2016年度フォーカス・イシュー・ディレクターに聞く: フォーカス・イシュー・トーク Vol.1「地域社会とローカリティ」レポート
第7回企画展「今デザインができること - 2016 フォーカスイシュー」関連企画として、2016年度グッドデザイン賞正副委員長と4名のフォーカス・イシュー・ディレクターによるトークイベント「フォーカス・イシュー・トーク」を計4回開催しました。各回の内容をレポートいたします。
GOOD DESIGN Marunouchi #07 「今デザインができること - 2016 フォーカスイシュー」展関連企画
フォーカス・イシュー・トーク Vol.1「地域社会とローカリティ」
日 時: 2016年5月20日(金)19:30 - 21:00
会 場: GOOD DESIGN Marunouchi
話し手:
岩佐十良氏(2016年度グッドデザイン賞「地域社会とローカリティ」フォーカス・イシューディレクター)
聞き手:
永井一史氏(2016年度グッドデザイン賞審査委員長)
柴田文江氏(2016年度グッドデザイン賞審査副委員長)
フォーカス・イシューについて、「地域社会とローカリティ」というイシューについて
永井委員長:
歴代、審査委員長と副委員長がグッドデザイン賞の基本的な方針を決めていくのですが、どんなことを考えるといいかを二人で相談して考えたのが「フォーカス・イシュー」です。 デザイン自体は、その概念が生まれた時から大きくは変わらないものですが、一方で、デザインだからこそ世の中の流れにビビッドに反応しながら、新しい切り取り方をしていくべきではないか。デザインの概念自体が広がっていて、さらに大きな役割を世の中から期待されている。どういうビジョンを持ってデザインされているかを、テーマ別に検証してみると、違った視点でデザインを解釈できると思っています。
柴田副委員長:
グッドデザイン賞では、審査する私たちも、毎年審査を終えると、今世の中に求められているデザインの傾向をうっすら感じることができます。今は、こういう感じなんだな、っていうのがわかる。だけど、それをフィードバックする方法があまりなかったように思います。フォーカス・イシューをつくったことで、審査して発信するというサイクルができた。それが、効果的だったと思います。
永井委員長:
ローカリティとかコミュニティーは、特にここ最近、日本の大きな課題であり可能性であり、いろんなことが集約している感じがありますよね。
岩佐ディレクター:
そうですね。私は、今日も新潟から来たのですが、新潟に移住して13年目です。今でこそ、いろんな方から「いいね」って言われるんですけど、その時は、完全な変人扱いでした。もう終わっちゃったね、みたいな感じ。4年前に旅館を始めようと思い、旅館を買い取ったんですけど、そのときも変人扱いをされました。
僕は東京生まれの東京育ちなので、13年前、地方に行こうと思うまでは、東京が中心だと思っていました。東京がなかったら、地方なんて成り立たないぞと。でも、確実に地方が東京を支えてると思っています。地方が労働力をつくり東京に送っている、農産物も地方から東京に行く。にもかかわらず、「地方はどんどん衰退していて東京に支えてもらわないといけない」みたいな雰囲気があるような気がしていて、それは大きな間違いではないか。
最近言われ始めた地方創生も、一過性のブームになる可能性があるので、これをどうやって確実にものにしていくかが重要だと思っていたところにイシュー・ディレクターのお話をいただいたので、僕はなんとしても、地方をなんとかしたいとすごく感じてます。
永井委員長:
3、4年で、我々自身の認識も変わった感じがして、今は先端的な人こそ都会を離れたりしてますよね。
柴田副委員長:
去年の審査では、地方から素晴らしい提案やデザインの芽が見えました。永井さんも私も、十数年グッドデザイン賞に関わってますが、4、5年ぐらい前から、デザインの概念が変わってきた。
岩佐ディレクター:
4、5年で概念が変わったのは、東日本大震災と大きく関係していると思っています。震災があったことで、日本中の人が強制リセットされ、今、何をしなければいけないか、世の中に何が求められているかを柔軟に考えられるように変わった。
永井委員長:
自分たち自身の暮らしだとか、働くって何なんだろう、という本質的な問い直しがあり、東北に日本人の目がいったことで、地域の営みをつぶさに見たり感じたりしましたからね。
地域の盛り上がりを作る方法
柴田副委員長:
地方から発信する方法は、いろいろあると思いますが、岩佐さんの活動を知る限り、そこに馴染んで融和している感じがします。東京の会社が地方を盛り上げることとの、大きな違いはありますか。
岩佐ディレクター:
内部発生的に起こるか、それとも外から行った人が働きかけて起こるのかによって、継続性もパワーも全然違うと思います。僕がやってる里山十帖という宿も、8年居てから始めたことなので、地域のこともわかり、いろいろな人と知り合えたことでできたものです。結局、地元の人たちがやる気になり、そこから自然発生的に出てきているものなのかが重要だと思っています。
永井委員長:
その一方で、地元の人たちが地元の価値をちゃんと自覚できてないってこともありますよね。外の目が必要な部分も同時にあるような気もしますが。
岩佐ディレクター:
どんな地域にも、がんばっている人とか地域の良さに気づいてる地元の方はいるんです。でも、浮上してない、認識されてないケースがあるので、誰かが認めてあげる必要性があるし、アドバイスをする人も必要です。「こっちだ!」という民間の人を行政が押し上げるのが重要なのかな、ということを最近感じています。
柴田副委員長:
日頃大きなメーカーの人と仕事してますが、意外と同じだと思いました。インハウスデザイナーの中に力があるけど、浮上してない人がいたり、企業文化で膠着していたり。中からの力を「こうじゃない?」と押し上げてあげてあげるというのに共感します。
地域づくりにおける「デザイン」とは何か
永井委員長:
いいサービス、いいソリューションになっているということと、そこにデザインがどう介在しているのか、「いいけど、デザインはあるのか」ということを、審査で自問自答したりすることがあります。デザインの概念を拡張して、社会にあるいいものをデザインの視点で見立てていくことをやろうとしているのですが、概念を広くしすぎて、全部がデザインというのも違う。
柴田副委員長:
デザインがどう関与して結果が出ているとか、はっきり言葉で言い切れないことがあるんです。これがデザインで、これはデザインではないというのは、なんとなく肌でわかるのですが、説明が難しい。その違いってなんでしょうか。
永井委員長:
「社会」とか「暮らし」、そして「できあがったもの」、その全体的な収まり方ではないでしょうか。社会的な意味性と、最終的にできあがっているものが一致してると、デザイナーが介在していなくても、いいよね、評価したいよね、となる。意味の部分が、暮らしや社会から離れてて、形だけというのも違う。意味はいいんだけど形がだめ、というのも違う。
岩佐ディレクター:
僕は、ミッションだと思ってます。そこにミッションがあって形になっているのかどうか。ミッションから入るのか、お金から入るのかは結構差があって、日々のお金を稼ごうとして始めたものと、ミッションから始めたものは、絶対違うと思うんです。
お金から形を作ろうとすると、かっこいいけどよくわからない、になるけど、ミッションがあると、それに応じて何をしなければいけないかが見えてくるので、形もしっかりしてくるんじゃないか。
ミッションがしっかりしてるものがデザイン、ミッションがしっかりしてないものはデザインじゃない、そんな区分けはどうでしょうか。
柴田副委員長:
それで説明できること、多いかもしれませんね。
永井委員長:
ただ、ミッションをコンセプトに落とせないと、それもだめになる。
柴田副委員長:
すごいやる気があってなんとかしたい、でも、ミッションがコンセプトに落とせてない。
岩佐ディレクター:
発見できてない、コンセプトが。
柴田副委員長:
最近、ミッションとコンセプトが一緒になって、人もうまく巡り合って、結実してきている感じがしますが、日本全国を見てこられ、このプロジェクトはいいな、というのはありますか?
岩佐ディレクター:
去年のベスト100の「シェアビレッジ」。東京からどうやって地方を応援できるのかが明快で見えやすくて、無理もしていないし。しかも若い感覚で、きれいに形にできている。行政に頼まれてシェアビレッジ考えました、ではなくて自然発生なのが、すごいところで、いいところだと思う。
あと、最近地域おこしの代名詞になっている、神山、海士町、葉っぱビジネスの上勝、邑南町。これらは島根と徳島に集まってるんです。島根と徳島は、県が非常に厳しくてせっぱつまってる。住民が自分たちで何か考えないと、もうこのまま地域がだめになってしまう、ということが一番最初にわかったところなんですね。
特に島根県は、「過疎」という言葉自体が始まった場所で、とっくの昔に人口減少に直面して、どうしようかと考えているうちに、海士町とか邑南町みたいな活動が出てきた。神山も同じく、行政と関係なく、大南さんという方がNPOをつくられて、今やっと行政がついてきた。一人でいろいろ活動され、そこに人が集まってきている。
僕はそれを「共感の連鎖」と言ってるんですけど、今は共感の連鎖が起こしやすい、起きやすい時代になっている。一人強烈なインパクトを持った、メッセージを持った人がいると、いろんな人たちが共感して集まって、加速度がついていく。それを証明したのが、神山なのかと。
神山の元々の興りはアートプロジェクトと言われるんですけど、実は震災後の2012年ぐらいから、移住者が急に増えて、いきなり加速度がついて、ウワーッと町が変わってるんです。それまでは、ずっと長い助走期間で、ある何人かが集まったところから飛んだんですよね。人の集まり方がすごく特徴的だと思ってます。
北海道の東川町は行政主導型で、町長がすごいリーダーシップでいろいろな人たちを集めています。佐賀県の武雄市も行政主導。新潟の三条市もそんな感じ。元気な町は、実はそんなに数はない。
「地域創生」の時代を迎えて
永井委員長:
地方創生の動きで国の予算がついて、膨大にいろんなことが地方で起こっているような印象を受けますが、実際のところいかがですか?
岩佐ディレクター:
先ほどのミッションから入るのか、お金から入るのか、ということが地方で今現実に起きています。地方創生のためのお金が落ちる、だから何かしようと動いているところと、元々ミッションがあってやり始めていたところの差が激しいと思う。
結局、ミッションがしっかりしているとお金の使い道が見えてくるんですが、そうじゃないところは、お金の切れ目が縁の切れ目というのが現実。
民間と行政の歯車をどうやって合わせていくか。民間で伸びている人を行政がサポートしてあげるという体制が生まれれば、行政と民間の関わりあい方が明快になって、きれいに流れる。それによって、30年後には、地域間格差、行政格差がすごく開くと思っています。地方や市町村はそのギリギリのラインに立っている。
今のチャンスをものにして、確実に町をつくっていかないと、30年後になくなってもおかしくないという気がするので、この2015年、16年、17年あたりがすごく重要だと思う。
フォーカス・イシュー「地域社会とローカリティ」で注目したい点
永井委員長:
今年度、フォーカス・イシュー・ディレクターとして期待している点や、どういう視点で評価していきたい、というのは?
岩佐ディレクター:
地域と企業、それらと東京の関わり方。地域と行政の関わり方とか、そのバランスがどう取られているのか。行政と民間、スポンサー企業が入るとするならば、その3者にとっての共通のミッションはどこにあるのか、ぶれないで進めていけるのか。
3年後になくならず、継続できる形になっているかどうかはこれからの地方にとって重要です。そういうものが評価されれば、「あ、そうやって考えていくんだ」ということを次の人たちにつないでいけるので、そのファーストステップになればいいな、と思います。
トーク初回でしたが、岩佐ディレクターの熱いお話に時間いっぱいまで大変盛り上がりました。
臨場感あふれる全編の録画映像もぜひご覧ください。
第2回トークも追ってレポートいたします。