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テーマ企業インタビュー:有限会社東屋

2020年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。

2020年度は、テーマ9件の発表をおこない、113(火・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


お話:有限会社東屋 代表取締役社長 木戸麻貴氏

1914年に両国に創業した老舗袋物製造業を由来にもつ有限会社東屋。創業100周年の年に自社初のオリジナルブランド「AZUMAYA」を立ち上げた。良質な革を使い、昔ながらの職人の技でつくられる革製品は、遊び心のあるデザインとともに使い勝手のよさをもつ良品だ。2016年に6代目に就任した木戸麻貴氏に話を聞いた。


長年受け継がれてきた革製品製造技術

ーー創業の経緯を教えてください

大正3年、私の曽祖父が両国のこの場所で江戸時代からある巾着や財布、たばこ入れなど、袋物の製造業の会社として創業したと聞いています。その後、祖父は戦争で亡くなってしまうのですが、「袋物業界が続く限りこの商売を続けてほしい」という祖父からの手紙を胸に祖母から私の父へ、2016年に私が受け継ぎました。事業としては革小物のOEM製造をいまも柱としています。

ーー自社ビルの正面に飾られた水玉柄の「がま口」がかわいいですね。

私が小さい頃にはがま口を多くつくっていて、幼稚園の頃には自分は大人になったらがま口屋になるんだと思っていました。



ーーこのあたりにはところどころ古い建物が残っていますね。

はい。お隣にも戦前の建物が残っていますが、この一角だけ第二次世界大戦の空襲の炎から免れたそうです。弊社のビルの裏に隅田川の支流の竪川が流れていて、住人総出でバケツリレーをして炎から守ったと聞いています。

ーー歴史を感じます。革は大切に使えば長持ちをする素材で愛着を持ってつかっている方も多いです。御社の製品にはどのような革をつかっていますか?

墨田・台東エリアには昔から革の問屋さんがたくさんありまして、豚のヌメ革は今でも墨田の地場産業です。当社でも戦後までは豚革を中心につかっていたそうですが、現在では牛革をメインに使っています。原皮はヨーロッパやアメリカなどいろいろですが、ご依頼のものに関してはお客様仕様の革を、当社のオリジナル商品はイタリアのタンニンとクロムなめしの革を使っています。

ーー2014年に自社ブランド「AZUMAYA」を立ち上げましたがそのきっかけを教えてください。

私たち自身が本当にほしいと思うものをつくりたいと思ったことがきっかけでした。長年ものづくりをしてきて、素材選び、価格まで自分たちで決め、私たちの手から直接お客様に届けたい、そのような思いが強くなってきました。

それと子どもの頃から親にはこの商売があるから学校に行けているんだよといわれ続けてきました。長年家業を見続けてきて、商品だけでなく職人さんにも愛着をもって育ってきました。

お友だちからは麻貴ちゃんちでつくっているものはどこで買えるの?と聞かれても、ウチの商品はなかったので答えることが出来ませんでした。それもあって自信をもってお客様にお届けできるものをつくりたいという想いを長年もっていました。

これは最近わかったことなのですが、実は戦後10年間だけ3代目が「ASTAR」という名前で自社ブランドをやっていて、地元でつくる豚のヌメ革でつくった財布などを海外に輸出していたようです。実はAZUMAYAのロゴにもAのうしろに星マークをつけているんですよ。

ーーそんなところにも歴史が受け継がれているのですね。オリジナルブランド立ち上げた背景にはなにか問題意識をお持ちだったのでしょうか?

昔からお世話になっている職人さんたちに、仕事に見合ったお支払いができないかと長年思い続けてきました。直販できるオリジナルブランドをつくればそれができるんじゃないかという思いがひとつ。それとハイクオリティな商品を適正な価格でお客様にお届けするという、みんながハッピーになる仕組みをつくりたいという思いがありました。でも実際にやってみるととても難しくて…。特に当社は小売りは初めてで、なにより売り場を確保することが難しいなあと思っているところです。

ーーつくり手の方はいまも昔ながらの職人さんが多いのですか?

はい。7名ほどいて祖母の代からお世話になっているかたもいます。ですがものづくりに関してはどの業界もそうだと思いますが、職人さん不足が深刻化しています。


長く愛用できる丁寧なものづくりを

ーー現在オリジナルブランドは何アイテムありますか?

水玉をデザインしたオリジナルの「まるあ柄」と、地元にゆかりのある葛飾北斎にちなんだ「粋HOKUSAI」、それと無地のシンプルなシリーズの3種類で展開しています。アイテム数はまるあ柄だけでも20種類ほどあり、カラーバリエーションも50ほどあります。増え過ぎてしまってもう少し整理しなきゃ...と思っているところです。革だけでなく、ファスナーのクオリティにもこだわっていて、ファスナーの上下の色を変えたり小ロット生産を中心に、量産ではなかなかできない手の込んだものを丁寧つくることを大切にしています。

ーーデザインや企画は自社で手がけているのですか?

はい。AZUMAYAブランドの形のデザインに関してはお客様や身近な人の声を反映させながらすべて私が企画しほとんどのものをデザインしています。粋HOKUSAIシリーズは5代目父が手掛け私が引き継ぎました。


ーー現在商品はどのようなところに流通していますか?

自社のアトリエとオンランショップ、それと墨田区の「まち処」というショップになります。あとはポップアップショップにお声がけいただくこともあります。販売する際に心がけているのは、なるべく自分たちの手と声でお客様に伝えていくということでそのようにしています。

ーーオリジナルのまるあ柄が特徴的なのですが、これはどのように生まれたものなのですか?

100周年の際にいつもお世話になっている方にお配りする記念の手ぬぐいをつくろうというのがきっかけでした。それで知り合いのデザイナーさんにお願いして生まれたのがまるあ柄です。そばを流れる隅田川の水面と私たちをイメージしてつくっていただきました。

ーー革という素材は生き物でひとつひとつ表情の異なる奥深いものだと思うのですが、革という素材の特徴と面白さはどのようなところにあると思いますか?

長く愛用できて使い込むほどに自分の味がでてくるところは革の魅力だと思います。当社の製品ですと使っていくことで柔らかくなってどんどん可愛くなっていきます。私自身にとっては誰がつくってくれたのかが分かっているので自分の子どものように思っています。つくってくださった人の顔が見えるというのは大きいですしそれが魅力です。製品と一緒に弊社ならではの「つくり手の顔が見えるものづくり」を丁寧に伝えていきたいです。

 

つくり手の技を思いとともに伝える

ーーつくり手の顔がみえるというのは下町の企業ならではの強みですね。その部分もセットで伝えていくのは大切だと思いました。御社の技術的な部分での強みを教えてください。 

東屋の製品をつくってくださっている職人さんは昔からの方が多くとにかく丁寧なものづくりに特徴があります。革の縁の仕上げに関しても、現代で切り落としてつくる切れ目の商品も多いのですが、AZUMAYAの商品は革のへりを薄く漉いてヘリ返しをしているものや菊寄せをしてという商品が中心になります。その分手間はかかるのですが、とにかく仕上がりが美しく、お客様にもエレガントですねといわれます。すべて職人さんの手で行うヘリ返しは糊のつけかたや、返しの仕方などがとても繊細です。そこまでして仕上げたものですので手にとっていただければ温かみが伝わると自負しています。

 

ーー目には見えない部分ですが技術面に加えその部分は強みになりそうです。

はい。あともうひとつ当社の強みとしては、北斎の図案を用いた「粋HOKUSAI」をみていただくとわかるのですが、柄合わせがあります。最終的な商品にしたときに柄がビシッと合うようにひとつひとつきれいにヘリ返しをする技術はほかではあまりないものだと思います。お客様には製品にプリントしたの?といわれるくらい美しい柄合わせの技術になります。


ーー東京ビジネスデザインアワードへの応募動機とチャレンジしてみたいことを教えてください。 

大きな会社さんではできないようなものづくりを通じて、日本の職人さんの技やものづくりの技術の高さを少しでも多く日本の方に知ってもらうきっかけになればと思っています。当社では袋物の歴史と革小物の魅力を伝えることを目的に袋物博物館も併設しています。そこでは展示として革ものづくりの工程をお見せしているのですが、ひとつの製品が多くのパーツと工程でできていることをお伝えするとみなさん驚かれます。

ーーそれは職人さんのプライドでもありますね。

そうなんです。うちの職人さんはとにかくきれいにつくらなくては嫌みたいで、裁断や漉き加減など細かな技術が積み重なって弊社のオリジナル商品になっています。

ーー先ほど拝見させていただきましたが職人さんの技をデザイナーのみなさんに一度みていただきたいですね。どんなデザイナーと取り組んでみたいですか

ものづくりもそうですし、職人さんにスポットがあたるような発信の仕方やブランディングの部分でもご相談させていただけたら嬉しいです。既存のブランドである「まるあ柄」に関してもディレクションの部分でお手伝いいただけたらと希望しています。

自社ブランドの製品は私にとって子どものような存在です。ですので好きになって一緒に取り組んでいただけることが一番ですね。そのような方と出会いたいと思っています。

有限会社東屋(墨田区)https://azumaya.bz

テーマ:こだわりの精密な柄合わせと職人技が光る「革製品製造技術」

1914年創業。生産拠点を国内のみに特化した革小物のOEM生産を開始。墨田区の事業「小さな博物館」の一つとして、2004年に「袋物博物館」を自社ビル2階に開館。2014年には創業100周年を記念し、東屋オリジナルブランド「AZUMAYAmade in Ryogoku」を立ち上げ、オンラインショップをオープン。社員や、関係企業、お客さまなど商品に携わる方々に心地よく感じていただき、楽しくものづくりができるよう、円滑なコミュニケーションを日々心がけている。弊社の革製品やサービスを世界中に紹介することで、魅力ある日本の文化を発信し、日本の価値を高めていけたらと願っている。

インタビューと写真:加藤孝司


2020年度東京ビジネスデザインアワード

デザイン提案募集期間 113(火・祝)まで 

応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど 

応募費用 無料 

詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/  

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