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「本屋の裏側」ツアー&トーク 第1回 文喫 開催レポート【文喫×リエゾンセンター・ライブラリー×月刊商店建築】

リエゾンセンター・ライブラリーは、東京ミッドタウン・デザインハブ内にオープンした不定期のデザインライブラリー。

過去と現在と未来を、街と人を、デザインでさまざな領域を「つなげる」がテーマのデザイン×ブックライブラリーです。


2020年は「本屋の裏側」ツアー&トークと題して、最新の商空間のデザインを専門とする月刊誌「商店建築」副編集長の車田創さんと一緒に、本屋という空間のつくり方、本を起点としたコミュニケーションのあり方を考える企画を実施します。



今回は、シリーズ第1弾として1月16日(木)に「文喫 六本木」の裏側をのぞきに行きました!

スピーカーは、「本のある場所のつくり方」にもご登壇いただいた、日本出版販売株式会社のブックディレクションブランドYOURS BOOK STOREの有地和毅さんです。


約30名の方にご参加いただき、前半は「文喫」のデザインにせまるトークを、後半は棚づくりをはじめとする店内の仕組みを解説するツアーを行いました。


ブックディレクターの仕事は「本を機能させること」

あゆみBOOKSで5年間書店員として働き、現在は大手出版取次の日販に籍を移して“本のある新しい場所”や“本と人との出会い”をつくっている有地さん。


入場料1,500円を払えば、コーヒーと煎茶がおかわり自由で、何時間でも滞在できる書店「文喫」のブックディレクションとコンセプトメイキングを担当されています。

学生時代から本や書店が好きで、「ポップをつけて並べる以外の見せ方があるのでは?」「自分ならではのアイデアを試しながら本屋をアップデートしたい!」と考えていたそう。


書籍や雑誌をただ置くだけでは手に取ってもらいづらいので、本を機能させるための仕組みづくりをすることがご自身の仕事だとおっしゃっていました。


これまでの本屋とは一線を画す「文喫」という場所ができるまで

本イベントの聞き手であり、雑誌の編集者として商空間デザインの情報を発信されている車田さん。やわらかな笑顔と声で場を和ませつつ、終始「これを聞きたかった!」とみなさんが頷くような質問を投げかけてくださいました。


車田:「文喫」は本屋でもあるし、お洒落なデートスポットでもあるし、他の書店では見られない光景が広がっていますよね。最初からこの形になることを想定していたのでしょうか?


有地:いいえ。ターゲットは絞るよりも、むしろ拡散する方向で考えていました。本を読みたい、作業をしたい、まちのなかに居場所がほしい等、それぞれの要望を持った人の使いやすさを整えつつ、どうすれば“既存の書店には行かないし、本好きでもないけれど読書をする人たち”に利用してもらえるのだろう? と模索しながらスタートしました。



車田:これまでにないコンセプトで店舗をつくる際に、関係者同士の認識のすり合わせが難しくなりそうですが、どのように進められましたか?


有地:まず「本と出会うための本屋」という大きな軸を立てて、雰囲気などの細かな点は運営しながらチューニングしていきました。

店内は、奥に進むにしたがって本との関係性が深まるようになっています。飲食スペースもありますが、「カフェ併設の本屋」ではなくて、あくまでも「本と向き合って吟味する体験を厚くするための仕掛け」のひとつなんです。本との出会いをゴールに設定していたので、認識や方向性が大きくずれることはなかったですね。



カフェやコンビニの複合型書店はすでに存在していたものの、本のある場所を継続するために幅広い視野で仕組みを考えたのだそう。有料に踏み切った理由も、入場料を払うことでお客さんの意識を切り替え「本と出会おう」とする能動的なモードにシフトさせるためなのだとか。

「どこを強調するかを決めることで、本のある場所に特色がでる」という言葉が印象的でした。


「検索」よりも「探索」。本と出会う過程のおもしろさを突きつめる

トークの後は、3万冊の本が並ぶ店内をめぐりながら「本を機能させる方法」について教えていただきました。入口付近は無料エリアになっていて、月替わりの展示や雑誌を自由に眺めることができます。



90種類もの雑誌が並ぶマガジンウォールは、棚をあけるとそのテーマに関連する書籍が入っています。雑誌のキーワードを抽象化して、思考のレイヤーを上げて選書をすることで、普通の検索ではたどり着かないような本との出会いをつくれるのだとか。



「単に本が欲しいならECサイトのほうが便利かもしれません。3万冊から1冊を探すって、すごく労力がかかるじゃないですか。リアルな場にわざわざ人が赴く意味を考えながら、これまでの書店とは違う役割を果たせるような工夫をしています」


有料エリアの本棚の前には、お題に沿った本がラフに平積みされています。

普通の書店であれば、新刊本がきれいに積み上がっていそうですが、文喫には同じ本は1冊もありません。まさに一期一会で、気になった本を手に取ると連想ゲームのようにして別の本と出会える仕組みになっています。



本棚のつくり方は「食文化」や「ファッション」などのジャンルごとに分かれています。ひとつのジャンルには必ず複数の担当をつけ、どのスタッフも複数のジャンルにまたがって選書を担当しているそう。気になる選書や棚づくりの基準ですが、担当した人のなかにその本がそこにあるロジックがあればいいとのこと!


「こういう意図があります、この本はここに置かれています、とあえて言わずに情報格差をつくることでスタッフとお客さんの間に会話がうまれるんですよ。そこからまた新たなアイデアやヒントを得られるので、説明するよりもコミュニケーションの回路をひらくことを意識しています」



攻めの姿勢で“本のある場所”をアップデートする

イベントの最後に有地さんは、「本はもっと役に立つものだし、あらゆるジャンルの空間や人や物と共存しやすい。従来の使い方のままではもったいないので、本が持つ機能や書店の役割を再構築していきたい」と話してくださいました。


今後はお酒と本を組み合わせたイベントや、スタッフとお客さんの境目をなくしていくような取り組みを実施されるそうです。本という静的なコンテンツを扱いながら、能動的に出会いやたのしみを提供する「文喫」の姿勢から学ぶことが数多くありました。


本屋の裏側をのぞかせてくださった「文喫」スタッフのみなさま、有地さん、丁寧にお話を引き出してくださった車田さん、そしてご参加いただいたみなさま、本当にありがとうございました!


商店建築2020年1月号では、以下の内容で特集が組まれています。

・デジタルテクノロジーは商空間デザインを変えるか

・人が集まる「居場所」としての複合書店&映画館

・これからは「コミュニケーション空間」の時代

「文喫」も取り上げられているので、気になった方はぜひ読んでみてくださいね。リエゾンセンター・ライブラリーの雑誌コーナーにも置いてあります!


▼リエゾンセンター・ライブラリーの開館情報はこちら

https://designhub.jp/exhibitions/5692/

▼蔵書一覧(リブライズ)はこちら

https://librize.com/jdp


登壇者プロフィール

有地 和毅(YOURS BOOK STORE ブックディレクター)

日本出版販売株式会社2016年入社。あゆみBOOKS小石川店にて小説家との書簡を店頭で公開する「#公開書簡フェア」、SNSユーザー参加型の棚「#音の本を読もう」を実施。書店店頭を活用した本によるブランディング企画担当を経て、2018年より現職。 ブックディレクターとして選書ディレクション、コンセプトメイキングに携わる。


車田 創(月刊『商店建築』副編集長)

1979年愛知県生まれ。2004年より月刊『商店建築』に所属。毎月の編集に携わると共に、増刊『Commercial Space Lighting』『good design cafe』や『GOOD DESIGN HOTEL』などを手掛ける。2017年2月より現職。

『商店建築』は、レストラン、ホテル、ファッションストアなど最新の空間デザインを豊富な写真で国内外に向けて発信する、1956年創刊のストアデザインの専門誌。

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