テーマ企業インタビュー11:有限会社伸栄プラスチック
2016年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2016年度は、テーマ11件の発表をおこない、11月4日(金)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた11社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
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ものに機能と温かみをもたらす静電植毛技術
有限会社伸栄プラスチック
お話:専務取締役 近藤学氏
静電植毛による「フロッキー加工」により、車の内装や玩具などの表面処理の分野で活躍する会社。小さなものから、2~3mほどの大きなものにまで植毛できる技術は業界でもトップクラス。色の再現性にすぐれ、着色は無限、さまざまなものへ展開できる可能性を秘めている。
ーー創業年を教えてください。
私の祖父が創業者で、昭和35年の創業になります。父が二代目、叔父が三代目で現社長、私で四代目になる予定です。もともとは八王子の長沼町ではじめ、その後何度か移転して現在の地になりました。この辺りは工業団地で、切削板金、成型メーカーなど金属加工業が多いです。八王子はもともと織物の街で、隣には繊維工業団地もありますが、いまは後継者不足などで多くが廃業しています。
当社は、最初はプラスチックのバリ取りをしていて、その後プラスチック製品の塗装、それから植毛へと仕事の幅を広げていきました。静電植毛を手がける会社は、関東でも10社あるかないか、全国でも30~40社ぐらいだと思います。
ーー静電植毛とはどのような技術ですか?仕組みを教えてください。
基材の上に接着剤を塗布し、ナイロンなどの短繊維(パイル)を静電気の力を利用して付着させる技術です。この表面加工を施すことで製品に吸水性、遮光、断熱効果などをもたらすことができます。また加工する基材の種類や、それが使用される場面によって求められる耐久性は異なりますが、200gのおもりを5000回往復で擦っても植毛加工した基材の素地が見えてこないことが、一般的に摩耗耐久性の基準として言われています。基材としては、強度を厳密に求められなければ、凹凸のあるものや波状のもの、細かいものなど、形状のある物体であればほぼすべてのものに加工を施すことが可能です。
特に他社と比べて得意とするのは、大きな基材への植毛です。またカラーバリエーションが豊富で小ロットにも対応しており、試作なども可能です。
ーー身近なものだとフロッキー加工はどのようなものに施されていますか?
家庭にあるものですと、皆さんよくご存知なのがこたつの発電部分の囲いの部分です。あとシルバニアファミリーなどの玩具、自動車のドアの窓が収納される部分には撥水のために全部植毛が施してあります。目に見えない部分ですと地下鉄のホームゲートに擬音防止のために使われています。
ーー静電植毛にはどのような素材を使っているのですか?
ナイロンが中心ですが、他にも綿、レーヨン、革もあります。なぜナイロンが多いかといえば、耐熱性、摩耗性といった繊維自体の強度に優れているからです。
素材に関しては、材料メーカーの都合によるところが大きいです。新しい材料を使う為には、まずメーカーを口説く必要があります。材料のロットはおよそ1tほどからになるので、同じものを使う同業者の発注に合わせて作ることがほとんどです。
ーー静電植毛されるナイロンの毛の長さはどのくらいになりますか?
自動車の部品に使われる植毛の材料は、0.6mm~0.8mmの長さになるのですが、それは自動車メーカー各社でほぼ変わりがありません。私たちで使う材料もその中からチョイスすることがほとんどです。色は色見本をメーカーに送り、トウといって繊維の塊のようなものに着色してそれを裁断して作ります。
着色のロットは、1kg単位でやってくれるところもあるのですが、その場合単価が高くなります。基本的に5~10kgでお願いし、あとは時間と費用に合わせてご相談という形をとっています。色に関しては平面とは違い、短繊維が立つことで角度や光によって表現される部分の見え方が多少変わってくるかと思います。
この業界は横の繋がりがあまりなく、ノウハウひとつで生産の効率が変わります。そして多くの同業者が、当社のようにさまざまな色や新しい表現を模索する方向ではなく、大手のメーカーの下請けとして同じものを大量に作ることに特化している傾向にあります。ただ私自身はそれだけでは植毛の価値が薄れていくような気がしています。もしかしたらそれは社会的にみたら小さなニーズかもしれません。ですが、植毛にはこんな可能性があるとか、こんなことが出来るのではないかという声に対して、それを植毛業界にいる人たちの価値観だけで「ノー」と言ってしまったら、広がる可能性が途絶えてしまうのではないかと危惧しています。たとえ今まで取り組んでこなかったことでもニーズに対してきちんと向き合うというスタンスで仕事をしたいと思っています。そうすることで新しいものが生まれる可能性があると思います。
ーー現在では植毛部分に写真をプリントするなど、新しいことにチャレンジされていますね。このような試みを通じて、どのようなニーズに応えていきたいとお考えですか?
「ただのプラスチックを預かって植毛を施し、喜んでくれたお客様の顔が忘れられない」、「人を喜ばすことができて、なおかつお金をいただける、こんなにすごい仕事はないんだぞ」と自分たちの仕事について祖父はよく言っていました。ですが入社してから日々の仕事を思い返すと、ルーチンワークのような感覚に陥り、毎日同じ製品を何百個もつくる仕事にモチベーションを保つのは大変で、祖父がいったような喜びを、一つ一つの製品に込められているのかと自問しました。一つ一つのものに思いを込められる仕事をするためにも、新しいことにチャレンジしていきたいという思いがあります。
ーー製品作り以外に、現在取り組んでいることがありましたら教えてください。
ある大学の研究室と天体望遠鏡の内側に貼る炭素繊維開発をしています。通常の天体望遠鏡ですと内側には黒いフェルトが貼られたパネルがついているのですが、炭素繊維を貼ることで光の吸収率が変わり、見える夜空の範囲が広がる可能性があるそうです。発表はされていますが今はまだ実績がない状態で、大学など各機関にご協力いただきながら素材作りも含めて研究を進めている最中です。
ーー東京ビジネスデザインアワードではどんなことをしてみたいですか?
これまでは自動車産業に依存していた部分もあり、リーマンショック以降、それだけではやっていけないということが分かりました。業界内では考え方自体が固着している部分があるのですが、自分たちが思いつかないような斬新なアイデアに出会って視野を広げていきたいです。
そしてB to BからB to Cに仕事の幅を広げていくきっかけにしたいと思っています。下請けで仕事をしている以上、どうしても薄利多売的な取り組みになりがちです。自分たちが発信してお客様により近いところでのものづくりをすることが理想です。
ーーどのようなデザイナーとものづくりをしてみたいですか?
今までデザイン関係のメーカーなどとのやりとりはありましたが、デザイナー個人の方と直接のお付き合いはありませんでした。そういった意味では夢を一緒に描いてくださる方とお仕事をしてみたいです。実際問題、夢だけではおなかいっぱいにはならないのですが、前に進むべく原動力はそういうところにあると思います。将来的にはディスプレイ業界にも長けた植毛屋になりたいというビジョンがあり、その分野でもご一緒できればと思います。ゆくゆくは海外展開も視野に入れています。そのためにはお客様からこういう植毛屋がいてよかったと思ってもらえるような、オンリーワンな仕事ができるようにならなければなりません。ビジネスライクになりすぎずに、私たちも採算度外視で挑んでいるところがありますので、5年後、10年後になって最後にいいものが出来たねと一緒に思えるようなものづくりをしたいと思っています。
有限会社伸栄プラスチック(八王子市) http://www.shineipla.co.jp
フロッキー加工と呼ばれる静電植毛技術を生かし、様々な製品の表面処理を中心とした製造、加工、販売をおこなう。車の内装やおもちゃなどの身近な製品から工業製品まで幅広いニーズに対応、特殊素材・技術の研究開発にも取り組む。
写真とテキスト:加藤孝司 Takashi Kato
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2016年度東京ビジネスデザインアワード
募集期間 11月4日(金)まで
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
http://www.tokyo-design.ne.jp/award.html