テーマ企業インタビュー:GRASSE TOKYO株式会社
2018年度東京ビジネスデザインアワード
「東京ビジネスデザインアワード」は、東京都内のものづくり中小企業と優れた課題解決力・提案力を併せ持つデザイナーとが協働することを目的とした、企業参加型のデザイン・事業提案コンペティションです。
企業の持つ「技術」や「素材」をテーマとして発表、そのテーマに対する企画から販売までの事業全体のデザイン提案を募ります。2018年度は、テーマ9件の発表をおこない、10月25日(木)までデザイン提案を募集中です。
本年度テーマに選ばれた9社へのインタビューをおこない、技術についてや本アワードに期待することなどをお聞きしました。
デザインで香りにプラスαの価値を。
お話:GRASSE TOKYO(グラーストウキョウ)株式会社 代表取締役社長 藤井省吾氏
OEMで幅広いワックス製品を手がける東洋工業株式会社が、上質な香りに特化し立ち上げたブランド「GRASSE TOKYO」。キャンドル、バスソルト、シャンプー、ボディスクラブ、OEMでアロマデュフューザーなど、香りを軸に商品を展開している。香水の都として世界的に知られるフランス南東部の都市グラースの香料メーカーとの関わりの中で、オリジナルレシピで製品を開発している。同社の代表で、アロマブレンドデザイナーであり、インストラクター、アロマセラピストの資格も持つ藤井省吾さんに、暮らしに豊かさをもたらす香りについて話を聞いた。
ブレンドの高い技術を生かした製品開発
ーーGRASSE TOKYOは2013年に東洋工業から新たなブランドとして設立されましたが、ブランドを立ち上げた経緯を教えてください。
それまでの取り組みから香り商品に関する市場のニーズは分かっていました。香りを突き詰めていくと、そのメッカともいえるフランスのグラース地方の香料メーカーさんと一緒に取り組みたいという思いが強くなりました。グラースの香料と日本メイドのプロダクトの品質を組み合わせたら、絶対にいいものが出来るだろうと確信を持つようになったのが、ブランド設立のきっかけでした。
ーーグラースの香料のどんなところが素晴らしいのですか?
やはり長年培ってきたものの奥深さに惹かれます。香料の種類を豊富にもっていますし、ブレンド技術のレベルが高い。これは感覚の問題でもあるのですが、世界中に香料を提供してきた歴史に魅力を感じます。
ーーGRASSE TOKYOのプロダクトに関してはフランスのグラースで作られた香料を使用しているのですか?
はい。ごく一部フランスにないものをのぞいて、すべてフランス産の香料になります。例えばレモンユーカリに関しては向こうにはないものですので、グラース以外から入れたものを使っています。
ーー御社では60〜80の精油からセレクトしたものをブレンドしてオリジナルの香りを作っているそうですが、香りのブレンドについて教えてください。
精油に関しては100以上の種類があるのですが、私としてはこれだけの数の精油があれば十分良いものが作れると思っています。また、稀少な精油は製品化するには逆に向いていない場合もあります。プロダクトを作るために精油を持っていますので、安定的に手に入りやすい精油を使うことも大切だと思います。
ーー扱うのは全て天然由来の精油になりますか?
普段、プロダクトに使う香りは天然の精油と香料を組み合わせて使っていますが、今回のビジネスデザインアワードでは天然の精油のみで作っていきたいと思っています。
ーー天然の精油と香料を組み合わせるのはなぜですか?
アロマの専門家として天然精油の良いところと香料の良いところを知っていて、それぞれの良い所取りが出来るためです。私が長年学んでいることは天然の精油に関することなのですが、100%天然の精油で香りをブレンドした商品はまだ作っていません。それは決して難しいことではないのですが、私にとってプラスαの価値としてデザインをのせていけるのはこのタイミングかなと思いました。エビデンスのある天然由来の精油を活用した製品作りに今回デザイナーの方と挑戦したいと思っています。このような機会をいただきましたので、デザインやクリエイティブな感性で皆さんと良いものを作っていきたいと思っています。
天然素材を生かした身体が喜ぶ香り
ーー天然香料と合成香料の優れているところをそれぞれ教えてください。
天然香料のいいところは、準合成香料には作り出せない身体にいいものを作ることができること。それと香りの深さを出せるのは植物性の香料です。皆さんが街なかや自然の中で身体が反応する心地よいと感じる香りのほとんどは、植物由来の天然香料だと思います。ですが天然の香料であるが故に人体に有害なものも中にはあります。準合成香料の良いところは身体に有害なものをすべて取り除いて作ることができることです。
ーーキャンドルの製造販売を手がける藤井さんがインストラクターとセラピストのライセンスを取得してまで作り上げたかった香りへの思いとはどのようなものでしょうか。
香りを突き詰めようと思ったのは、単純に香りが面白いと思ったからです。アロマには検定があって勉強の入口としてとても楽しくハマってしまったんですね(笑)。インストラクターのライセンスを取得したのも、教えたいと思ったからではなく、それを知らなければその先に行けないなと思ったからです。ですが、実際に教える立場になると、そこでの問題点や疑問が出てきてそれが製品を作る上での参考になります。だから今はインストラクターのライセンスをとっておいて良かったと思っています。セラピストの資格はとるつもりはなかったのですが、解剖生理学の勉強をしてみるとこれがまた深くて。それをやることでアロマがどうやって身体に影響してくるか分かるんです。
ーーそれは製品にどのように影響していますか?
日本ではアロマに関して効果効能がうたえないんですね。でもこれはフランスやベルギーなどでは認められていることで、実際に精油には効果効能はあるのです。今の日本ではうたうことは出来ませんが、知っていることでより良いものが作れると思っています。心地良いと感じるものと身体にとって良いものの両方の視点で商品が作れる環境にいるのかなと思っています。
ーーアロマの専門家であり、キャンドルの作り手である人って多いんですか?
おそらくいないのではと思っています(笑)。
ーーGRASSE TOKYOの現在のラインナップを教えてください。
ハンドクリーム、香水、シャンプー、コンディショナーなどベーシックなものから揃えて、香りで差別化をはかっています。そういった意味では香りのクオリティが弊社の特長なのですが、素材に関しても本当にこだわったものしか使っていません。身体にいらないものは使わないをコンセプトにしています。もちろん、商品として店舗で販売していただくには、店頭の室温ですぐに劣化してしまっては品質に問題があるので、品質が安定するような工夫はしています。商品としては使いやすくて身体にも優しく香りも良いというものを定番として出しています。
ーー香りってとても面白いですよね。ある香りを嗅ぐと昔の記憶がよみがえったり。人の記憶に結びついているのが香りのような気がします。
本当にそうなんです。香りって記憶と結びつく大切な手段だと思っています。良い香りは絶対に忘れません。だから香りを展開するうえでそこを大事にしたいと思っています。GRASSE TOKYOの商品は同じ香りで異なるアイテムを揃えています。同じ香りを展開するということは、例えばハンドクリームを気に入ってくださった方が同じ香りの別のアイテムを試してくれることに繋がっています。お気に入りの香りに包まれた生活を送ってもらいたいと思っています。
ーーアロマブレンド技術で応募された動機を教えてください。
私はアロマをブレンドして精油の魅力を引き出すことは出来るのですが、それを魅力的な形にするにはデザインの力が必要だと痛感しています。GRASSE TOKYOとしては、香りにプラスアルファの付加価値をつけられるような提案をしていただきたいなと考えています。記憶に結びつけたアイテムでもいいですし、新しいアプローチでの香りのブレンドにも興味があります。テーマとしては漠然としているかしれませんが、私が日々体験している、香りが混ざることの面白さや楽しさを何か形に出来ないかなと思っています。
ーー今回デザイナーの皆さんにどんなことを期待しますか?
香りはとても大きな可能性があるものだと思っています。プロダクトの形でも、香りだけで一人歩きさせても面白いものが出来ると思います。教育や人を癒すためのステージでも香りを活かすことができると思っています。色々な角度からの提案をいただけると嬉しいです。実際のものづくりも弊社の工房ですべて出来ますので、私どもも今回のアワードでいただいた提案には優先的に時間を使いたいと思っています。ぜひ良い提案をお待ちしています。
GRASSE TOKYO株式会社(江東区) http://grassetokyo.com
GRASSE TOKYOはドメスティックブランドとして、南フランス・グラースで調香された香りをもとに日本でアロマ・フレグランス商品を作っている。また、香粧品、アロマ雑貨の開発、商業施設やホールなどの空間デザインも行っている。
代表は、インテリア・雑貨・アパレルブランドのアロマブレンドデザインや(公社)日本アロマ環境協会 総合資格認定校の講師、アロマのレシピ監修も行う。
インタビューと写真:加藤孝司
2018年度東京ビジネスデザインアワード
応募資格 国内在住のデザイナー、プロデューサー、プランナーなど
応募費用 無料
詳細は公式ウェブサイトをご覧ください
https://www.tokyo-design.ne.jp/award.html