公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会
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「政策をデザインする」開催レポート

Public&Designは、橋本直樹氏を講演者として招き、80人を対象にトークイベント「政策をデザインする」を11月15日(金)に開催いたしました。橋本氏はこの夏に経産省所属の国家公務員として初めてMFA(美術学修士)の学位を米国パーソンズ美術大で取得され、帰国後は特許庁のデザイン経営プロジェクトチームにて大阪・関西万博に向けた未来のビジョンの策定を進めています。また、一般社団法人STUDIO POLICY DESIGNを設立され、代表理事を務められています。




 満席となった本イベントには、デザイン系の仕事に就いている社会人だけでなく、行政官や学生など、幅広い年齢層からの参加がありました。橋本氏による約60分間の講演の後には、参加者からの質問を交えたおよそ40分間のディスカッション、またネットワーキングの時間が設けられ、領域を横断した様々な実践や研究のつながりがデザインの文脈で広がることが期待されました。



橋本氏による講演「政策立案プロセスと政策ビジョンのリデザイン」では、Trans-disciplinary Design(学問分野を超えた学際的デザイン)の領域でのご自身の修士研究での取り組みや、現在経産省で取り組まれている新たなデザイン経営に関する活動の紹介を通して、公共のためのデザインに向けての先進的な実例と共に、デザインと行政の関わりにおけるデザインのプロセスが示されました。創造的な政策立案にまず必要なのは、関わる人々の中に起こる「意味のイノベーション」であると言います。「自分が何に意味を見出し、情熱を持てるかどうか」が、特に公共サービスに関わる公務員に立ちはだかる最初の壁であるということです。

 また本イベントの最中には、和田あずみ/小野奈津美両氏(株式会社グラグリッド)/松井大氏(パートナー)による、リアルタイムのグラフィックレコーディングが行われました。



 講演の進行は、「どうすれば、前例や典型、ステレオタイプにとらわれずに創造的な政策立案ができるだろうか」という挑戦と、政策立案プロセスのリデザインを課題とした橋本氏の修士研究のプロセスに沿って進行されました。意思決定、実施と評価のステップへと続く立案のプロセスが更に細かく分解され、課題設定、アイディエーション、具体化、それぞれのフェーズにどのようなことをすれば、創造的な政策立案になるのかという問題が提起されました。

 講演後休憩を挟み、ディスカッション「『公』のためのデザインを考える」では、一般社団法人滋賀人 マネージング・ディレクター中山郁英氏がファシリテーターを務め、株式会社リ・パブリック共同代表の市川文子氏が、橋本氏に加えてゲストとして登壇されました。


 ディスカッションの冒頭では、市川氏の研究より、世界で取り組まれている行政×デザインの多くの実践的な事例の全体像を見るためのヒントとして、台湾の内閣府から市民が行政の舵きりに関わっていくためのオンライン投票の事例として「vTaiwan」、スペイン・マドリードの経産省から市民参加の透明性とオープンガバメントを目指した参加型予算の事例として「CONSUL」の紹介がありました。
 市川氏は、組織や学校、行政における様々な仕組みが、このままではいけない、変化しなくてはならないという分岐点に来ている。そのような様々な仕組みのデザインのようなものが要求されている現場においては、デザイナーのまず最初の役割は「こうあったらいい」という市民の気持ちや想像力を喚起すること、パブリックイマジネーションを誘発するということではないかと、これからのデザイナーの役割の可能性を示しました。

 その後のディスカッションでは、参加者からの質問をもとに、橋本、市川両氏の研究や取り組みに見られる共通的な姿勢に対する理解をより深める議論が展開されました。両氏は、行政の中の人なのか或いは市民なのか、立場は違うけれども、おそらく『変えられる』という前提で未来を見ていきましょうという目指す方向やメッセージは同じであると認識を示しました。



 橋本氏は、市民へ直接的に政治への関心をもたせること、意識を高めることの大切さの一方で、対立にもつながり得るという危険性についても述べました。そこで、CONSULやvTaiwanの事例にも見られるような、市民が政治や行政に「アクセスできる」と思えることが重要だと言います。つまり、現行の意思決定や承認のプロセスを整えるだけでなく、普段の仕事の場から色々な人と対話をして、小さなアイデアでもしっかりと向き合ってくことで市民が「アクセスできるんだ」と思えるようにすることが大切であると、行政組織の役割の可能性を示しました。

 ディスカッションの幕が閉じると、最後に、描き上がったグラフィックレコーディングについて和田氏より解説をいただきました。



 グラフィックレコーディングには、本イベントの議論によって立ち現れた、これから起こる様々な取り組みの中で創り出すことができる、官民の相互的な対話の未来の姿が描かれています。

 最後のネットワーキングでは、ドリンクを片手に熱心に対話しあう参加者の姿が見られました。「政策をデザインする」という大きなテーマを自分ごととして話し合う貴重な機会となり、充実したイベントとなりました。


構成/執筆 平山義活

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