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新たな課題への挑戦
2011年3月11日、日本を未曾有の災害が襲いました。地震津波そして原子力発電所事故。この連鎖によって、日本は極めて困難な状況に追い込まれたのです。
デザイン振興会も呆然自失となりました。そのような時に、支援をいただいているデザイナーや企業の方々から、様々な叱咤激励の言葉をいただきました。「生活を、産業を、社会を、すべて同時に再構築していかなければならない」「デザインが本当に必要とされる時だ。人々の期待に応えるために、デザイナーは存在しているはず」「災害を契機にサステナブルな社会がうみだされていく。その価値転換を担うデザインを、誰かが推進していかねばならない」「振興機関としての役割を全うされたい」・・・こうしたご意見と討論を通じて、デザイン振興会が「しなければならないこと」が明確になっていきました。
災害は大きな問いかけでありました。私達は多くを見聞きし、考えました。
人間の安全という基本的な課題について、「想定外」という言葉で言い逃れようとする場面を何回も見ました。またエネルギーの供給について、分散型へ移行することを妨げていた壁も露わになりました。私達が豊かであると信じてきた世界は、必ずしも人間に優しい社会ではなかったのです。
その一方で、「人と人が支え合う力」がどれほどの勇気を与え、多くの問題を解決していったかを学びました。被災された方々の痛みを少しでも分かち合いたい、私の問題として受けとめたい。その気持ちが、自分自身にできることはすぐに実行するべきであるという、素直な潮流を生みだしていきます。個人の力が健全である限り、被災された地域は、そして日本は必ず再生できます。
この災害によって、伝統と文化か育んできた私達一人一人のデザイン力の確かさも、また明らかになったのです。
デザインは、問題をスマートに解決する知恵であると同時に、人と人を結ぶ素朴な回路でもあります。
「私はこの様に考えた、これで良いのだろうか」との問いかけがデザインです。試行錯誤の連続であり解決仮説にすぎません。でも誰かが「私もそう思う」と発言した時、その提案は力を持ちます。「でも少し改良した方がよい」「こんな発展もありうる」。そんな声が広がっていけば、生活も産業も社会も大きく変わっていくはずです。つまりデザインは、社会を推進するエンジンともなりうるのです。
個人個人が繰り広げる活動を、社会全体を推進するエンジンへとリフトアップしていく仕組みを整えていくと、別の言葉でいえば、それぞれのデザインに含まれている社会的な側面を取り出し、その効用を強く訴求していくことこそ、公益法人であるデザイン振興会の使命であり役割です。デザイン振興会はこのように考えたのですが、しかしこれは、「グッドデザイン賞」が50余年に渡り担おうとしてきた活動なのです。最初の一歩を再認識してこそ、新しい活動が始まる。これが災害からデザイン振興会が学んだ教えでした。
デザイン振興会は、被災されたデザイナーや企業の復興を、さらにはコミュニティの再生を、全力を挙げて支援するため、2011年6月「復興支援センター」設立しました。また中核事業であるグッドデザイン賞を通して、災害を契機に登場してくる新しい価値観と、それを担うものごとのデザインをプロデュースすべく、「オープンタイプ・プラットフォームの構築」という視点から再構築していきます。少なくとも5年程度の年月が必要です。デザイン振興会は、日本だけでなく世界中のデザイナーや企業、教育研究機関、さらには市民の方々と連携しつつ、この活動を継続していきます。
日本と日本のデザインがこれから取り組もうとする活動は、日本という狭い地域に限定された問題とは思いません。世界がこれから直面し直視しなければならない課題問題を、日本は忌々しい災害を通じて、いち早く引き受けたのではないでしょうか。多分日本は、デザインのラボラトリーになった。ここで生みだされる新しいデザインを世界中の方々に的確に伝えていくことも、デザイン振興会の重量な役割であると考えています。