テーマ企業インタビュー:株式会社やのまん
2017年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2017年度は、テーマ8件の発表をおこない、10月25日(水)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた8社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
国産ジグソーパズルのパイオニア
お話:株式会社 やのまん 専務取締役 矢野宙司氏、生産物流課 田中宏実氏、総務人事グループリーダー 荻野倫安氏
長年玩具として親しまれているジグソーパズルが、実は高度な職人技によって作られていることは意外と知られていない。日本最大サイズのパズル製造機を所有し、「ほかにはないもの作り」を理念に商品開発を行うやのまんは、純国産のジグソーパズルを日本で本格的に手がけたことでも知られている。新しい遊びを創造して商品化するやのまんの、もの作りへの向き合い方について話をうかがった。
ーー創業年を教えてください。
昭和29年に大阪で創業しました。当初はアメリカに日本製のミニカーの輸出業などをしていましたが、1972年のニクソンショック後に業務を輸入に切り替えたそうです。
ーージグソーパズルとの関わりはどのようなことがきっかけですか?
創業者である祖父がドイツ、フランスなどのおもちゃの見本市を回っているときにジグソーパズルをみていたことがあり、日本にあの有名なモナリザの絵が来日した際、ドイツでみたモナリザのジグソーパズルを輸入して販売しました。国中が大騒ぎしているときで、4日間で2万個売れるという爆発的なヒットしたそうです。それから日本でもジグソーパズルが広まり、玩具として人気商品になっていきました。当時は輸入物しかなく、図案も海外もののジグソーパズルは海外の風景がモチーフになっていましたので、日本人にはあまり馴染みがないということで、モナリザのジグソーパズルを輸入した翌年から、国内向けに富士山や金閣寺、SLなどジグソーパズルを製造して販売を開始しました。その後もパズルの素材を変えたり、ピースの大きさを工夫したり、球体のパズルなど、つねに新しい開発に取り組んできました。
ーー今日お邪魔している三郷市の工場でジグソーパズルの製造しているのでしょうか?
はい、そうです。1970年に三郷市に倉庫を開設し、1974年から純国産のジグソーパズルの製造を開始しました。
ーーこれまでどのような製品を手がけられてきましたか?
ジグソーパズル以外には、カードゲーム、それとゲームボーイやプレイステーション、スーパーファミコンなどのテレビゲームソフトを自社で開発して販売していました。「やのまん」の名前は、若い人のなかにはゲームソフトメーカーとして知っていただいている方もおられるようです。それと水木しげるさんとの長いお付き合いがあり、水木先生のグッズの製造販売もしています。
ーー「やのまん」さん独自の技術を教えてください。
まずは横1.5m、縦1mという日本最大サイズのジグソーパズルを抜けることです。それと8mm角ではがきサイズの204ピースという日本最小のピースを抜けるのも私どもの会社だけです。それと紙以外の透明の樹脂のジグソーパズルの製造、ウレタンのパズルなど素材を変えたものの加工も自社の工場で行っています。
ーーたとえば小さなジグソーパズルを製造する難しさはどのようなところにありますか?
ジグソーパズルを抜くのは皆さんご存知ないとは思いますが、実は縦と横別々に抜いているということもあり、ピースのサイズが小さくなるほど、少しのズレで不具合になってしまいます。ひとつのパズルで4回送って16面で抜いています。縦と横をピッタリと合わせながら、それを人の手で行っています。
ーーものすごい職人技ですね。
そうですね。普通の抜き型屋さんでは、その合わせの感覚はなかなか難しく出来ないと思います。たとえば弊社では花札も製造していますが、48枚の札を一気に抜いています。コンマ何ミリを手の感覚で合わせるのは人の手でしかできないことです。
ーーピースの形状のパターンというものは複数あるのですか?
はい。10万ショットで型の見直しをするのですが、そのタイミングで変形ピースを加えたりしながら難易度を変えることはしています。
ーー機械は何台ありますか?
抜きの機械は6台使っています。鉄製の車輪を回し、そのはずみで抜く機械が5台、油圧で抜く機械が1台です。素材とピースの大きさ、求める精度によって抜き機を変えています。
ーー仕上げるものによって機械を変えているのですね。現在製品はどんなところに流通していますか?
おもちゃ売り場、家電量販店、ホームセンターが主です。バラエティー売り場、書店にも置いていただいています。
ーー今回のアワードで手がけた製品に関しても、販売するルートは確保されていますね。
そうですね。最近ではさらに販路を広げる意味もあって、介護施設で使っていただける介護用のパズルなども開発しています。
ーーそういった意味ではパズルといってもゲーム的な意味合いだけでなく、さまざまな用途があるのですね。
ジグソーパズルは知育の部分もそうですが、遊びや楽しさを広げてくれるものであると思います。宇宙飛行士が忍耐力をひたすら鍛えるためにプレイする白いパズルなんていうものもあるんですよ。「もの」プラス「こと」を付け加えることで、新しい価値や可能性が広がるのではないかと思っています。
ーーものづくりへの思いを教えてください。
創業者がいつも言っていた言葉がありまして、それは「他社がやっていないことやろう」というものでした。ほかには「考えられないことを考える」と言っていました。同じジグソーパズルですが、つねに新しい可能性を追求して開発してきた会社です。「誰もやらないものづくり」ということをモットーに、現場の方でも意識して仕事をしています。
ーーものづくりの面白みはどのようなところにありますか?
それは悩みを解決したときですね(笑)。こういうものを作りたいという理想と、加工的な障害といった現実があって、ものを作っているとどうしても壁にぶち当たることがあります。試行錯誤をした結果、それがクリアし製品化されて売り場に並んだ時にはそれはもう嬉しいです。そしてそれを手にして喜んでくださるお客様の顔。そこに仕事のやりがいを感じます。
ーー今回のアワードではどのようなことを期待されますか?
ジグソーパズルは絵を組み合わせるものですので、どうしてもキャラクターに左右されてしまうところがあります。達成感や集中力を養う、人とのコミュニケーションになるといったところから、新しい訴求の仕方、新しい価値、遊び方を組み合わせたものが生まれることを期待して今回は応募させていただきました。それと弊社の設備とカットする技術を生かしていただき、ジグソーパズルにとらわれないご提案、われわれの概念を覆すものをご提案していただけましたら嬉しいです。長くお付き合いしていただけるデザイナーさんと出会いたいと思っています。
株式会社やのまん 左から、生産物流課 田中宏実氏、専務取締役 矢野宙司氏、総務人事グループリーダー 荻野倫安氏
株式会社やのまん(台東区)https://www.yanoman.co.jp
昭和29年大阪市南区に創業。その後東京都墨田区、台東区に本店を移転。昭和48年に輸入した「モナリザ」パズルの大ブレイクをきっかけに日本で初めての純国産パズルの開発製造を開始した。平面パズルは自社工場(国内)で製造している。現在ではパズルを文化事業として捉え、パズルに付加価値を付け、全く新しい形の3D球体パズルや、ポストカード大の小さなパズル、紙以外を素材にしたパズル(ex.PVC、木、ウレタン等々)を開発製造している。
インタビューと写真:加藤孝司
2017年度東京ビジネスデザインアワード
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください