公益財団法人日本デザイン振興会 公益財団法人日本デザイン振興会

テーマ企業インタビュー:株式会社長谷萬

2021年度東京ビジネスデザインアワード

「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。

企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2021年度は、テーマ12件の発表をおこない、11月3日(水・祝)までデザイン提案を募集中です。本年度テーマに選ばれた12社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。


お話:執行役員 開発本部長 兼 商品開発部長 鈴木康史氏 開発本部 商品開発部 竹中アンナ氏

■持続可能な木質素材としてのDLTでのものづくり

木のプロフェッショナルとして、資材の調達から加工、建築施工、木製品販売までの一貫体制でものづくりをする。今回のテーマとなる木ダボ積層材「DLT」は、2020年度グッドデザイン賞も受賞。製造時に接着剤や釘不使用、木ダボのみで接合・積層されている100%木材から出来ている積層材である。サスティナブルな提案として普段使われない丸身や皮付材も材に使用し表情豊かな仕上がりにもできる。その活用の可能性について聞いた。

DLTのニュートラルな使いかた

 —創業の経緯を教えてください。

古くから木材の集積地として知られる東京木場に、当社創業者の長谷川萬治が100年前に創業した会社が発祥になります。建設業と木製品の販売事業を行う当社 株式会社長谷萬と、木材販売・加工業を行う長谷川萬治商店が、様々なプロジェクトで関わりあいながら木材に関わるビジネスを展開しています。

—今回のテーマが木ダボでつなげてつくるエコな「木質素材」ということで、御社のDLTについて教えてください。

木材を木ダボで縫って積層材にしたものを、DLT(Dowel Laminated Timber)といいます。Dowelとは英語で木ダボのことです。木質素材で名称に「LT(ラミネートティンバー)」がつく材は、DLT以外にもいくつかあります。CLT(Cross Laminated Timber)という木材を縦横に積層し接着したものや、製材を釘で接合し積層するNLT(Nail Laminated Timber)というものもあります。これら以外にも、製材を積層し接着剤で固めた集成材など、様々な木質素材が適材適所で使われています。木ダボは、木材に穴を開けて細い棒状の木材を差し込む技術ですが、家具の組み立てなどに使われ、自然発生的にいろいろな国で生まれて使われているオーソドックスな技術です。

木ダボを用いて木のパネルにするDLTの手法は、当社が発明したものではなく、もともとはヨーロッパで生まれた技術です。数年前、弊社代表がヨーロッパ視察の際にDLTを知り、これを日本にも広めていこうという思いを持ち、日本の状況に合わせて独自の技術開発を進め現在にいたります。

—それが何年前ですか?

約5年前になります。

—DLTを拝見して思ったのは、木の質感を感触や目に見えるかたちで生かしたユニークな部材だということです。

私たちがDLTに感じる魅力はいくつかありますが、ひとつには様々な表面デザインの木質素材が作れることや、大型の加工設備がなくてもつくれることです。少量多品種生産に合う木質素材なので、お客様やデザイナーのこだわりに対応も可能な素材です。また、丸身や皮付き材を、有効活用できる点も魅力です。木の丸い部分が入る丸身や皮付き材は、建材として使えないグレードの材として、最近では木を細かくした「チップ」に変えて使うことが多いのですが、DLTの場合、丸身や皮付き材を木のラフ感が表れた意匠として活用できます。

—ショールームには丸身や皮付き材を組み合わせたDLTで施工した壁がありますね。表情があってインテリアのいいアクセントにもなっていると思いました。

木材業界のなかでは低質材として見做されているものであっても、DLTにすることで、お客様やデザイナーの感性からは、表面意匠の一提案として受け取っていただけるのではと考えました。

—これは業界内の固定概念としてあったものを逆手にとった提案でもあるんですね。

はい、通常の平滑なDLTと並べてみると、木の丸い部分や均質でないかたちが、むしろ木材の自然な魅力をより引き立たせると思います。当社は木材業界の当たり前にとらわれずに当社なりに新しいことを提案していこうというカルチャーはあるかと思います。

生活のなかで活用するための選択肢を増やす

—先ほどお話にあった同じラミネートティンバーであるCLT,NLTと違って、DLTは木ダボを使って接合するということで、接着剤や釘を使用しないという利点もあると思いますが、その部分はどうお考えですか?

接着剤や釘を用いて集成した木材はもちろん優れたものです。私たちは日頃、無垢材のほか、集成材を多く使用しています。CLTやNLTも使います。ですがご提案の一つとして、接着剤を使わず木だけで積層したDLTがあることは、お客様にとっても選択肢が広がるという意味でもメリットがあると考えています。材木屋としては、適材適所で木質素材を使って頂きたいですね。

—ショールームでは天井、壁、床とインテリアのあらゆる部分にDLTが使われていますが、現状どのようなところに使われていますか?

このショールーム同様、建築物の部材として、床、屋根、壁面などに利用され始めています。近々、屋外でもDLTを使えるように、防腐処理を施したDLTを販売する予定です。あとDLTを一部の壁に用いた組み立て式の小屋をつくったことがあります。それと試験的にベンチ、家具など、活用方法を広げるトライをしていますが、もっと多様な可能性があると考えています。

—DLTにはどのような木材が使われていますか?

樹種は問わないのですが、杉やひのきなどの針葉樹を基本としています。DLTは材を50センチの厚さになるくらいの本数を並べて、横から一気に貫通穴を開け、そこに穴径よりやや太めの広葉樹製木ダボを強い力を加えて入れていきます。その際、針葉樹のもつ適度なやわらかさが広葉樹から作った木ダボでめり込むのに適しているので、針葉樹を用いています。杉もひのきも国内に潤沢にある木材なので、調達しやすさの点からもメインで用いています。

—ひとつひとつの材の大きさについて教えてください。

市場にふんだんに流通しており調達しやすい材の断面のサイズとしています。国産材ですと厚さは30mmや45mm、高さ方向のサイズは、105mmや120mmがメインとなります。北米の規格ですと、厚さは38mm、高さ方向のサイズは、89mmや140mmがメインとなります。市場にふんだんに流通している製材を使用しますと、比較的リーズナブルなコストで調達することができます。それ以外の、市場で流通していない断面サイズの場合、丸太の状態から製材業者さんにお願いして、特別なサイズで丸太から挽くことができます。専用サイズとなりますのでコスト的には割高になりますが、そうすることで自由な材の大きさのDLTをつくることも可能です。

—そう考えると流通しているサイズの木材でつくったDLTはつくりやすさ、価格面などでもメリットが大きいということですね。

流通サイズの材を用いたほうがコスト面では有利になると思います。

—DLTをつかってプロダクトなどをつくる際の参考にお聞きしたいのですが、DLTの規格サイズというものがございましたらそのサイズ感を教えてください。

DLT自体に規格サイズはありません。ただ、先ほどお伝えした木材の流通材を用いると、自ずと流通材のサイズに応じたDLTのサイズになります。厚みで言うと、105mmが最も多く、120mmもあります。105mmが多いのは、最近の在来工法住宅で用いられている基本のサイズだからです。それより薄くしたい場合は、木ダボの径が20mmを勘案して、当社では厚さ60mmまではできることを確認しています。それ以上薄くしたい場合は、特別な厚さの材を調達し、小さな径の木ダボを新たに調達する必要があります。その場合、どうしても材積あたりのコストは上がってきます。

材の長さは3mか4mが基本となります。これは住宅で特に用いられる部材の長さや、山から伐採する原木の長さからきています。特別な長さの原木を調達することも可能ですが、割高になります。 

多様性のある木の魅力をDLTで伝える

—DLTの展開も含めて現状の課題を教えてください。

当社は材木屋が発祥で建築業を営んでいるため、DLTを建材や家具として使うことは進めていますが、まだまだDLTの使い道には未知な部分が多く、可能性は大きいと考えています。

ですのでデザイナーの皆さんには、既成概念にとらわれずに、DLTの手法を用いて、木材を暮らしに幅広く使っていただけるアイデアを希望します。まだまだ私たちが気付いていない活用法があると思っています。そういった部分でデザイナーの皆さんがもつクリエイティブな力を使っていただいて、ぜひいろんなご提案をいただきたいと思っています。

—DLT材をそのまま使って例えばベンチやスツールなどの家具の材として用いることは想像できるのですが、通常木材に施す加工、例えばプリントや切削などを施すことも可能ですか?

通常の木材にできる加工とほぼ一緒です。塗装もできますし、手法によるかと思いますがプリント、長さにもよりますがレーザー加工、断面の加工で表情をつけることはできると思います。

—今回のアワードでものづくりをする上で、事前に考慮していただけると助かるということはありますか?

DLTには「木ダボ」と「製材」を用いるという前提があります。

「木ダボ」は木材から削り出してつくっていますので、製品がまっすぐであるという特徴があります。木ダボ自体がまっすぐでそれを横から貫通してDLTを作るものであるため、アール形状が続くフォルムをもったDLT製品は作れません。

「製材」に関しては、DLTが中小の製材事業者でも製造がしやすい木質素材という点をコンセプトの一つとしており、ある程度の材積で販売できるほうが、中小の製材事業者さんにとってはメリットがあると考えています。デザイナーの皆さんのアイデアに制約をもうけたくはないため、必ずしも材積が大きく無くても良いのですが、これらのDLTのコンセプトをふまえて頂き、将来的には国内の中小製材事業者さんが生産の一部に関われる製品に向けて、創造力を働かせていただけるとありがたいです。

—その部分は製品価格設定をどのラインを目指すかによって変わってきそうですね。

そう思います。それもデザイン的な付加価値によって変わってくると思いますので新しい発想を期待しています。

—強度に関してはいかがですか?

DLTの強度は木材の強度に従います。建築物の構造材として十分耐えられる強度をもつ木質素材ということでビジネス展開をしています。壁や床に用いる場合の強度の試験をしています。

DLTは、貫通穴に対して穴より太い木ダボをなかば無理に押し込んで嵌合させて固定していますので、あとから木ダボが抜けてバラバラになるということはありません。DLTは自然素材である木材を用いており手触りも風合いもよいです。木材ですので、室内の湿度を一定程度に保つ調湿効果はありますが、逆に人工の材料と違って湿度によって膨らんだり縮んだりするという特性があります。そのような木材の基本的な部分は考慮をしていただく必要はあります。

—鈴木さんが考えるDLTのユニークなところはどんなところですか?

私たち自身もDLTを面白がって使い方を模索しています。これまで木質素材は同じ樹種の木材を集めて作ることが基本ですが、DLTの場合、例えば、工場に残る使い道に困っていたようなデッドストックの木材や、多様な樹種でも、木ダボで束ねることでDLTにすることができます。DLTの組立て自体が、少数の作業チームでクラフト的につくりますので、多様な木材自体の個性を活かせるところがユニークなところだと思います。

—スクラップウッドみたいなものを活用して断面を変える個性的なものもつくることが可能ですね。

はい。極めてローテクな作り方なんです。通常の木材製品と違って、手作業部分が多くある木材製品ですので、多品種少量生産に向いています。デザイナーの方々と工場で実際に試行錯誤しながら、製造のトライアルが比較的簡単にできるところも面白いところかなと思います。

—木ダボで固定さえできれば金属など異素材を挟み込むことも可能ですか?

はい。異素材との組み合わせは試してことがあります。以前、塩ビ素材はトライしたことがあり、DLTにすることができました。

デザイン的には面白いのですが、木材以外を挟み込んだ途端に、廃棄時の捨て方が難しくなるという側面はどうしてもでてきてしまいます。DLTは木材のみからできているため、廃棄時の環境負荷が小さい特徴があります。それを打ち消してもプラスになる付加価値がデザインや提案にあれば、異素材を挟み込んでも良いと思います。

—それもメッセージ次第ということですね。燃やすことができたり、分解して再利用できるといったリサイクルを前提につくるのか、ヴィンテージ家具のようにものの状態で何百年も使ってもらえるデザインを目指すのか。

DLTのコンセプトや木質素材におけるポジションに照らして、どのようなメッセージを発信していくのかということもデザイナーの皆さんと一緒に考えていければと思っています。DLTのつくり方と、デザイナーの皆さんに考えていただくデザインとがうまく合致して、こんな木のつくり方使い方があるんだ、と感じて頂ける商品が生み出せれば嬉しいです。私たちは木のことをずっと考えていますので、今回巡り合うデザイナーさんとよい化学反応を起こしたいと思っています。

株式会社長谷萬 (江東区) https://www.haseman.co.jp

テーマ:木材を木ダボでつなげてつくるエコな「木質素材」

東京・木場で100年前に創業した材木屋が発祥。木材販売事業のほか、木材加工事業、建築事業、木製品販売事業を営んでおり、木に関する一貫体制が特徴。木材に関する長年のノウハウや技術力を活かし、開拓精神をもって様々な事業に挑戦し続けている。材木屋の立場から循環型資源の木材を有効に活用することが木材や森林を守ることにつながると考え、「木を守る。木を生かす。」をブランドスローガンとして掲げている。より多くの方に木の良さを知ってもらい、「木」のある暮らしを広げることを目的として、新たな挑戦に果敢に取り組んでいる。


インタビュー・写真:加藤 孝司

2021年度東京ビジネスデザインアワード
デザイン提案募集期間 113(水・祝)まで 

応募資格:国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用:無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください

https://www.tokyo-design.ne.jp/designer/ 

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