素材に特化した「パッケージ印刷加工技術」
1910年創業の印刷会社。築地本社からほど近い江東区清澄白河に工場を置く。1960年代にレコードジャケットを手掛けて以降、CD、DVDといった音楽、映像ソフトのエンタメ関連のパッケージを多く製造。近年は化粧品パッケージ、店頭販促物等にも進出。印刷だけでなく企画から設計、加工に至るまでワンストップで対応できるため、特殊パッケージの依頼も多い。常に市場や社会にアンテナを巡らせ、お客様に独特の提案や新しい情報を提供中。
エンタメ業界で培ってきた遊び心ある発想力と高いクオリティを環境対応素材に付加し、持続可能な資源として紙素材の可能性を更に拡げることを目指す。
インタビューと写真:加藤孝司
2020年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 11月3日(火・祝)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください