会長あいさつ
会長就任にあたり
公益財団法人日本デザイン振興会は、2011年6月1日に公益財団法人として新たに発足して以来、初代会長を永井一正が務めてまいりました。このほど、2013年4月1日をもって、川上元美が会長に就任いたしました。
公益財団法人日本デザイン振興会 会長
川上 元美
グッドデザイン賞をはじめとする公益財団法人日本デザイン振興会のデザインプロモーションのあゆみは、時代の変化とともにその手法や、めざす方向性も変化してきました。当初は産業の育成という観点から、日本の工業製品の力を高めていくことが主体であったのが、やがて文化的な面を含めて、環境全般を整えていくためのデザインという公共的な視点に立つようになりました。時代が成熟化すればデザインの範囲はおのずと広がります。利便性を追うばかりでなく、自然と共生しながら人々にとっての「幸せ感」を獲得していくことがデザインの役割となります。
一方で、人間の本体というものは時代を経ても変わりません。特に、東日本大震災を経験した私たちは、たどってきた道程を見つめ直し、ある意味で原点に立ち返る動きも見られるようになりました。地域性に根ざしたグローバリズムの追求、伝統に対するまなざしの再興など、デザインだけでなくさまざまな分野で起きていることは、あらゆる場面での異議申し立てであり、まさしく「日本のあり方」を再構築しようとする動きといえます。
こうした状況において、デザインのプロモーションが、デザインを発信する側と受容する側との橋渡しであるという基本的な役目を果たしていくうえで、いくつか重要なテーマがあると考えています。まず、各地域の産業や環境を整備していくための「ひとづくり」や「ことづくり」にデザインが関わることが重要になってきています。私もコンペの審査などを通じて各地の活動のお手伝いをしていますが、それぞれの想いを実現していくためのプロセスは地域により違いがあっても、良きリーダーが育っているところには可能性があると感じています。
次に、特に若い世代とデザインの関わり方があります。これまでの雇用関係の維持も難しくなる中で、日本でも若いデザイナーがセルフプロダクションへ挑む動きも見え始めました。さらに、産業における情報との関わりが飛躍的に高まる今日、さまざまなジャンルの人々が横に連繋し恊働することによる可能性は、日本のデザインを前進させるうえで希望となるものです。これらもなお模索が続いていますが、若い人々の仕事の仕方や考え方がどのように育まれ、新たな状況が生まれてくるのかに大いに関心があります。
そして、私たちが諸外国との交流や旅を通して、さまざまな生活や文化に実際に触れることで、ものごとやものが理解できるように、人々にそれらの背景にある思想や考え方をきっちりと伝えていくこと、バックボーンも含めてプロデュースしていくという姿勢が必要なのだろうとも考えています。
デザインのプロモーターとして、デザインの指針を見出し、社会へ提示することが日本デザイン振興会の務めです。ある種の倫理観や良識を、そして美意識を携えながら、本質からそれずに推進していく主体でありたいと思います。そして、これらの行動を通じて培われたグッドデザイン賞の理念を、躍進著しいアジア諸国をはじめとする世界へつなげ広げていく。こうした役割を展開していくうえで、特にエンドユーザーからの共感を得られることが大切です。昨今のユーザーの目は高度になっており、作り手よりもむしろ先を見据えている点が認められます。それに伴って産業のあり方も画一的なマス・インダストリーから、より「分衆」としての個の状況に即応した、オンデマンドな体制へと進化しつつあります。
一方、持続可能で豊かな社会を形成する上で,今日までの消費社会のリ・デザインが必要です。質の高いものを長く循環させる、使い回し使い込む精神を尊重する社会をめざして,エコロジーの問題や、省エネルギーを考慮したあらゆる環境に対する努力がなされてきましたが、未だその入口です。さらなる深化を得るためには、様々な産業や学問の領域の連繋や再編による全体的調和をめざした、新たな構造が求められます。これは日本の産業の先進性として導かれている部分でもあり、デザインが切り拓く真に豊穣な人間生活への可能性がそこに認められると考え、積極的な推進に務めてまいります。
