公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:司産業株式会社

2022年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2022年度は、テーマ10件の発表をおこない、10月30日(日)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


テーマ:大型シルクスクリーン印刷による膜厚を出した平滑な大判フィルムの作成技術

シルクスクリーン印刷はデザインをもとに製作したスクリーンと呼ばれる版を用い印刷をする技術だが、その仕上がりにはどんなに機械化が進んでも、版のセットや紙の扱いなどの多くの部分に熟練した職人の手仕事が不可欠である。シルクスクリーンによる粘着フィルム印刷一筋50年の歴史を持つ司産業は、人間の背丈以上の大きな版を使った大型シルクスクリーン、しかも印刷面に膜厚がありながら平滑な大判フィルムを作成できる高い技術をもっている企業。身近な印刷技術だからこそ、そこにはまだまだ多くの可能性が秘められている。


お話:会長 浅野寿子氏、代表取締役社長 浅野衣理奈氏、菅野氏、石山氏、穂苅氏

■手仕事による表情豊かな印刷技術

ーー御社の創業の経緯と、事業内容を教えてください。

1971年に初代が前職でフィルム印刷の会社に務めていたメンバー数名とともに、シルクスクリーンによる粘着フィルム印刷の会社として下板橋に創業しました。当時は主に自動車メーカー各社のお仕事を頂戴しておりましたが、1984年に世界的化学メーカーの世界で一社の特約加工販売店となって以降は、そのOEMを手掛ける会社となり、厳しい品質管理のもと品質にこだわった印刷物を手がけております。

ーー粘着フィルム印刷一筋50年の歴史を持つ企業として現在どのようなお仕事をされていますか?

本社がある板橋では主に内装の仕上げ工事と施工、埼玉の工場ではシルクスクリーン印刷を中心に、電車、飛行機などへの車両マーキング、自動販売機、看板に貼る大型ステッカーとよばれる粘着フィルムを手がけています。なかでも大判印刷を得意としています。

ーー私たちの暮らしに身近な技術なんですね。このアワードでもいろいろな印刷技術を扱う企業に参加していただいておりますが、オフセット印刷、グラビア印刷、現代では版を使わずにデータからダイレクトに印刷するデジタル印刷も盛んですが、御社のシルクスクリーン印刷の特徴を教えてください。

ひとつには表現豊かな印刷方法であるということです。現在では電車やバスのラッピングなどにも使われるデジタル印刷がその手軽さからひとつの主流になりつつありますが、シルクスクリーン印刷と比べると表現の豊かさという点では画一的です。

というのもデジタルに比べてシルクスクリーン印刷は、それを手掛ける人間の技が加味される印刷技術で、人肌感のあるひとつひとつが作品と捉えることができる絵画に近い表現に特徴があります。デザイナーやアーティストが版画などの芸術作品に採用している例からも、美しい印刷技術であることがわかると思います。ベタ刷りだけではなく、網点を重ねることで写真のようなものも印刷できるのはいうまでもありません。

ボタン一つで同じものが印刷できるデジタル出力と異なるのは、何人もいるオペレーターのマンパワーが必要不可欠な印刷技術であることです。同じ版から印刷をしてもつくり手によって異なる表現となり、それゆえにシルクスクリーンで優れた印刷をするには、高い技術をもった職人の技が必要になります。

現在ではデジタル印刷が多くなりましたが、弊社が長年手掛けるシルクスクリーンの印刷によるマーキングは、現在でも皆さんが街中で目にする多くのものに使われている印刷技術です。

ーー昔ながらの手仕事によるところが多い技術なのですね。

そうです。私たちの職人は創業以来働き続けてくれている上は75歳から、20代の若い職人まで幅広い世代の仲間に働いてもらっています。お客様にとって価値のある製品づくりと、よりよい働き方の実現のために、社員それぞれの生活にあわせた柔軟な働き方を取り入れているのも弊社の特徴です。

私たちが今回のアワードへの応募動機も、若い社員の創造的な意欲をより喚起するとともに、ベテラン社員の技術を世の中のみなさんに知っていただきたいという思いがありました。

その上で今回のアワードでご縁をいただく方に期待をするのは、機械化が進む印刷技術において、シルクスクリーンがもつ手仕事の可能性を一緒に探っていただきたいという思いがひとつあります。

ーー粘着フィルム印刷はマーキングフィルムに印刷されるものだと思いますが、シルクスクリーン印刷自体はどのような素材に印刷が可能ですか?

シルクスクリーンは水と空気以外には印刷ができる技術です、とお客様にはよくお話をします。印刷にはナイロン等の化学繊維を張ったスクリーンと呼ばれる孔版(こうはん)を用います。スクリーンに専用の乳剤を塗布し感光させて文字や絵柄をつくり、スクリーンの上からインクを流し印刷物面に色や柄が表現されます。塗料につかうペースト次第で、金属、ガラス、紙、布、木材、プラスチックなど、すべての素材に印刷することができるのがシルクスクリーン印刷なんです。さらに現在では機能性をもったもの、印刷する塗料に必要な成分を混ぜることで、機能性をもたせることができ、例えばソーラーパネルのAgペースト印刷、プリント基板のパターンレジスト、ソルダーレジストなどの生産にも寄与しています。

ーー手仕事による部分もそうですが、どのようなところにシルクスクリーン印刷の魅力があるとお考えですか?

間口が広く、しかも奥深い技術であるところが魅力だと思います。CMYKでは色を重ねていくにしたがい、どうしても色がくすんでしまいます。

調色をしたペースト状のインクを版を使って印刷をするシルクスクリーン印刷では、インクジェット印刷とは比べものにならないくらい色の再現度があり、無限の色彩が調色できます。屋外看板に使われることからおわかりのように高耐久で、低コスト、量産に向いているところも魅力です。

■シルクスクリーン印刷で機能性を付与する

ーー御社では大判で、しかも平滑で膜厚のある印刷が可能とのことですが、膜厚とは印刷面の塗料の厚さのことですか?

はい。塗料を盛ることで生まれる印刷面の被膜の厚さのことです。印刷に使う孔版は、アルミの四角い枠に糸状のポリエステルやステンレスをテンションをかけて張ったものなのですが、1センチ四方に織り込まれた繊維のメッシュの細かさで、印刷面にのるインクを厚くしたり薄くしたりします。ちなみにその名の通り、昔はシルクの糸を使っていたそうです。そのメッシュには、インクの種類にもよりますが、通常250~330メッシュの範囲のものを使っていますが、膜厚をつくりたい場合には60メッシュという比較的粗目のものを使います。逆にセラミック基板などへの精密印刷には600メッシュという、向こう側が見えないくらいのステンレスの糸が編み込まれたものを使います。

ーー通常膜厚があるという場合の厚みはどのくらいになりますか?

通常シルクスクリーン印刷の膜厚は5~20ミクロンになります。それを例えばソーラーパネルの結晶系太陽電池の電極形成では、100ミクロンの極細の幅で200ミクロンの膜厚で印刷をするようなことがあります。それらの分野では、シルクスクリーン印刷技術はコストの面でも欠かせない技術となっています。

それと市販の塗料だけでなく、例えばペーストに木や金を混ぜれば、あたかも木や金のようなものを印刷することもできるのがシルクスクリーン印刷です。さらに膜厚をもたせることには、塗料の盛り方、その厚み次第で、テクスチャーや触り心地を生み出すこともできるという面白さがあります。印刷で「盛る」ということができるのがシルクスクリーンのすごいところで、それは他の印刷方法ではできないことです。

ーー膜厚のある印刷をすることのメリットは?

さきほどの触り心地であったり、厚みと光沢のある高級感にこだわった仕上げにすることができます。それとインクの厚みで光を遮ったり、隠蔽性が必要なものや場所に使われる機能性をもたせることができることでしょうか。

ーー膜厚を形成する際に技術的に難しいのはどのようなことですか?

版を重ねる際に、印刷して乾かし、また印刷をする際に同じところに、しかもむらなく平滑にインクを重ねていくのが難しいところです。

ーー技術的な難しさはともないますが、何回重ねていくことができるのですか?

弊社では版をあわせる技術を持っていますので、その分価格は上がりますが、可能な限り重ねることができます。コスト面でいえば、弊社の技術であれば、一度でより多くインクを盛る技術も持っています。他社に比べて同じ工程でもコストを低く抑えることができると思います。そのようにクオリティだけではない部分で技術で差がでるのもシルクスクリーンの世界の奥深さです。

■サステナブルな印刷で社会貢献

ーーシルクスクリーン印刷は身近なものですとTシャツなどで目にすることも多くあります。御社の大型シルクスクリーン印刷とはどの程度の大きさのものをいうのでしょうか?

1版で1250×3000mmの大きさの印刷面積での印刷が可能です。これは業界最大クラスの大きさになります。

ーー 一辺が3メートルの版など見たことがありませんでした……。しかもその版を使った印刷ができる設備もあるということですよね。

そうです。大きな印刷に対応するものですと、先ほどの1250×3000mmで印刷できる特大サイズの印刷機1台、マンモス印刷機が4台、印刷したものを乾燥させる乾燥炉もそろぞれの大きさに対応するものがあります。

ーー大判印刷の難しさはどんなところですか?

印刷もそうですが、大判の紙を扱うことにも熟練した技が必要です。紙を扱う世界でもトップクラスの技術力をもった職人がいる弊社の強みです。それと、皆さんが街中で毎日目にする屋外の看板などで使われているものですと、大きな版を分割し、10版ほどを使い大きな看板を製作することもあります。しかも一度では刷ることが出来ませんので、一色刷って乾かし、一色刷って乾かしを繰り返して一枚の絵をつくるのですが、その際版が少しでもズレるとモアレがでてしまいます。どんなに大きくても版と用紙を寸分違わずさし続けることができるのが、弊社の工場長の技であり、オペレーターの知識なのです。

ーー今回のデザインアワードへの応募動機、そして御社が現在抱えている課題と、それに対する問題意識を教えてください。

これまでOEMでのお仕事を通じて、貴重な技術を磨かせていただくことができました。それと平行して、長年培ってきたシルクスクリーンの技術を活かして何かできないかとずっと考えてきました。そのためにもこれまで私たちが接してこなかった分野のものづくりやそれに携わっている方々とご一緒してみたいと思ったのが応募のきっかけです。

先日携わらせていただく機会をいただいた、シルクスクリーン印刷の技術を応用した医療用機能性フィルムの製作や、新素材フィルムの試作をきっかけに、私たちの技術が看板や広告以外にも活用できるという思いを確信いたしました。

それと世界的にお墨付きをいただいている弊社の技を、ただの町工場の技術で終わらせたくない、あらためて見直したいという私自身の強い思いもありました。

コロナ禍になり世の中では真っ先に広告宣伝費が削られましたが、世の中の景気に左右されないものをつくるという、経営のもうひとつの柱をつくりたいという思いもあります。弊社でプライスリーダーとなる製品がひとつ開発することができれば、シルクスクリーン業界にとってもひとつの希望になるのではないかという思いもあります。

ーー今回のアワードにあたり、どのような人と出会ってみたいですか?

サステナブル、SDGs、持続可能がこれからますます重要になってくると考えています。印刷業というだけで環境に悪いと捉えられてしまいがちですが、サステナブルな塗料の開発などを通じて、これからの社会に貢献していきたいという思いも持っています。そのようなものづくりへの精神を共有していただける方と出会ってみたいです。

ーー今回のアワードにあたり、御社の数ある技術の中で特にどの部分に注目していただきたいですか?また、事業化にあたっての企業内の体制なども教えてください。

工場長は印刷だけではなく機械の直しもできるプロフェッショナルです。弊社の技術をみていただき、デザイナーの方には、どんなことでも構いませんのでご相談をいただければと思っています。

それと菅野は、シルクスクリーンだけではなく、印刷業界に長年携わり非常に知識が豊富ですので、印刷に関する前後の工程で例えばケミカルメーカーの力が必要でしたらそのコーディネートもできます。

営業課長の穂苅は今回のアワードで生まれたものを売り歩く意欲の高い人間です。しかも施工の技術も持っています。

私たちは今回ご一緒いただけるデザイナーさんたちのことも、私どもの社員たちと同じ仲間として大切にしながら、長いお付き合いをしていただける方をぜひお待ちしています。

司産業株式会社(板橋区)

テーマ:大型シルクスクリーン印刷による膜厚を出した平滑な大判フィルムの作成技術

企業HP:https://tsukasasangyo.com

各テーマの詳細はこちら:https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/#design_theme


インタビュー・写真:加藤孝司


2022年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 10月30日(日)まで
応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/

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