公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:株式会社泰清紙器製作所

2022年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2022年度は、テーマ10件の発表をおこない、10月30日(日)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ:貼箱製造で培った技術及び加工設備

貼箱といえば、高級菓子や高級ブランドの製品などに使われる贈答用の化粧箱として目にすることが多い。なかにおさめられた商品より前に目に触れるという意味で、製品との最初のコミュニケーションツールとなる大切な存在だといえる。箱をくるむ紙や布のバリエーションはもちろん、印籠式、ブック式、ミフタ式など、入れるものや用途によってさまざまな形式でつくれるのも魅力。長年この貼箱の製作に携わってきたのが練馬に本社をもつ泰清紙器製作所。最新鋭の機器を導入しながら、つくるものや量によってはいまも手加工でつくられるものも多いという。近年社内に制作チームも編成し、2022年4月には初の自社ブランド製品も発表した同社。長年の貼箱製造で培ってきた技術が活かせるものづくりのアイデアが求められている。


お話:代表取締役 大木啓稔氏、下山卓紀氏

■多様性のある貼箱というプロダクト

ーー1965年の創業だそうですが御社の創業の経緯と、現在の業務内容を教えてください

先代が貼箱を生業に創業いたしました。貼箱を基軸にその仕事を通じて他の紙加工品の依頼も多くいただくようになりました。現在では自社の設備と協力会社さんの設備を利用しながら、貼箱、印刷紙器、紙加工製品を行っています。再生エネルギー100%電力導入やFSC認証の取得などSDGs達成に向けた取り組みも行っています。

ーー貼箱とは箱に上質な紙を貼り装飾を施したものだと思いますが、あらためて貼箱について教えてください。

ボール紙などの厚紙でつくった箱を芯材に、くるみとよばれる上紙で芯材をくるんでつくる化粧箱です。上紙に風合いのある紙を用いたり、印刷、箔押しなどさまざまな表現が可能で、食品などのパッケージにつかわれる一般的な組箱とくらべると、比較的丈夫で高級感のある箱になります。みなさんが目にするものですと、高級菓子やバレンタイなどのチョコレートの化粧箱、高級ブランド製品の梱包などの馴染みのある箱に多く使用されています。さらに、薬品やコスメ関係の化粧箱としても使われています。お子さんが使うお道具箱などさまざまな用途にも使われている箱になります。

ーー確かに貼箱に入ったものをいただいたり買ったりすると、箱だけで気分があがります。

バレンタインの時期などに百貨店の店頭に貼箱のパッケージが並んでいるのをみると、われわれの作品展のように感じることもあります(笑)。パケ買いする方も増えているということもよく聞くほど、商品にとっての箱の重要度は高いと思います。

ーーお店で商品を購入して持ち帰って真っ先に目にするものでもありますし、箱もある種のコミュニケーションツールですよね。

そう思います。それと最近ですとiPhoneの箱が貼箱になります。昔の電気製品の箱はダンボールで中身を保護することが目的でしたが、ふわっと開いて、ふわっと閉じるあのクオリティも含めて、iPhoneのあたりから貼箱自体もプロダクトといえるようなところにやっと到達したと思っています。

ーー確かにあのパッケージは期待感が高まりますし、手にしただけでワクワクします。

そう考えると貼箱自体が置かれた状況も以前とはだいぶ変わってきたことを感じています。同時に設計の仕組みなど、箱への要求度も高まり、変わってきましたし、多岐にわたってきました。

ーー貼箱メーカーとして創業されて、思い出深いものですと、これまでどのようなものを手がけられてきましたか?

弊社は父が創業して私が引き継ぎ、今年で57年目になりますが、お客様のご依頼に応え、いろいろ手がけさせていただきました。若い方はご存知ないかもしれませんが、グルービーケースというものをご存知ですか?

ーー1970年代に流行したキャラクターやアメフトなどの絵がプリントされたケースですよね。塾に行くときに使っていました……。

爆発的にヒットしましたよね。あれなどは正確には貼箱ではなく、組み合わせ箱に金具をつけた、ある種のカバンなのですが、あのようなものも弊社でつくっていました。現在は経営からは退きましたが、創業者である父は、昔気質の貼箱の職人でした。お客様からのご依頼があれば、やったことがないことでも新しいことに前向きにチャレンジをして、面白がってつくっていました。

ーー僕らの父親の世代のつくり手たちの時代は、新規なものが次々と登場してきた日本の高度経済成長時代ということもあって、新しいもの好きで仕事でも新しいことにチャレンジしてきた世代だったのかもしれませんね。

当時は家内工業のようなものでしたし、父親は紙に金具など、異なる要素を組みあせて手作業でつくるのが好きだったみたいです。むしろ今より柔軟にものづくりをしてきた歴史があったんですね。

ーーグルービーケースで思い出したのですが、あのエリザベス女王が愛用していたというグローブ・トロッターのトラベルケースも、実は1859年に特許取得された軽量で強度があるヴァルカン・ファイバーボードという天然木材パルプの混合物を素材にできていると聞いたことがあります。

そうでしたか。興味深いですね。

■技術とデザインの融合という取り組み

ーーお仕事は企業などの依頼を受けて製作するかたちですか?

はい。今でも和菓子、洋菓子の化粧箱のご依頼が仕事の中心になります。お客様から紙、色、かたちの相談を受けてわれわれの方で製作します。

ーー御社の強みはどのようなところになりますか?

弊社の強みの一つはOEMを中心にした紙加工品を手がける会社ではありますが、数年まえから企画、デザイン、試作制作に特化したパッケージプロダクトソリューションチームと呼んでいる制作チームが自社にいることです。自社で企画し、CADソフトなどを使い展開図の設計も行っています。プロッター、UVインクジェット、オンデマンド印刷機、レーザー加工機、台紙の内側をV字に削れるVカット試作機なども備え、フレキシブルにモノづくりができる体制を整えています。制作チームがいることでお客様と変形箱をご一緒に検討したりすることも容易ですし、試作から量産まで迅速に対応することができるようになりました。

ーー手加工も得意だとお聞きしました。オーダー数によって機械、手加工の最適なつくり方のご提案をされているのでしょうか?

そうです。量もそうですが、ご予算に合わせた紙箱の試作から量産までおこなえるよう、体制と設備を整えています。貼りの工程に関しては大量生産品は自動機で貼り工程を行い、薬品関係の大量生産品に関してはクリーンルームで行っています。弊社では1個から箱の制作を請け負っています。1~数百の小ロットの場合もそうですし、規格に外れた大きなものや小さなもの、多角形など規格サイズに合わないものに関して手作業でくるみを貼ります。

ーー大小サイズ、紙の厚さですとどのくらいのものが製作可能ですか?

大きなものですとバッグが入るような大きさの400mm角くらい、小さなものですと50mm角のものまでつくることができます。芯材の厚みに関しては、既成のものは3mm厚が中心で、その他厚みのあるものでも制作が可能ですが、あまり厚いものですと加工が難しくなるという難点があります。厚さに関しては、3mm以内のものでやられることが多いですね。厚みのあるものに関しては芯材をチップボールでやるよりもダンボールなど、用途にあわせてご提案させていただくこともあります。弊社では協力企業さんの業種が多岐にわたっていますので、今回のアワードでもデザイナーさんのご提案に最適なもので臨機応変に対応させていただければと考えています。

ーー先程のグルービーケースもですが、珍しいものですとどのような貼箱を手がけられましたか?

父の代のときの仕事ですが、昭和天皇のために金色の布地に菊の御紋の入った記念品を入れる贈呈用の箱などをつくったことがあるそうです。それと特別なお客様のオーダーで、大きなケーキにかぶせる箱を、1個3万円ほどかけてつくったこともあります。その昔は布貼りのレコードケースもつくりましたが、その経験のおかげで紙と比べて伸びるので貼るのが難しい布貼りも習得しました。

ーー大切なお客様だけのまさに1点ものの箱もつくられるのですね。

弊社は押切りした紙をハケで糊を塗って貼ってつくる「貼箱」からスタートしました。今では大ロットで機械で量産する箱ももちろんありますが、もとは1個から生産するのが貼箱のスタイルです。ですので今もデザイナーさんと相談しながら1個からつくる試作や小ロットの貼箱も大切にしています。

ーー御社のモットーを教えてください。

父の代から、仕事は断らないことと教わってきました。どのような仕事もそうかもしれませんが、できないと言った時点でご縁が終わると考えなさいということだと思います。その意味では初めての仕事でも工夫することでお客様にご提案できるのが弊社の強みに繋がっていると思います。

ーー確かに御社のお仕事を拝見し、チャレンジし続けることで技術が磨かれていくのだとあらためて思いました。

それと先ほど協力会社といいましたが、同じ貼箱の会社はライバルではありますが、弊社のスタンスとしては、機械と持っている技術、仕事を他社に回すことも含めて「協働共用していこう」といつも話しているんです。そうしないと業界全体がシュリンクしていってしまいます。


■協働でつくりだす新たなビジネス

ーー制作チームを整えたことにはどのような目的があったのでしょうか?

貼箱という業界は従業員10名未満の家内制手工業のところが今も多くあります。マンパワーとして量産することが難しいこともあり、キャパオーバーをするものに対しては、できないと平気で言ってしまいがかちです。そういった意味でも私見ではありますが閉鎖的なところがあると思います。ですので自分たちで発信する能力も乏しく、紙製品をつくりたいという相談にもなかなかのってくれないというイメージがありました。その部分を改善していくことができれば、貼箱の世界をより多くの人に知っていただけるのではないかと思っていました。そのような思いもあり、なるべくお客様のご意向にそえるものをつくるという方向にシフトチェンジをしまして、いまはその方向が大変好評で伸びています。

ーー逆に苦手、あるいはまだ弱いと思われるのはどのようなところでしょうか?

弊社は長年、形をつくる会社としてやってきました。しかも99.9%受注生産でやってきましたので、お客様の商品が売れなくなると包材である私たちにも受注がこなくなるという悩みが続いてきました。特に貼箱の需要時期は9月から2月で、バレンタインを境に閑散期となります。弊社では雑貨類も多くやっていますので、その波はそれほど激しくはないのですが、年間の上げ下げが激しい業界ではあります。その分を底上げすることで年間を通して売上と人員を平均化していきたいという希望をもっています。

それと商品企画や、形、色柄合わせなどのデザインのアイデア不足と、販路開拓やプロモーションにも力不足を感じており、それらが課題となっている現状があります。

さきほどの「協働共用」もそうですが、今の時代は一社で何かを完結することは正直できません。ですのでいろんな会社さんと手を携えながら、お客様の要望にどれだけ応えることができるのかが、いま我々に求められていることだと思っています。

お客様が求める形、用途、販売の仕方などに関しては私たちだけでは十分に応えることはできません。その部分でデザイナーさんやマーケティングを得意とされている方と一緒に手を携えながら、お客様をより輝かせることができたらと考えています。

ーー御社がこの春発売された蓋の裏にホワイトボードがついたブック型のケース「MeBo」はどのような経緯で開発されたのでしょうか?

これは弊社にとってはまったく新しい分野にチャレンジした製品になります。アイデアをいただければそれを形に具現化することは得意としていますが、自主的にアイデアを出したり、商品企画をすることはどうしても不得手です。MeBoも雑誌に掲載していただいたりもしているのですが、ショップへの営業なども含め、それ以上の展開ができていない現状に限界を感じています。

ーーそのあたりが今回のアワードへの応募動機になりますか?

はい。中小企業のものづくりメーカーであれば、そのような悩みはどこも共通してもっているはずです。我々も例外ではなくて、その弱みは自分たちでもわかっています。今回のアワードではMeBoの展開の仕方も含め、その弱い部分をデザイナーさんの発想力やアイデアで担っていただけると更なる発展につながると考えています。

ーーアワードではどのような提案を期待されますか?

現在はOEMによるBtoBが中心で社会情勢などもあり大幅な増加が見込めないという現状があります。今後の展開としては、ODMや自社製品による新規ビジネスで新しいビジネスモデルを構築したいという目標をもっています。

私たちは貼箱を中心にいわゆる包材をつくってきた会社です。箱や紙加工品自体が商品になるようなやり方も一方にはあると思いますが、弊社の加工技術と知識を活用していただける提案でしたら特に箱にはこだわりはありません。弊社の強みであるものづくりの技術と知識、設備プラス、デザイナーさんの新しい発想によるこれまでにないビジネス提案に期待しています。

素材に関しても紙以外の異素材であってもチャレンジできるものがありましたらぜひチャレンジしてみたいと思っています。パートさん含め全ての従業員にとって面白いプロジェクトだと思ってもらえる、会社の潤滑油になるようなご提案をどうぞお願いいたします。

株式会社泰清紙器製作所(練馬区)

テーマ:貼箱製造で培った技術及び加工設備

企業HP:http://taiseishiki.co.jp/

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


インタビュー・写真:加藤孝司

2022年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 10月30日(日)まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/

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